第64話『テンカの鋭い目』
「魔法が使えるようになったぁああッ!?」
トレーニングの夜が明け、ヒロトは10組のクラスで、一同に魔法が使えるようになったことを伝えた。
「いや、まだ魔力の反応があったってだけで、実際はまだほとんど使えるようになったとは言えないんだけど…光を放つことくらいはできる」
「…魔法にそこまで早く慣れるとは…」
「やっぱ、鬼神のオーラを扱っとったからなんか…」
実際、ヒロトはオーラの扱いに慣れていたこともあって、魔法の飲み込みは早かった。
ラビットもニヤリとする速度で、ヒロトは成長を続けるのだった。
「そうだ。今日からテンカ先生の授業が始まるんだったか」
ヒロトがそういった瞬間、一同から急に活力が消え果てた。
「ああ…つうか…ちょっと怖えよ」
「筋肉痛を覚悟で受けろって言っとったし…」
「え…急に元気が無くなったな…」
そしてそれは、コウとキサクだけでないらしい。
「人って…ホントにこういうとき声出なくなるんだ…」
アシュは落ち着いた声をさらにドンヨリさせて言った。
「このまま地面に沈んでいきたい…」
サルマはそのまま溶けていきそうなほど脱力していた。
そしてマーニは、いつもの笑みなど影もなかった。
「今の気分で一気に痩せそうや…」
「そりゃ無理だろ」
「はいライン超え…」
ヒロトへのツッコミも、まるで元気がない様子であった。
──ガラッ…
ドアが静かに開く。
「…」
テンカだ。
教材も持たず、彼はポケットに手を突っ込んでやって来た。
そして、活力の抜けきったクラスを見て、テンカは…
「チッ…」
「「「!?」」」
そのクラスのムードは、たった1つの舌打ちによって確立された。
「「「おっ…おはようございますッッ」」」
今まで誰にも見せた事もないほどの勢いで立ち上がり、頭を下げる一同。
ただ1人を除いて…。
その場でただ一人、ヒロトだけが机に肘をついて座っていたのだ。
「──…」
テンカはヒロトを、鋭い眼光で睨む。
「何スか…」
ヒロトも、それに対抗するようにテンカを睨む。
こうして睨まれる覚えがなかった。
あちら側には、どうしてここまで睨んで来る理由があるのか。
「おい!ヒロト、何してんだっ」
ヒロトは忠告も聞かずにそうしていると、テンカはヒロトの方へと歩み寄ってきた。
静かな時間の中、テンカはついにヒロトの目の前にやって来た。
「(思ったより…でけぇな…)」
相手との身長は、さして変わらぬはずであった。だが、その威圧が強いためか、少しデカく見えたのだ。
「フッ…目だけは立派だが、中身はすっかりもぬけの殻か」
「は…?」
ヒロトは怪訝そうな表情でテンカを見つめる。
「腑抜けたって意味だ…オーラの力とやらが無くなって、お前の戦いの実力はすっかり腑抜けた」
「…ああ、だから俺は、魔法で巻き返す。オーラがいずれ、再び目覚めると信じてな…」
「…そうか──」
そこからテンカは、横を見る。
「…?」
「バーギラとかいったな…一応魔力の反応はあったらしいからな…これから1人の人間として生きていくためにも、しっかりやるからな…」
「…」
「“はい”だ」
「…はい」
そして、テンカは再び教卓へと戻り、ひとつ演説をする。
「まず初めに言っておく。テメェらみたいな、何もできないようなクズどもに、この学園に居られる場所はねぇ」
「「「!!?」」」
「く…クズ…」
容赦のないその一言に、一同は絶句する。
バーギラも、テンカの放った一言の意味は、一同の反応で察したらしい。
「この10組は、実力の無や失敗を言い訳に、夢を諦めるようなクズばっかりだ」
返す言葉も見つからない…──というよりも、このテンカが何を伝えるつもりなのか、理解が追いつかなかった。
「な…何だよ、一体なんの話をしてるんだアンタは」
ヒロトはわけがわからないと、テンカにそう声をあげる。
すると、テンカはヒロトの方を向き、舌打ちをしてにじり寄った。
「わかんねぇのか…?なら教えてやるよ…」
テンカは再びヒロトの前にやって来て、その顔を直前に持ってきた。
机に手をバンと叩きつける。
「このクラスに残っている奴ら全員の、平和ボケした信念を叩き直してやる!」
「ッ!?」
「お前も含めた話だ!弥上ヒロト!」
ただならぬ威圧だった。
これほどまでに鋭い睨みは、今までにない。
そしてその目には、どこまでも強い信念があった。
「ここにいるクズ連中ども、今から言うこと全て聞いとけやッ!!」
テンカは、教室中に声を響かせる。
一同は、ヒロト、バーギラも含めて全員が、驚いた表情であった。
「テメェら!全員!──」
叫ぶたびに、ヒロトの机、バーギラの机と、次々と生徒たちの机を叩いて回る。
「志も忘れッ!」
──バンッ!
サルマの机を、大きな音を立てて叩く。
「平和な学園生活に呆けたッ!」
──ガシッ!
アシュの机が、蹴り上げられる。
「挫折も知らないッ!」
──ガダッ!
マーニの机は、遠くへ投げられる。
「努力もしないッ!」
──バガスッ
キサクの机が、地面に叩きつけられる。
「クズどもなんだよッ!」
──ガシンッ!
コウの机も、後ろに投げ飛ばされ…──
…いざクラスのみんなを見ると、一同は戦慄していた。
「よく覚えとけ!」
ヒロトとバーギラ以外は、全員啜り泣き、そこに崩折れるのであった。
バーギラも、その光景に言葉を失う。
「…ッ」
そして、ヒロトは歯をきしりながら、立ち上がるのだった。
「おい…ッ!クソ野郎!」
「…あ?」
「訳わかんねぇことばっか言って、仲間泣かしてんじゃねぇぞ…──ああッ!!」
ヒロトも立ち上がって、テンカを睨んだ。
「ほう…ケンカか…」
テンカはヒロトを見てニヤリとする。
みんなも、涙に濡れた表情でヒロトを見る。
「黙って買えやアッ!!」
「威勢が良い奴だ…」
テンカは首をならして、余裕そうに戦いに備えた。
「たっぷり教育してやるよ…弥上ヒロト!」