第49話『鬼神のオーラの暴発』
※同時、学園では…
森を覆うようにかかる雲に、学園は騒然としていた。
「大丈夫なのか…ヒロトとラビットさん」
「わからへんけど…」
コウとキサクが、教室の窓からそれを見やっていう。
ヒロトと関係の深い10組は、不安そうな面持ちばかりであった。
だが2組では、そこの全員よりさらに強く心配する人間がいた。
「…!」
2組のクレアは、森の奥の方から何かを感じる。
リズレから、ヒロトがラビットとともに森に向かったと聞いた彼女は、それが何なのかはっきりとはわからなかったらしい。
だが、何かをそこに感じたことは確かだろう。
「がっ…ぐぁああッ!」
怒りに苛まれるヒロトの体内から、あり得ないほどの量のオーラが放たれる。
先程の濃さではない。その赤いオーラは、あまりの密度に黒ずんでいた。
そして、ヒロトは呻きながらそこに頭を押さえる。
ラビットはこの状況で困惑しながらも、ヒロトに駆け寄った。
「ヒロトさん!落ち着いてください!」
差し伸べられたラビットの手。
だが、ヒロトにはそれをとる余裕などなかった。
「逃げろッ…危ねぇぞ…──ぅウぁあアアーッ!?」
ヒロトのオーラが、バチィッ!と音をたて爆発した。
「ひッ!?」
ラビットは驚いてそこから離れた。
今のヒロトを見るだけで、鬼神に睨まれるような恐怖に襲われる。
彼は強い怒りに我を忘れ、オーラを暴発させてしまっているのだ。
「…今は何とか…暴発を抑えちゃいるが…、長くは持たねぇっ…!女を連れて逃げて…癒してくれ!」
「オーラが暴発したら…ヒロトさんは!?」
「周りのやつらに、なりふり構わず襲いかかってしまう…」
「そんな…!」
ラビットは、あの夜にヒロトが語った過去について思い出す。
当時8歳のヒロトはオーラをうけた近いとき、自分をいじめた同級生にすぐ復讐に向かい、何人もの児童に殴りかかったという。
その原因がはっきりとわかった。
この力は、ヒロトのある幼馴染みによって止められたらしいが、当然ここには居はしない。
「いいから…女を連れて…逃げろッ!」
ラビットは、それを止めようとさらに近づく。
するとヒロトは、彼女の体を突き飛ばしたではないか。
「邪魔だッ!」
ラビットは尻餅をつく。
ラビットはヒロトを見ると、
「テメェに何ができるんだ!思いあがんじゃねぇぞッ!!」
「!?」
「早くッ…!行けェえエエエエーッ!!」
「う…っ…──」
ラビットはヒロトの大音声を聞いて、彼の自我が徐々に失われていくのを感じ取っていた。
──ラビットは涙を流しながら、少女を連れて走り出すのだった。
「うっ…ぐぐッ!ああっ」
ラビットが逃げきるまで、ヒロトは暴走を歯を食い縛って食い止める。
…──頭が潰れそうな痛みを堪えて、ついに5分が経過した。
マーシーはついに魔法で傷を癒し、起き上がった。
「一体…何が起きてるんだ!?」
ヒロトはその時、ついに我慢をやめる。
──ヒロトの怒りが、ついに暴発をはじめた。
「ごァアアアアーッ!」
自我を失ったヒロトの目が、マーシーを見据える。
マーシーは、それにただならぬ危機を覚え、逃げ出そうとする。
だが、それをヒロトは許さず、走り出すマーシーの頭を掴んだ。
「ぐッ!」
ヒロトはそれを持ち上げると、思いっきり地面に叩きつけた。
──ゴスッ!
「うぎぃいいいっ!?」
あまりの強さに地面は窪み、マーシーの今までにない絶叫が森中に響き渡った。
その後も、ヒロトの容赦ない追撃は続いた。
倒れたマーシーが次に掴まれた場所は足だった。
「なっ…!待っ──」
「ガアァアア!」
足を掴んだヒロトは、マーシーをハンマー投げよろしく振り回した。
「ぬぅあーッ!」
そして次に、マーシーを背中から地面に一気に叩きつける。
「かぁ…っ!」
声にならない悲鳴を上げながら、マーシーはただ痛みに悶えていた。
だが彼は抵抗として、ヒロトの顔に黒い刃を打ち放つ。
「ウガァアアーッ!?」
それはヒロトに決定打を与えたが、それでもこれでは止まることはない。
だが、逃げ足の早いマーシーは、その隙が生まれたのをいいことに、一目散に逃げ出した。
「クソッ!戦略的撤退だ!こんなヤツと戦ってられるか!」
マーシーは、森の木々を足場に走り出した。
ヒロトは右目に傷を負い、視界がダメになる。
左目だけを頼りにマーシーを探すが、その速すぎる逃げ足に完全に見失ってしまった。
「ゥウ…ッ!ウガァアアああーッ!!」
怒りのやり場もわからぬまま、そこではたった一体の鬼が、暴れ続けているのだった。