第58話『はじめてのともだち』
──2人が匂いを感じ取った先…学園の中庭では、3人の少女が昼休みを満喫していた。
3人のうちおっとりした少女は、クッキーがたくさん入ったバスケットを2人に見せた。
「昨日私が作ってんなーこれ」
「おー、美味しそう!」
「トコちゃんこれ作ったの?」
それに嬉しそうに反応するのは、赤い髪の少し知的そうな少女、そしてもう1人反応するのは、青い清涼な髪色の慎ましやかな少女だ。
赤い髪の少女がアンリーナ、青い髪の少女がリゼレスタ、おっとりした少女はトコヌイ。
仲の良さそうな3人は、ティータイムと洒落込んでいたが、リゼレスタが何かに気づく。
「…あれ?」
「「?」」
彼女らの様子を木の影から眺める、バーギラの姿だ。
「だれだろ…知り合い?」
「知らへんなぁ…」
3人は彼女が気になって仕方がないようだ。
なぜこちらを見ているのか。
「もしかして…」
アンリーナがクッキーを上げ下げすると、彼女はそれに合わせて視界を動かす。
「何か愛嬌が湧いてきた…」
「どうしよう、呼ぼうかな」
「呼ぼうや、かわええやん」
トコヌイがバーギラに手招きをすると、彼女はテクテクとこちらに歩いてやって来る。
彼女の前にバスケットを差し出すと、彼女は一枚をつまんで口に放り込む。
そして彼女は、感激したように言う。
「おいしい…はじめてたべた」
「クッキーをはじめてたべたって…」
「変わった人…──あなた、名前は?」
アンリーナの質問に、バーギラは答える。
「…バーギラ」
「珍しい名前やなぁ…何か好きなモンとかあるん」
それに、バーギラは考える。
好きな物と言われると、何だろう。
人間の世界に触れて間もない彼女にとって、答えはすぐには出ない様子だ。
森で出会ったヒロトだろうか…ラビットもそうだが、彼女にとっては命の恩人だ。
「ヒロトと…ラビット」
「「「ヒロト…?」」」
ムーン家のラビットは知っている。なぜ彼女を好きというのか理由がはっきりしはしないが、ヒロトというのは誰だろう。
だが、そこでリゼレスタが感づく。
「もしかして、10組の鬼神のオーラの人…?」
「ああ、メイプルさんと戦った!」
「理由とかあるん?」
バーギラは、その目に光を差して3人に語りだす。
「ラビットは、わたしをここでくらせるようにがんばってくれた。ヒロトはわたしがあぶないと、あかいオーラでたすけてくれた!」
「恩人なの…?」
「おんじん…ってなに?」
「子供みたいやなぁ──自分に優しいことしてくれたモンを、ありがたい気持ちでそう呼ぶんや」
バーギラは、そこで覚えた言葉を心に刻む。
「わかった…ヒロトとラビットは、オンジン」
そして、バーギラは3人を見て言う。
「あなたたちも…オンジン」
「「「…!」」」
バーギラのあざとい可愛さに、3人は胸を打たれる。
耐えきれず、トコヌイがバーギラに抱きつく。
「アンタの話、もっと聞きたいなぁ?」
バーギラは少し考える。
「ヒロトのすごさだけど…ききたい?」
「聞かせてや?」
バーギラは脳裏に彼の姿を浮かべて、語りはじめる。
「ヒロトは、つよい…レベル20のクマともたたかう」
「20…」「あの人そんなに強いの…」
アンリーナとリゼレスタは、彼の強さに驚く。
「あと、やさしい…これはラビットもおなじだけど、もりでうまれたわたし…きみわるくしないでうけいれてくれた」
「森で産まれた?」
「どうりで人間の言葉をうまく喋れん訳や」
3人はバーギラを差別する様子はない。
優しい彼女らは、1つの個性としてバーギラをうまく理解してくれた。
「あと…なにより──」
全てを踏まえた上で、バーギラは最上の『ヒロトのすごさ』について語る。
「おおきい」
「「「大きい…?」」」
何が大きいのがいいのだろう。
「器が大きいとか?」
「ちがう…」
バーギラは、寸暇もなくこう言う。
「チンコ…」
「「「!」」」
3人はバーギラの言葉に反応する。
リゼレスタが気分を悪くして顔を埋めるのに対して、トコヌイはバーギラの悪びれない様子に大笑いだった。
「もーっ、笑わないでよトコちゃん!」
「ごめんごめんwwアハー↑」
「リーナも笑ってるでしょ絶対!」
「笑wっwてwなwいwよw」
突然現れた少女が下ネタを言う始末。
リゼレスタも心中は笑っているらしく、4人はかなり仲良くなっていた。
「──あっ!こんなとこにいたのか」
バーギラを見つけて、ヒロトとラビットがやって来る。
特に変わった様子もなく3人に混じるバーギラを見て、2人は驚いていた。
「バーギラ、どうやら友達ができたみてぇだな」
「ヒロト…ラビット」
「「「ど…どうも」」」
生徒会にも認められる学園の実力者を前に、2人はペコペコする。
「…ともだち」
バーギラは、少しにこやかに笑うのだった。