第63話『邪悪な魔力の反応』
「強く邪悪な魔力…?マーシーと名乗るその少年が、そいつと合流した…」
シキヤズはそれを踏まえて推理する。
会議室内の空気は、ピリピリとし始める。
そこで、はじめて語るのは、バウンサーだ。
「以前おきた、この学園における魔物の発生との関係性があるとも考えていいんですよね」
思いつきでそう言ったのだろう。
だが、リズレはそれに首肯した。
「その可能性はあるね」
「…!」
「どうしてそう思うんです?」
「以前学園にやって来たかの者の魔力の反応は、今回の反応とも似ていた」
「なら…」
「ああ、同一人物である可能性は高い」
森で現れた、危険レベル15の魔物たち。中には20を優に越すものもいた。
学園に現れた魔物のレベルを考えても辻褄が合う。
「で、その後はどうだ?」
「?」
テンカから質問が飛んでくる。
「そいつらの合流後の動きだ」
「…なるほど、テンカはやはり鋭いな」
一同は、リズレがテンカを見つめるのを、また驚く様子で見つめる。
「2点の魔力は合流後、ほぼ同時に西の方角へ消えていった」
「なるほどな…じゃあ、そいつらは同じ仲間で確定か…」
とても冴えた推理だった。
だが、テンカはさらに質問をする。
「西の方角には何がある」
「何もない…ただ岩が連なる荒野が、広がっているだけだよ」
「荒野か…行方を眩ますには上出来だな…──その後の反応は追えたのか?」
だが、リズレはその質問には眉をひそめた。
「残念だができなかった…」
「…!どういうことだ、お前が魔法の反応を逃したのか」
「…いや、少し違う。この話は言い訳ではないんだ、みんな聞いてほしい」
リズレは一同の視線を浴びながら、驚きのことを口にする。
「魔力の反応が、急に途絶えたんだ…」
「何っ…」「「「!!」」」
「そう…高ランク魔術、魔力不出…魔力の放出を完全にシャットアウトする高度なテクニックだ」
「…それを、少年マーシーやそいつが使えるっての!?」
「ちょっと落ち着いてグンメティ!」
あまりの驚きで立ち上がるグンメティを、ワンターマが座らせる。
だが、そう驚くのも無理はない。マジカハイドは、カリンですら使えないほどだ。
「ソイツら…そこまでの実力が…しかも、敵の味方はマーシーだけとは限らないしな…」
ガンダーも流石に笑みが消える。
「それに、邪悪な魔力の反応は、ボクがヤツを見つけた30秒後に消えた…つまり、ヤツはボクの偵察に気づいていた可能性がある」
「何ということだ…」
「私たち教職員とも、引けを取らない実力ってわけね…」
テンカとワンターマは、そう言ってからため息をついた。
「魔物の生成は重罪だ…同時に、レベルの高い魔物となると難度はさらに跳ね上がる」
「そいつは、絶大な魔力を持っている…レベル40以上の魔物も生み出せるかも…」
ガンダーとグンメティがそう言う。
「早めに手を打たないと…」
「そうだね…」
──目を閉じるリズレの頭の中には、一人の少女が浮かんでいた。
「2年前、同様の事件があったのを、忘れたとは言えまい」
「「「…」」」
他も、同じく少女が脳裏に浮かぶ。
「ムーン家における魔物襲撃か…」
忘れるはずもない、寝込みを襲われたとはいえ、そこに現れた魔物は、ラビットの両親や召使いを悉く殺していったという、残虐な話である。
「ラビット君の両親は、私たち教員と引けをとらない実力を持っている…だが、寝込みを襲われれば…」
リズレは気の毒そうにそう言う。
「ラビットさんを思うと、よくあの場から生き残れましたよね…」
「確かにそうだ」
ミラード、シキヤズが率直に語る。
「ボクはラビット君の救助に関わったが、そこには危険レベル35の魔物がいた…寝静まったムーン家を滅ぼすには十分なレベルだ…」
「…そこまでの魔物を生み出せる者は、今のところ一人しか想像できませんよ…」
「だが、そう決めつけるのも早いかもね…ルキャミス…」
「え?」
ルキャミスは呆気にとられる。
リズレは、不思議そうな表情でこう言うのだった。
「ボクはそこで、何か巨大なモノをみた気がしたんだ…炎の中でうまく見えなかったが、人の形をしたソイツは、ボクが発見した直後、消えていったんだ」
「「「…?」」」
ヒト型の巨大な消えていったモノ…──その情報は、教員たちにさらなる疑問を植え付けるのだった。
魔物の人為的な増殖は、人を何人も殺してきた。
さらに、人為的な増殖を行う者は確かに存在し、恐るべき実力を秘めているのだ。
そして、それは今でも…。
「…この会議はここで閉めることとする、引き続き生徒への教育にあたれ!」
「「「ありがとうございました」」」
一同すばやく解散したあとも、リズレを含む教員たちはわからないことが多すぎた。
※2年前…
燃える屋敷…──。
一人の少女は屋敷を走り抜け、外へと飛び出そうとした。
ただ脳内に響く声だけを頼りに走る。
そして、ようやく外へ出た。
「やっと…外…!」
だが、少女は外に出た後、何やら謎の人影と鉢合わせる。
少女と同じ年の少年のような、そんな身長であった。
顔は見えない。だが、声は聞こえる。
「ハハハっ、この学園の家だね?」
「!?」
少女がその声を聞いたその時、彼女の心奥底から熱い何かが込み上がってきた。
この少年への睨みが解けない。呼吸が荒くなる。
怒りが、少女の全てを支配した。
「お前が…──」
「…ん?」
少女は震えた声で、少年に口を開く。
「お前が…殺したッ!わたくしの両親を…!!うぉおあああッッ!」
その目に涙すら浮かべつつ、手に渾身の魔力をためた彼女は、少年に襲いかかった。
「フフッ…その目、素晴らしいね」
だが、少年は少女を睨む。
すると、彼女の体から一気に力が抜けてしまった。
対抗する力はないはずだが、少女はそれでもなお少年を睨みつける。
「キサマァあ…ッ!!」
想像を絶する怨嗟を孕んだ鋭い睨み。
だが、少年はそれを嘲笑う。
「フフッ…フハハハハハハッ!」
その少年の背後から、何かが飛び出す。
『ゴハハハハハッ!!』
──巨大な…
※
「はっ…!」
ラビットは、そこでベッドから飛び起きる。
このような悪夢にうなされるなど、当分はなかったはずだった…。
「くっ…」
体中を駆け巡る悪寒、鳥肌が立っているというのを確実に実感できる。
だが、体は汗でぐっしょりであった。
「はあっ…はアっ…!?」
過呼吸のあまり、気が狂いそうになる。
何とか堪えるため、ラビットは腕で体を締め付けるのだった。