第48話『ヒロトの反撃』
「うァああああーッ!」
ヒロトは今まで通り、その腕にオーラを蓄える。
ラビットは、彼の行動の機転を感じ取っていた。
「(狙うのは一点集中…!鳩尾に叩き込むんだ!)…だァアアアーッ!」
──ギュンッ!
攻撃は狙いどおり鳩尾に命中した。
「うギッ!?」
だが、これでは終わらない。大事なのはここだ。
「弾けろォオオッ!!」
その腕のオーラが、高密度に密集。
そしてそれが一瞬光ると、爆発にも似た衝撃波がマーシーを襲った。
「何っ!どぉアアアーッ!!」
マーシーは、あり得ないほどの衝撃に上空に吹き飛ばされた。
20mという高さまで吹き飛んだマーシーは、その衝撃についに表情を歪ませた。
そして、ヤツは落ちてくる。
「あうっ…!いいいーっ!?」
マーシーは背中から地面に打ち付けられ、その体をビリビリと痙攣させた。
「…」
だが、次にマーシーが起き上がったときには…──もう彼の表情から、笑みは消えていた。
「そこまで強いと…ムカつくんだよねェ…!」
「…」
マーシーの目は、完全に敵を睨むものになっていた。
その目にいすくめられ、ヒロトは額に脂汗を浮かべるのだった。
「…!ご…ふッ!」
──びしゃッ!
マーシーは急に、口から真っ赤な血を吐く。
先程の攻撃は、どうやら相当のダメージになってくれたようだ。
「どうやら…君は僕を本当に怒らせたようだねェ…──いいだろう、君の実力に敬意を表し…俺も本気を出すとしようか…」
「!?」
様子を変えたマーシーに、ヒロトは驚いて浮き足立つ。
その先におきる危機を、ヒロトは簡単に予測していた。
…マーシーが手をヒロトに構える。
──シュパッ
歯切れのよい音が突如やってきて、ヒロトの腕を激痛が襲う。
「…ッ!?」
その腕を見るとそこでは、黒いビームが刃となって腕の肉を掠め取っていた。
「があ…っぐっ!」
そこから鮮血が噴き出る。
ただならぬ出血だが、マーシーは容赦なく追い詰めていく。
「アヂャヂャアーッ!」
「うアアアーッ!」
しばらく猛攻が続く。ヒロトの体の肉は、何度も何度も掠められていく。
「今の君に反撃は無理だよ!まだ5分はやれるよ!」
「ふざっ…けんなっ!」
いくらオーラをフルに活用したとしても、これだけの猛攻はさすがに酷だ。
「ヒロトさん!ヒロトさあん!」
ラビットが加勢に入る。だが、ヒロトはあくまで「来るな!」と叫ぶ。
「危ねぇぞ!来るんじゃねぇ!」
だがラビットはそれを無視し、エアスピアーを構えて攻撃に持ち込む。
「だぁアアーっ!」
極限まで堅められ研ぎ澄まされたエアスピアーが、マーシーに突き刺さる。
「おがァ…ッ!?」
脇腹に命中し、そこから血が滴る。
そこで、戦況が大きく揺らぐ。
「きッ…さまああーッ!!」
次なる脅威はラビットに迫る。
黒い刃がラビットを掠める。
「うあっ…!?」
ラビットの横腹と腕から血が噴き出た。
急所は外れたらしいが、甚大なダメージであることには疑いはなかった。
だが、ヒロトはラビットが折角作ったチャンスを無駄にはしない。
「ウオァーッ!」
「!?」
腕はボロボロ、だが構わない。構うものか。
何とかオーラを纏わせ、マーシーを殴る。
そこからオーラを爆発させ、マーシーを吹き飛ばす。
「ブへぇあッ!?」
ただならぬダメージを受けつつ、こちらも相手にさらなるダメージを与えることに成功した。
「──クソッ…!痛ってえ…ッ」
マーシーはいよいよ口調すら変えて、痛みを堪える。
鳩尾は窪み、体はすでにボロボロだ。
「うぅっ…くっ!」
ラビットは、傷を負った横腹と腕を回復させる。
傷は思った以上に深い。このままでは大量出血になる。
「はぁ…っ!はあ…」
完全ではないが、傷口は一応塞がった。
痛みを堪えながら、ラビットは立ち上がる。
…起き上がってヒロトの方を見ると、そこを見てラビットは戦慄した。
「!?」
「ぐぅ…ッああ…っ!」
ボロボロの腕でオーラを溜め大技を決めたことで、腕はボロボロどころの騒ぎではすまないほどのダメージを受けていた。
その腕はもはや原型を止めていなかった。
骨は既に肉からはみ出て、出血はただならなかった。
オーラをそこに集め、北校舎での時のように回復しようとする。
だが、オーラが足りない。これだけの接戦を繰り広げたのだから無理もないだろう。
「ヒロトさん!腕が!」
「もう、無くなった腕を回復させるほどに…オーラがねぇか…」
だが、マーシーはよろよろと起き上がる。
「「…っ!」」
「こうなったら…!こいつで最後にしてやる!」
腕を構える。
すると、黒い刃は手に鋭く固められていった
「嘘だろ…ッ!」
二人は身構える。
そうして刃は完成し、マーシーはそれを投げた。
「えィヤアッ!」
だがその刃は、二人のいないところに飛ばされた。
「…?」
何が何だかわからず、二人はそこに立ち尽くす。
だが、二人は恐ろしいことに気付く。だが、気付けばもう遅かった。
「まさか…!?」
二人が向いた先では、少女が血を流し倒れていた。
「「…ッ!?」」
二人はそれをはっきり見て、言葉を失う。
「カッカッカッ!」
マーシーは、動かなくなった少女を見てせせら嗤う。
なぜ襲ったのか…?理由などなかった。
彼はただ、目障りで仕方なかったのだ。
マーシーの笑いが響くなか、そこで異変が起きた。
空が雲に支配され、稲妻をたて始める。
──たった一人の男の、静かな怒りが爆発した瞬間だった。
「うぁアアアアーッ!!」