表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学園と鬼氣使い(ヤンキー)  作者: みっしゅう
第1章『全てはここから始まった! 最強の日本人ヤンキー 異世界の魔法学園に転移!』
52/96

第51話『ヒロトの暴走を止める』

 生徒会がリズレを期待(きたい)眼差(まなざ)しで見るなか、リズレは生徒会らと同じく視野を狭め遠くを見据(みす)える。

 彼の視界には巨大な鬼神が暴れる光景が広がったが、リズレはさらにそこからさらに狭める。

 森の木々に(さえぎ)られても関係はない。

 その目はヒロトを()らえる。

「捕らえたよ、間違いなくヒロトくんの姿だ」

「本当ですか!」

 何という実力だろう。カリンですら見つけられなかったというのに。

「(やはり、学園長の実力は伊達(だて)ではないですね…)」

 とうのカリンも、その力には驚いていた。

 カリンが本気を出してもなし得なかったことを、リズレは簡単にやってのけたのだ。


 ──リズレは手をクレアの肩に置いて、視界を共有させる。

 リズレ程になれば、こめかみを近づけさせる(ひま)など必要ない。

「…!」

 クレアはリズレの視界を受け取り、ヒロトをしかとその目に焼き付ける。


「──グォアッ…!ハルル…ッ…ハァッ!」

 森の(おく)で暴れるそのさまは、(いか)りで自我を失い、そのやり場もないまま怒り(くる)っていた。

「ヒロトくん…あそこまで怒り狂うなんて…」

「う~む、ヒロトくんから何mも(はな)れたところに、ラビットくんの魔力(まりょく)の反応がある。彼は暴走の前兆(ぜんちょう)に気付き、彼女を避難(ひなん)させたんだね」

 リズレはそういうが、彼女の近くの少女の存在にも気づいていた。


 それをなぜ公言しなかったかは別の話となるが、リズレはまたさらに一つの魔力に気づく。

「ヒロトくんから、何か邪悪(じゃあく)な力を持つものが逃げている…森の動物たちを魔物にしたのはこの人間なのか?北校舎の一件も、どこか()に落ちないが…──…ん?」

