第05話『クラスメイト達』
──ヒロト、コウ、キサクは自己紹介の他、目立った人物を上げるなら…──
「──俺はサルマ!俺は、この学校で一番男らしいやつになる男だぜ!」
彼が目立っていた理由──それは彼が声高に放った特徴的な自己紹介でもあったが、彼の見た目も態度も、完全に中学生であったことでもあるだろう。
それに疑念を覚えたヒロトは思わずこぼす。
「ここって子どもも通えるのか…」
何気ない一言が、サルマの心を傷つけた。
「ちげえし!俺16歳だもん!」
サルマは涙目になりつつ大声をあげた。
「──…アシュ」
その青年は、むつかしそうな魔導書のページをめくりながら名前だけを言った。
目立たなさそうな彼に、キサクは声をかけた。
「それ、どんな本なん?」
それを聞いて、アシュは本の表紙を見せた。
「…役立つ生活用魔法」
それを聞いて、クラス全員がズコーッとひっくり返った。
そして最後の三人目は、中でも誰よりも目立っていた。
「──マーニ=H·サンブルームっちゅうんや!今は10組やけど、今後誰にも負けへんくらいの魔法使いなるからよろしゅうなー!」
笑顔をふりまく、元気で無邪気な彼女は全名を言った。
その明るさには、彼女の話が夢物語だとしても、その笑顔に免じて拍手を送らせるほどの強いエナジーがあった。
コウとキサクを含めたほとんどの生徒が、彼女のパッションに甘々であった。
一人を除いて…──
「馬鹿馬鹿しい…現実みろよ」
ヒロトの一言に場の空気は、温暖な向日葵畑から、突然氷山の頂上へとワープしたようになった。
マーニはあんぐりとしながら激怒した。
コウとキサクは、「謝って!謝って!」とヒロトに顔を青くして言う。
「おい!お前ライン越えたな!」
怒った彼女は、全く怖くはなかったが、顔はすでに真っ赤だった。
「ふっ…」
「もう許さん!」
ヒロトが続けざまに嘲笑すると、マーニは大噴火した。
「ああまずいことになった!今日は解散だ!寮は西にある!早めに向かってくれ!」
教師は事態の悪化を恐れ、全員を寮へと催促した。
※寮に向かう途中…
コウとキサクは、ヒロトに先程のことを聞いた。
「何やったんやあれ!」
「マーニめっちゃ怒ってたんだけど…まずくね?あれ」
ヒロトは笑っていた。
「でも明日には忘れてそうじゃね?」
「まあそんな気もしてきたけど…ってそうやないわ!何であんなこと言うたんや!」
「…──」
ヒロトは、キサクの質問に、少し黙ってから答えた。
「あいつも10組で落ちこぼれの身なのに、やけに夢ばっかりで、現実なんか見ちゃいねえ。俺はああいうやつらが大っ嫌いなんだよ」
「ヒロト…」
ヒロトの表情は、すこし陰りを帯びていた。
二人は不思議そうに顔を見合わせるのだった。
※
「097…ここか」
ヒロトは渡された鍵に書かれた番号の寮の自分の部屋に入った。
新居のマンションのように、部屋は清潔だった。
「そうか俺の独り占めか…やったぜ」
ヒロトは部屋を見てまわる。
大広間と多少のベッドスペースがありつつ、シャワーなども全て貸し切りだという。
「かなり上の方だからな…外の様子も」
窓のカーテンを開けると、大きな街が視界いっぱいに広がった。
欧州あたりの先進国というところか…──それでも、ヒロトには身寄りがありそうにない。寮があるというのは非常に助かる。
「シャワーでも浴びるか…」
ヒロトは自分のブレザーを脱いで、シャワールームのカーテンを開けた。
──がらっ
「…──え?」
ヒロトがカーテンを開けると、そこには意外な光景があった。
「…え?」
「…」
一人の少女の、濡れた裸体。
胸は慎ましかったが、その体は細く引き締まっていた。
「…あなたが変態だとは、わたくしは思いもしませんでしたね」
この部屋は、ヒロトの独り占めだったはずだ。
それなのに、なぜ人がいる。…しかも、よりにもよってなぜこいつがいる。
「…あなただけは、絶対に、退学まで、いいえ裁判まで追い込みます」
ラビットは冷めた涙目で、ヒロトを睨んだ。