第62話『トレーニングへ』
ヒロト、ラビット、クレアの3人は、生徒会らの待つジムに進むのだった。
ラビットとクレアは、まるでヒロトを囲うように並んでおり、彼はどこか窮屈そうにしていた。
「なんか距離近くね?俺ら」
「「気のせいですよ?」」
その2つの声は、お互いに別々のニュアンスがあるように思えた。
左隣のクレアからは、まるで天使のような愛を感じるが、左隣からは…──
「やはり…真の愛には勝てないのですね…フフッ」
自嘲のような笑い声とともに、鋭い視線がヒロトとクレアを睨んでいた。
「どうしたの?ヒロト君」
「いや…何も」
「な…なあ、ラビット」
「…何です?」
ヒロトに呼ばれ、振り向いてくるラビット。
「バーギラはどうした…?」
「…」
「…え?」
謎の沈黙がやって来る。
「はぁーっ…」
「えっ?」
「あなたの10組の仲良しの部屋に送りましたよ」
「よ…よかった」
※
「来たわね…──ん?」
やってきた3人に、生徒会らの中からカリンが反応する。
だが、クレアを目にして首を傾げる。
「クレアさん…でしたよね、どうしてこちらに?」
その質問には、ヒロトがクレアの肩に手を置いて答える。
「俺の修行をひと目見たいんだと。アンタの許可さえ下りればいいだろ?」
「ええ…まあ」
カリンはヒロトとクレアから目を逸らし、ラビットを見る。
「え?」
ヒロトもそれにつられ、ラビットを見る。
なんだかご立腹のように見えるが…。
「…はぁ…」
ため息をつくカリン。
何の意を込めたため息なのかわからないが、今見た感じのこの3人の関係性に、何かアクを感じたらしい。
「ちょっと面倒な局面ね…」
「え?」
「いいえ、何でもないわ」
「や…やっぱり、私ここにいちゃダメですか?」
そのようなわからない様子のカリンに、クレアは心配そうに言う。
「いいえ?大丈夫ですよ」
「…?」
カリンは微笑んでいたが、クレアは彼女の本心にどこか意味不明瞭そうであった。
「まあええやろ、このクレアっちゅうんはいたほうが都合がええかも知らんしな」
「俺らも反対はしないッスけど」
メイプルにピースが続いて言う。
他も反対意見はない。
「君も、ヒロト君の師匠として頑張ってもらうわね」
「え…?」
含みのある言い方にクレアは首をかしげつつ、ここに残ることになるのだった。
「──じゃあ、これを」
カリンは、ヒロトに小さな鉱石を渡す。
見覚えのある代物だ。
「これって…」
「そう、魔力に反応する石です」
ヒロトが以前これを触ったときは、反応など一切無かった。
「なぜ、今更これを…?」
「いいからいいから!」
ラビットが質問するが、カリンはそのままヒロトに押し切って石を渡す。
「何でわざわざ…こんなことして──」
…何になるのか、そう思っていた。
だが、その時変化が訪れる。
「…!ヒロトさん!」
ラビットとクレアが驚いたように言う。
「ど…どうした!」
「石が!」
驚く二人と対象的に、カリンの表情には笑みが見えていた。
ヒロトは手に握られる石をひと目見る。
「!?何だこれ…!」
石は、緑色の光を放っていた。
「計算どおりね…」
カリンは、その笑みにさらに楽しみをたたえるのだった。