第62話『ヒロトからの魔力』
「今頃、ヒロトくんは魔法の才能の開花に気づいているだろうね☆」
職員会議に場面は転化され、リズレはそう言う。
「医師によれば、鬼神のオーラの無くなった彼からは、魔力の反応があったらしくてね。カリン君には伝えておいたので、それを彼女がヒロト君に伝えて、今頃彼は驚いてるだろう」
そこにいる、リズレを除く一同は驚く。
そして、解消されない疑問に頭を悩ますのだった。
「とは言っても、どうして急に…」
ミラードは腕を組み、熟考する。
「以前学園長は、弥上ヒロトは魔法の無い世界で生まれ育った人間だと…」
「もし仮にそれが本当だとして、それはクレアさんとも同じ事象だと考えられるが…」
ワンターマがそう呟くと、シキヤズもそう応答した。
そして、それに不機嫌そうな顔をする者が一人。
一同の視線が彼に集まる。
「…チッ」
一人不機嫌そうな彼──テンカは、舌打ちをして目を閉じるのだった。
「弥上ヒロト…っつたかソイツ」
「…気になるのかい?」
「ああ…俺にとっては、気になって仕方がねぇんだよ…」
※
「これは…魔力の反応だってのか…」
ヒロトは、驚きを堪えながらカリンに質問する。
「ええ…間違いなく、あなたから感知された魔力ですよ」
「なぜ…今頃になってこんなことが…」
ヒロトは脳漿を絞って考える。
だが、そんなヒロトにも真っ先に嬉しそうに言うのが、クレアであった。
「でも良かったですね!ヒロト君!」
「えっ?」
「魔力の反応があったってことは、魔法が使えるってことですよっ?」
「…!確かにそうだ…」
ヒロトはそれに頷く。
そして、その現象に目を見張る者がいた。
「…緑色の発光ですか」
ラビットである。
「すごいのか!緑色は」
「ええ、魔力の素質でなら、15段階で上から10のクラスです!」
「お前は何色?」
「薄紫です」
「どれくらいのクラスだ?」
「上から6番目です」
「俺よりすげえ優秀じゃねえかイヤミかお前」
「急にキレないでくださいよ…──といっても、魔力の素質は一応上げれますから安心してください」
「おお!」
ヒロトの表情に期待が現れる。
「半年くらいきっちり修行すれば、一つ上の黄緑に通達するはずですよ」
「…」
…浅はかな期待だったようだ。
「私ら生徒会も全くわからんことや」
メイプルもそう言うが、ヒロトは笑って言う。
「…まあいい。これから魔法の才能を極めれば、オーラに取って代えられるしな」
「…確かにそうやが…」
メイプルがそう言いかけ、ヒロトはそこで少し眉根をひそめる。
「お前と極めてきたオーラを失うってのは…当然イヤだけどさ…それでも、いつかは力は戻るって信じてんだよ」
「ヒロト…」
メイプルは、そこで初めてヒロトに少し穏やかな笑みを見せた。
「その間は、俺の魔法のコーチになってくれや」
「もちろんや。鬼神のオーラの扱いがうまくできるんやから、きっと大丈夫やで」
珍しく優しいメイプルを意外に思いつつ、ヒロトはここにいる一同とともに、魔法の修行に励むのだった。
※コウの部屋にて…
「「「…」」」
「?」
コウ、キサク、マーニ、サルマ、アシュは、一人どこか浮いている様子のバーギラを見ていた。
「えっと…名前は何ていうんや?」
「バーギラ」
マーニの質問に、バーギラは答える。
「何で、この学園に?」
「わからない…」
「魔法の才能は…?」
「わからない…」
「「「なんなんだ…」」」
まるで生まれたての子供のような少女に、一同は首を傾げて顔を合わせあった。
「好きなことはあるの?」
サルマの質問に、バーギラははじめてちゃんとした返答をする。
「…たたかうこと」
「「戦う…?」」
不思議そうなキサクとアシュは、顔を見合わせた。
アシュはさらに質問する。
「どんなヤツと?」
「…魔物」
「「「!」」」
一同は驚く。
こんなに穏やかな少女が魔物と戦うなど、想像もできない。
「ヒロトが連れている女の子とはわかってたけど、お前まじでヒロトみたいだな」
「ヒロトはおんじん…ラビットも…」
「ラビットさんとも関係もってたのかーっ」
コウはでこを押さえ驚く。
「そう…ヒロトはおんじん…わたしをまもってくれた」
バーギラは、ヒロトの話をすると、目の色が変わる。
「わたしのかあさんが、つよいてきにころされたとわかった、ヒロトはおこって…てきにたちむかった」
語彙が少なくとも、ヒトの言葉を絞り出し、真摯に口を動かすバーギラに、一同は思わず聞き入ってしまう。
「ヒロトは…つよくて…やさしい…」
バーギラの表情に、笑みが顕れる。
「それと…──」
「「「…?」」」
付け加えて言おうとするバーギラに、一同は耳を傾ける。
「チン○が大きい…」
一同はすっかり反応が別れた。
笑いを堪える者、堪えきれず笑う者、目頭を押さえるもの。
だが、脳が活動を停止したかのように、反応が無くなった者は1人だけであった。
「え…?」
マーニは困惑した様子を強く顕すでもなく、もはや「え?」を連発するロボットになっていた。
「そ…それってどんくらいデカいんww」
「私の顔より大きい」
「アハハハッww」
「もうやめろってホンマに!?」
※会議室
リズレは全てを知っていたように一同に語り終えてみせた。
「と…ヒロトくんには、再び戦うための力が与えられているわけだね☆」
「…でも腑に落ちないですよ」
「ん?」
異を唱えるのは、ニュイェール。
「オーラが消えたことが、彼が魔法に目覚めた理由になるとは考えられませんが…」
「まあそうだろうね…──だけど、僕が思うには…」
リズレは人差し指を立てて、自分の推測を語る。
「あちらの世界からこちらに引っ張られたという時点で、ヒロト君には魔力はあったんだろうね」
「クレアさんとも同じように?」
「ああそうだとも」
途中から割ってきたグンメティも、それで納得がいったらしい。
納得がいったと言っても、理解の及ばない事象の中で、はじめて筋の通った意見が出たことに驚いただけであったが…。
「ここから考えたところで、結局はダメかもですね」
ガンダーが笑いながら言い、一同もそれに同意するのだった。
「まあ、過程はどうでもいい…ヒロト君は魔法を使える見込みが立ったというだけだからね」
シキヤズとルキャミスも、それに頷く。
テンカもその通りの反応をするが、それをさらに変えるのが、次のリズレの発言であった。
「それでは、最後の議題だ…──一昨日の事件についてね」
「「「…」」」
会議室の空気が、突如重たくなった。
「ヒロト君と戦った末に逃げた敵、マーシーの魔力の反応を辿ると、その魔力は他にもう一つの反応と接触したんだ。今までに見たこともない程に、強く、邪悪な魔力にね」