第56話『10組の新担任』
※コウの部屋で…
「「「オーラの力が無くなったぁッ!?」」」
ヒロトが先程のことを10組のみんなに話すと、一同は仰天した。
「俺が生き返ったことが原因だとは思うが、オーラは完全に出なくなっちまったらしい」
ヒロトのオーラが出なくなることは、彼の急激な戦闘力の減少を意味する。
つまり、今の彼は生徒会との修行も全て無駄になり、ラビットとの実力差も大きくついてしまったことになる。
「これを聞いたら、生徒会とラビットはどんな顔するんだろうな…」
ヒロトは、深い溜め息を混じえてそう言う。
気の毒そうに思いながら、マーニがヒロトに言う。
「そうやっ、明日は新しい先生が来る日やで!」
「ん?ああ、そんな話聞いたな…」
キサクも言う。
「ウチらの魔法の実力を極限まで伸ばすとからしいけど…」
「でも嬉しいんじゃねえか?みんなはそのためにこの学園に来たんだろ?」
みんなはヒロトの質問に頷くが、マーニだけはそれに強い意志があるように感じられた。
それを不思議に思ったヒロトは、マーニに言う。
「なんか…マーニはやけにやる気があるな」
「せ…せやろ?」
「「「…?」」」
※夜は明け…
ついに、10組に新たな担任がつく日がやってきた。
今日やって来る担任がどんな人物なのか、全員がとても気になっていた。
「今になると…すごく緊張するな…」
コウがそう言うと、みんなも頷く。
リズレは今回の新担任を、『君達の成長にあたってのベストな人材』と言っていた。
あの言葉には綾を感じるが、10組のみんなにとっては不安感が拭えない様子だった。
──ガララ…
扉が開くと、そこから一人の教師が出てきた。
「よし、みんな席についているな…」
見たことのない男の教師だ。
彼が新担任だろうか。
教卓の前に立って、彼は話をはじめる。
「俺は5組担任の、シキヤズだ。シキヤズ=ブルームだ」
5組の担任らしいので、新担任ではないらしいが、一同はその自己紹介に違和感を覚える。
そして、10組のある生徒に目をやる。
なぜかマーニだけが、シキヤズからあからさまに目をそらしていた。
「…一人知ってるやつが、目をそらしているんだが?」
シキヤズがそう言うと、マーニの肩がギクッと震えた。
そこで、キサクがマーニに聞く。
「まさかやけど、シキヤズ先生って…マーニの──」
「知らんって!」
質問を遮ってそう言うマーニに、シキヤズは続ける。
「まさかなー…1組に入ったと伝えに来たマーニが、こんなところにいるはずないもんなぁ…」
「せ…せやでパパ…」
「「「(パパって言っちゃってるし…)」」」
概ねの事情は察せた一同。
──だが、シキヤズは一度溜め息をついてから、再び話しかける。
「マーニ、別に怒ってはいないぞ。だからこっちを向いてみろ」
それにマーニは安心したのか、シキヤズに恐る恐る顔を向ける…。
「テメェやっぱりマーニじゃねぇかこのバカ娘が!」
「イヤぁー!ごめんなさああい!」
一同は、気の毒そうにその様子から目を逸らすのだった。
──そこから、シキヤズは落ち着いて言う。
「…ぅう…」
涙目で見つめて来るマーニに、シキヤズは語る。
「まあ…こういうもんだろうとは思っていたが…」
「…」
「他の2人も知ってたよ…まったく…すぐバレるようなウソをつくなよ…」
「ごめんなさい…」
そのやりとりを聞いて、ヒロトは少しマーニの表情の陰りを見る。
彼女のこんな表情を見るのは、これが初めてだろう。
「…今日は新担任だけではなく、新入生も紹介するぞー」
シキヤズのいうそれが気になる様子の一同は、前を見る。
シキヤズが扉を開けて、入って来たのは…。
「…あっ!」
森で生まれた、かの金髪。
制服を着た少女は10組の教室に入って来た。
「あの女の子って…」
「ああ、フェ…──あー…何て呼べばいいんだ?」
呼び方に困っていると、その少女の次に、後ろから誰かが出てくる。
「“バーギラ”でいいのでは?ヒロト君」
生徒会長カリンだった。
もはや、みんなは驚かなくなった。
カリンが一番訪れているクラスはひょっとすると、ここ10組なのかもしれない。
「彼女の生い立ち踏まえてということと、あとは彼女の母が残した少ない形見を、彼女にね…」
「バーギラか、いいなそれ」
ヒロトのところにやって来た少女は、ヒロトの隣の空いた席に腰を下ろした。
「ジョウシキは…おそわったから」
「えらいぞ、バーギラ」
ヒロトがそう言うと、バーギラはヒロトに笑った。
一度は死んだかと思った少女だ。こうして生きて会えたことが、本当に嬉しいのだった。
「──それでは…いよいよ新担任の紹介ですね…」
「ああ、では…来てもらうか…」
カリンの呼びかけに、シキヤズが扉の奥の方にコンタクトをとる。
するとそれに、扉から一人、男が入って来た。
10組一同が首ったけでそこを見やる。
シキヤズに代わって教卓につく彼は、身長は高めだ。赤い髪に赤いジャンパー、そしてその目はひどく鋭い。
10組の一同が、それを見て黙ってしまう。ヒロトもその例外ではなかった。
静まり返った教室で、新担任は名前を言う。
「テンカだ…──テンカ=E·G·バンヒット」
テンカはそう言って、10組を見回す。
そして彼は、なぜか深い溜め息をつくのだった。