第04話『ヒロトのクラス』
「ここが10組か…」
ヒロトは10組の教室の扉の前に立ち、それ開けた。
──ガラッ
中の生徒は24人だけだったが、突如入ってきた人相の悪いヒロトに、そのほとんどが目を逸していた。
10組というだけあって冴えない顔ばかりだ。しかしヒロトはその様子を気にせずに入っていった。
「一番左の一番後ろか…」
呆れつつ席に座ってあくびをするヒロトは、机の上に足を乗せて座った。
その態度が悪い座り方にクラス全体が静かになるが、静かな場所を好むヒロトには、結果的に好都合だった。
すると、その教室の沈黙が破られる。
「…ははっ、お前も教師に10組のこと抗議してたのか」
「当たり前やん!あの態度だいっ嫌いやもん」
「ああ、あいつの鼻をつねってやったぜ」
「うわっ、やるやん!」
扉は開き、その向こうには面白そうな会話をする男女二人組がいた。
ヒロトはその会話を聞きながら思わず破顔一笑した。二人の話は、ヒロトにも同じように思うところが多いため、自然と笑みがこぼれたのである。
さらに二人の席は、ヒロトの前の二つときた。
──二人は席に座り、その態度からか異色を放つヒロトにも、気にせず話しかけた。
「なあ、ここの席だろ?よろしくな」
男は親切そうで、女は明るく無邪気な印象だ。
ヒロトはそれに挨拶を返す。
「よろしく」
ヒロトは机から足を下ろし、ニヤリとして話しかけ返した。
「聞いてたぜ。お前先生の鼻つねってやったんだって?」
「おう」
「俺は指導室に呼ばれてな、教師があまりにもむかつく態度だったから首を締めてやるとな、教師は「放したまえ!放したまえ!」だってさ!」
「ブフォッ…!お前すげえな!」
男とヒロトは、まるで初対面ではないように話していた。
女のほうも、腹を押さえながら大笑いだった。
「実は俺も激怒するあいつの鼻をつねったらな、「ふごご!ふごご!」だってさ!」
「ひゃひゃひゃっ!マジか!お前悪いやつだな!」
「お前もな!」
どうやら、お互いかなり気が合うらしい。
「うちもあいつのこと煽りに煽ったんやけど、うち女の子やから手ぇ出せんかったってww」
「「うわぁセっコッ!!」」
関西弁の少女は高らかに笑った。
「──お前ら、名前は?」
ヒロトが聞くと、まずは男のほうから名乗った。
「じゃあ、俺の方からな。コウだ」
「うちはキサクやよ~。うちら今日が初対面なんやけどな」
「それは意外だな…俺は弥上ヒロト。ヒロトが名前だ」
「ヒロト…珍しい名前だな」
「いや、メタい話だが、あんたらといいラビットといい、にじs…」
──教室に、ここの担任らしき人物が入ってくる。
だが、彼の様子はどこか不審であった。
「…」
持ち合わせたファイルで顔を隠していた。
「アイツ、なんで顔を隠してるんだ?」
「俺からしたら、理由は明白だけどな」
ヒロトが試しにバンッと机で音を立てると、彼は大きく震えファイルを落とした。
ファイルの向こうの顔は、まさしく今朝の教師であった。
「あの怯えよう…お前何したの?」
「首を締めただけ」
「「…」」
あっさりと答えるヒロトに、コウとキサクは二人して目を見合わせた。
「今日は、み…みんなの…じじじ自己紹介をして…もら…らいたいんだが…したい方どうぞっ!!」
テンパる教師にクラス全員が声も出なかった。しかもその原因がこのクラスのたった一人の男だということは、いかにも信じがたいことだった。