第67話『10組の語る意志 その1』
※食堂…
「──…みんな、夢があるんやな…」
一同の中で初めて語るのは、マーニだ。
それに、みんなも彼女を見る。
「私は、家族に認められたいんや!」
「家族…──シキヤズ先生みたいな?」
「そうなの、家族はね、私とママとパパと、弟が1人おるんよ…でも…──」
マーニの顔は少し落ち込んだようになった。
「実力がなくて、認めてもらえない…とか」
キサクが聞く。
「そうなの!でもね!」
だが、マーニは一同の誤解を解くように続ける。
「認めてもらえないっていっても、見放されてるわけやないで!」
「ああよかった!」
一同は皆胸を撫で下ろす。
「期待に応えたいってこと…?」
「そう!そうなんよ!」
アシュの訂正に指をさして、マーニは頷く。
「弟は魔法をうまくできるんやけど、私は全然ダメで…でも、パパとママは私に期待しとるねん…」
だが、他のみんなは優しく声をかけてくれる。
「…大丈夫だよ!シキヤズ先生が期待してるんだし」「きっと才能があるはず!」
「みんな…ありがと…」
涙を拭って、マーニはみんなに向き直った。
「──俺にもさ、夢があるんだ…」
「「アシュ…」」
意外にもアシュが手を挙げて、夢を語る。
いつも内気な彼が声をあげるとは、彼の本腰の入った覚悟が否応なく感じ取れた。
「俺は、魔物によって流行した新興病を治すために、医療魔法をマスターしたいんだ」
「新興病…?」
この世界の魔物の侵攻で、人類が受けてきた被害は、何も全てが被食というわけではなかった。
魔力をもった生物で厄介なのは、DNA組織が魔力と連結してしまうことで、体に異常が発し、ヒトには想像もできない有害ウイルスが発生てしまうことだ。
魔物による生態系の破壊には、これが強く起因していると言っていい。
「魔物には、独自のウイルスを持つやつがいて、そいつに噛まれたりすると、人間動物関係なく感染するんだ…」
「じゃあ、ゾンビ映画みたいになったりするんやろか…」
マーニが恐れるように挙手して質問する。
「今のところ、そういうのはないかな…?」
「はぁーっ、よかった」
一同そのやり取りに笑みがこぼれる。
だが、アシュはそこで表情を変える。
「でも、まだ発見されていないだけで、これから生まれる可能性もあるんだ…実際に、多くて1ヶ月に1つ2つのペースで、新しいウイルスが生まれてるんだ…」
「…それを、変えたいってことか…」
アシュは頷く。
「俺はその夢を、生まれて来て6年も願ってきた…」
「じゃあ、10歳のときから…」
「俺はその時から、魔物のデータやウイルスの科学までを網羅してきた…」
「「「すげえ…」」」
もはや一同が馬鹿と思えるほどに、アシュはなかなかの努力家であったことに、一同は驚嘆する。
だが、アシュはその反応を振り切って言う。
「しかし…俺には魔法の才能がない…でも努力はしてきた──俺が魔法のテキストを引いてたの見たろ」
初めて出会ったときのことだ。
あのときは、この10組によくガリ勉がいられたものだと思ったが、こうして話を交わしてみると、彼の葛藤がたびたびわかってきた。
「魔法の才能がないと、医療でもダメなんだ…だからこそ、この学園に入学したチャンスを、無駄にできない…」
「…」
だが、彼は俯いて、声を震わせて続ける。
「でも、ここにいるみんなを見てたら…そんな気もなぜか薄れてきたんだよ…」
「えっ…どうして」
突然の話の機転に驚く一同に、アシュは顔を上げて言う。
「だって、しょうがないだろ!」
「「「!?」」」
ずっと声の小さかった彼が、そうやってドスを効かせた大声をあげるのを、誰が想像できただろうか。
「こんな平和な空間…いるだけで気持ちが緩やかになってよ…学問も魔法もできたもんじゃないっ!」
「ちょっ…落ち着いてやよ」
キサクが優しい手で抑えようとするが、彼は意地でも続ける。
震えた声で、一歩間違えれば泣きじゃくりそうな調子で…。
「子供の頃からガリ勉だった俺に、友達がいたと思うか!こんな空間が欲しかったんだよ俺はよォ!」
「マジ抑えろや!」
ブレーキが効かなくなった滑走車のようなアシュに、キサクは止めに入ってみようとする。
だが、それを止めたのは、別の生徒の魂の叫びであった。
「──俺だってそうだよ!」
横を見ると、サルマが叫んでいた。
「俺にだって、子供のときからの夢があるんだよ!でもこのクラスに来て、どうでもよくなったんだよ!」
重要な志を語る3人目だ。
「俺にだって…変えられない意志があるんだ…──負けられないヤツがいるんだよ!」