 その時、リズレは何やらまたおかしな魔力の反応を察知(さっち)した。

 だが、彼は黙っていた。その理由もまた別の話となる。

 生徒会は、その様子をわからなそうに見つめていた。


「…そんなことより、ヒロト君の暴走を止めなくては!」

 クレアは(あせ)っていう。そして、リズレはようやくヒロトに視界を移す。

「…ああ。何度も聞くようで悪いけど、君は本当に、彼を止める自信がるんだね?」

「はい!言葉さえ届けば…!」

 何度も強く言い切るクレアにリズレは頷いてから、16kmも離れたヒロトと、そしてクレアの両方に魔力を送り、その二つを連結(リンク)させる。

「これで、ヒロト君に言葉が届くよ」

「ありがとうございます…」

 クレアは、ヒロトに言葉を伝える…──。


「──ヒロトくん!」


※場面は、暴走するヒロトへ…


「ガルゥッ!ハルルッ!」

 ヒロトが暴走して20分が()ち、ヒロトの体はひどく疲弊(ひへい)しきっていた。

 オーラも何度も限界を()えたせいでひどく(うす)まってしまい、(さけ)びすぎたせいで(のど)()れ口は()けていた。

「ゲホァッ…!」

 ──ビシャッ…

 ヒロトが()き込み、大量の血が吐き出される。

 意識が朦朧としてきて、ヒロトはふらついて倒れる。

 ヒロトの全身の筋肉は悲鳴をあげる。限界はすぐそこまで迫っていた。

 これ以上暴れてしまうと、死にも直結するだろう。

 だが、ヒロトの怒りは晴れることはなかった。

 ──そこから離れた場所で様子を見るラビットは、今のヒロトに対し自分が何もできないことに胸を痛めていた。


「ハッ…!ハッ!ガァアーッ──」

 ヒロトが再び叫ぼうとした、その時の出来事──…

『──ヒロトくんっ!』

 どこからともなく声がした。

 (われ)を失って何も聞こえなくなったヒロトに、その言葉はうるさいほどによく伝わった。

「ァ…っ」

 ヒロトの動きが止まる。

 すると、背中から発せられる鬼神も、動きを止めた。

 ──そのクレアのたった一回の言葉が、ヒロトの動きを止めたのだ。

 生徒会ですら理解できない境地(きょうち)での出来事であった。

「なんや!動きが止まったが!」

「たった一言の呼びかけで…」

 カリンとメイプルという実力者でさえ、これには驚いていた。

 リズレでさえも、ニヤリとしていた。


 ──そこから、さらにクレアは語る。まるで聖母(せいぼ)のような(いつく)しみに()ちた声で。

『ヒロトくん…どうか怒りを(しず)めてください』

「…っ」

 その言葉を聞いて、ヒロトはその目から涙を流す。

『ウゥゴ…ッ!ガァア…』

 鬼神は手で顔を(おお)い、うめき出した。

 生徒会はそれに驚く。

「あの鬼神、うめいてるのか?」

「泣いてるようにも見える…」

「これも、クレアさんの言葉の影響なの?」

 ソード、アキニーム、フラワーが言う。

『ヒロトくんに何があったかはわかりません。ですがその力は(あぶ)なすぎます…人を傷つけることが、簡単にできてしまうのですから』

「あぁッ…うぁアーッ!?」

 ヒロトは(おび)えたように、(ふる)える声で叫ぶ。


 テレパシーは両方の声が聞こえる。

 ヒロトの声を聞いてもクレアは、説得するように落ち着いて続けるのだった。

『怖いですよね…人を傷つけてしまうのは…8年前に、あんなことがあったのですから』

「あウッ!…ぅうガ…」

 ヒロトは、そこに(ひざ)をつき慟哭(どうこく)した。

「だから怒りを抑えて、私のところへ来てくれませんか…?──」

 クレアは、そこから続ける。

「あのときの()()()()()()では、足りないんです…。ヒロトさんと、これからも一緒にいたいんです…」

 クレアのその一言に、ヒロトは確信する。

 自分は彼女に、ずっと前から会っていたと…──

 ──オーラに目覚めてすぐ、学校でこのように暴走したヒロトは、自分をいじめた同級生たちに復讐(ふくしゅう)した。

 だが、ヒロトは無関係の彼女に手をかけようとしたところを、寸前(すんぜん)()みとどまったのだ。

 優しい彼女はヒロトを抱擁(ほうよう)し、こう言ってくれた。

『──ごめんなさい…ヒロト君のこと、救ってあげられなくて…』

 下校中の彼女を追いかけ、そして追い付いた先で、彼女は死んでいた。

 そんな彼女が、今学園で生きており、ヒロトを待っている。

 彼女の名は、何だっただろう…──

『──ヒロト君…』

「──あ…、ま…──」

 ──ドサッ…


 …テレパシーはそこで、倒れるような音とともに途絶(とだ)え、20mの鬼神のオーラも消えた。

 クレアは、そこで驚く。

「あれ…?オーラが…」

 生徒会も、ヒロトの様子は見えないため、気になる様子だ。

 クレアの頭を、嫌な予感が(かす)める。

「ヒロト君に、何かあったんですか…?」

 全てを知ったリズレは、そう聞くクレアにこう答える。

「君は、(きず)つくことになるが、(かま)わないかい…」



「──ヒロトさんのオーラが…」

 ラビットは、ヒロトの暴走が止まったと確信した。

「…あれ?わたし…──」

 少女も目を覚ます。

「…ヒロトは?」

「…急ぎましょう!」

 二人はそうして、ヒロトの方へ走る。


「──いた…っ!」

「ヒロト!」

 二人は、より荒れた場所に(たお)れるボロボロのヒロトを発見する。

「暴走が止まってよかった…」

「おきて!ヒロト!」

 だが二人はそこで、最悪の事実について知る。

「ヒロト…さん」「…」

 ヒロトの呼吸はない。

 体は()えてしまっていた。

「…ウソ…ですよね…」

 ラビットも少女も、その目の前の現実を受け止めたくなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