第54話『弥上ヒロトの復活』
それを見て、ヒロトはまた暗い空間に戻ってくる。
「クソ…何で俺は、死んじまったんだよ…」
ヒロトの目からも、後悔の涙が溢れる。
仲間達、ライバル、やっと再び会えると思った大切な人を残して逝ってしまった懺悔が、ヒロトの心をどこまでも締めつける。
そこに、鬼神も語る。
『ワシの力は、うぬが怒りを高めれば高めるほど強くなり、発動される。だが、それが高まり過ぎて、力は暴走してしまったのだ』
「…マーシーに攻撃されたフ○ラ女…無事でよかった…」
『うぬが怒る理由もよくわかる…マーシーはひどく残酷であったし…──』
「今更言ったって無駄だ…」
ヒロトは一頻り涙を流すと、そうやって鬼神から目を背けた。
「死んだ俺には、もう何もかもどうだって良い」
ヒロトはため息混じりにそう言う。
だが、声は震えていた。
しかしそこで鬼神は、笑みをたたえてヒロトに語りかける。
「生き返る術が、あるとすれば…?」
「…ッ!?──なんだと!」
ヒロトは、驚いてふり返る。
不甲斐なく死んだ彼にとって、その一言は喉から手が出るほど欲しいものだった。
「それが…できるのか!?」
『出来るとも…』
鬼神は静かに言う。
ヒロトは、鬼神の目が顰められていたことに疑問を抱いていると、鬼神は再び口を開く。
『その思いは、本気なのだな…?』
「当たり前だろ!」
『それで、失うものがあってもか…』
「あ?何だそれ…──早くしてくれ、みんな泣いてんだよ」
ヒロトは鬼神の忠告らしきその言葉を聞かず、生き返してもらうよう再度言う。
すると、鬼神は気付くとヒロトの前に立ち上がる。
『覚悟は出来たのだな…ッ!!』
鬼神はヒロトを持ち上げ、口を大きく開ける。
「なっ…!?待てッ!やめろ…ッ!!」
ヒロトは鬼神のしようとしていることを、簡単に感じ取った。
体が噛まれ、肉が張りちぎれる。
ただならぬ怒りと恐怖に、ヒロトの表情が歪む。
「うギャアアアアッああぁ──…」
悲鳴をあげていると、ヒロトの意識はさらに深く暗い場所まで落ちていった。
※
「──う…っ、…え?」
クレアの涙にまみれた表情が、ヒロトに起きた何かに歪む。
ヒロトの体に温かさが戻ってきて、血が通(かよい肌色が戻る。
「!何…これ」
カリンも驚く。
その場の全員が、涙だらけの表情で硬直した。
ヒロトの体が、脈に合わせてビクンと何度も震え出す。
だんだんそれも落ち着いてきて、体が脈を取り戻すと、ヒロトに次なる変化が起きる。
「っぐ…!」
「「「!!」」」
ヒロトの眉が顰められ、全員が驚愕する。
「げっほ…っ!がぁ…っ」
先程まで死んでいたヒロトが、活発に咳き込みだした。
「はぁ…」
しばらくしてヒロトが落ち着き、静まり返ったその場を、再び潤った目で見渡す。
「ヒロトさん…!」
「い…生き返ったの!?」
ラビットとカリンが、ヒロトにそう聞く。
「みんな…何でここに…──はっ…そうか…俺は生き返ったのか」
ヒロトがそう言うと、周囲のみんなは涙を流しながら笑う。
「ヒロト君…!よかった…生きててくれて!」
「えっ!ちょっ…おわっ…!」
中でもクレアは感動のあまり、ヒロトにしかと抱きついて泣きだした。
ヒロトの胸元を涙と鼻水で濡らしながらも、彼女のそれは止まることを知らなかった。
「…」
ヒロトには引き離しようがない。
そして、他もやっと状況に脳が追いついたらしい。
「ヒロト…!」
10組はコウを始めとして、ヒロトに次々と抱きつく。
「おいちょっとは加減しろよ!さっきまで死んでたんだぞ俺はっ」
「このトゲのある話し方、間違いなくヒロトだ!」「心配させよってからにー!」
コウとキサクもヒロトにそう言う。
嫌な感じはしない。むしろ、戻って来れたことが嬉しくてたまらなかった。
カリンら生徒会も、それに目を潤ませて言う。
「よかったわね…メイプルも素直に喜んだら?」
「…知らん」
メイプルは震えた声でそう言うと、そのまま部屋を出ようとする。
だが、寸前でとどまって、こう言い残す。
「ヒロト…放課後、いつもの場所でな…」
「あ?ああ…」
ヒロトはそれにうなずくと、メイプルはそのまま部屋を出た。
そして、メイプルは一同に見えないように、再び涙を流し、歩きだすのだった。
※
「ど…どうやって生き返ったんだ?」
生徒会のうち、ソードがヒロトに聞く。
「よくわかんねえんだ…鬼神に喰われる夢を見て、それから覚めたらこうなっていた…」
「でも、どうして…」
「確かに死んでたのに…」
チーサンとフラワーも聞く。
だが、それはヒロトが一番聞きたかった。
そして、カリンがヒロトの体を見渡して言う。
「体はどうにもないの…?」
「何とも不思議だが、どこも痛くねぇ…呼吸も筋肉も、まるで変わっていない…」
ヒロトは、鬼神のオーラのおかげだと思っていた。
だが、真実はより遠いところにありそうだと、そんな気がした。
※
「ヒロトさんが回復する見込みはないので、どうか彼のご冥福を…──なっ!?」
救助隊が再びやって来ると、元気にみんなと話しているヒロトがいた。
幻かと何度も目を擦るものの、現に彼はすぐ目の前で生きていた。
「…」
驚きのあまり言葉が出ない様子だったが、その後ろからリズレが現れた。
彼は対照的に、さして驚いてはいないようだった。
「生き返れたようだね★ヒロト君」
「なんだその言い草は…お前が行かせたクエストでこうなったんだぞ、まったく」
「いやぁ、それは申し訳ない★でも、今回の事態は、正直予想外の連発でね」
「…そうかよ」
だが、リズレはヒロトから目を離し、少女に目をやる。
「今更だが、そのコはいったい?」
リズレの質問に、中のヒロトとラビットがギクッと肩を震わせる。
説明をすることもできたろうが、彼女にはイレギュラーな点が多すぎる。
だが、リズレは少女の正体に感づいてはいた。
「そのコを、こちらの方で少し預からせてもらえないかい★」
リズレはそう聞くが、少女は不審そうに彼を睨む。
「やはり不審そうだね…では、ラビット君、あと生徒会のみんなも一緒に…そちらの方がこのコも安心するでしょ?では行こうか」
「は…はい──いきますよ」
「…うん」
ラビットも一緒に行くということで、少女は言うとおりについていった。
だが、リズレは部屋を出る前に残ったみんなにこう言い残す。
「悪いけど、10組のみんなは、ヒロト君とマディア君を2人にしてもらえるかな?」
「は…はい」「でも、どうして」
サルマとアシュが聞く。
リズレはこう返す。
「2人は、8年ぶりの再会だからね★」
ヒロトを抱きしめるクレアが抱擁をやめると、ヒロトをベッドから引っ張って、屋上に向かった。
「早く行こう!ヒロトくん」
「ちょっ…わかったから!──ああみんな!トレーニングが終わったら、またコウの部屋でな!」
クレアの表情は、散々涙を流した跡も見えなくなるほど、笑顔で輝いていた。