第50話『暴走を止めるキーマン』
ラビットの回復魔法で、少女のうけた傷は治ってくれたらしい。
「よかった…まだ生きてる」
少女は驚くほどの生命力を持っていた。流石はバーギラから生まれた子である。
ラビットは一息ついていた。
「これで…治った…──うっぐ!」
ラビットも、ヒロトと同じく頭痛に襲われる。意識が朦朧としてきた。
ただでさえ昨日と今日で魔法を使いすぎたのだ。
「ここで倒れては…いけない!」
ラビットは、なんとか意識を正気に戻す。
今頑張っているヒロトに、このままでは申し訳が立たない。
「──ガァアアアアーッ!!」
奥から響くヒロトの咆哮。
ラビットが驚いて上を見上げると、そこには赤い鬼神の巨体があった。
ヒロトの怒りは、ここまで肥大化したというのか。
『ヴァうァアアアアーッ!!』
「何て声…!」
20mの巨体から発せられるとてつもない咆哮に、ラビットは耳を塞いでうずくまった。
※
森を超え、広い街を一つ跨いでも、その咆哮は学園まで届いていた。
「──今…森の奥から、すげえ音しなかったか!」
10組のみんなは、それが何なのかすぐにわかった。
「まさか…!鬼神やないやよな!」
「やっぱり、ヒロトに何かあったのか!」
10組は、ヒロトの安全をただ祈ることしかできなかった。
──屋上では、生徒会一同が森を眺めていた。
魔法で視界を狭め遠くを見てみると、森では20mの鬼神が暴れていた。
ヤツが暴れるごとに、何メートルもの砂埃も何度も上がっている。
「あんなに巨大な鬼神が暴れるなんて…弥上くんに何があったのかしら」
カリンは汗を垂らしながらその様子を見る。
「あんなに暴れて、ラビットは大丈夫なんかのぉ…?」
同じ魔法を使うメイプルも、それには心配そうである。
生徒会全員が釘付けで見守るなか、屋上のドアが開かれる。
そこには、学園長リズレが立っていた。
「学園長!──…?」
彼だけではない。学園長と一緒に誰かがいる。
そこにいたのは、焦るクレアだった。
「ここなら見えるはずだよ」
「ありがとうございます!──カリンさん!今、あちらでは何が!」
「今から、私の視界を送るわ…!」
クレアはカリンとこめかみを合わせ、視覚を共有してもらって森の奥を見つめる。
そこでクレアは、その森にヒロトがいると確証した。
「やっぱりあの森には、ヒロト君がいるんですね…」
「君…?お前、ヒロトと関係があったりするんか?」
「はい…私は彼を知ってます!8年前から、ずっと!」
「「「…?」」」
謎の多い言い方をするクレア。
ヒロトでの8年前は、鬼神のオーラをうけてすぐの8歳のときで、まだこの世界にはいないはずだ。
「人違いでは──」
「あり得ません!彼は私の知っている、弥上ヒロト君です!」
はっきりと言い張って見せたクレアに、カリンは少し驚いた。
「カリンさん!私の声を、あっちに届けることはできませんか?」
「…そうね…テレパシーを使えば、あなたの声を直接あっちに届けられるわ。でも遠すぎる…3kmも離れてるもの」
「…そんなっ」
カリンすらも、その不可能さに眉をひそめる。
だが、クレアはくじけそうになるが、それでも諦めない姿勢を保っていた。
「でもっ!諦めたくないっ!ヒロト君は、私が止めなきゃ!」
「…?」
そう言うクレアに生徒会一同は、彼女にただならない覚悟を感じ取っていた。
クレアはフェンスに手をかけ、悔しさに咽び泣く。
「声さえ届けば…!声さえ届けばいいのに…っ!」
だが、彼女の肩を何者かが叩く。
「え…?」
「ならば、僕が届けよう。3km先だろうが、10km先だろうがね★」
リズレは、自信満々に言ってみせた。