第46話『少女とバーギラの真相』
「ハッ…ハアッ…!」
戦いが終わり、息を切らすバーギラはそこに倒れていた。
ヒロトは、そこでやっと痛みから復帰し、ラビットの前で立ち上がる。
「ヒロトさん!もう大丈夫なんですか」
「ああ…もう大丈夫だ…──うぐっ」
ヒロトは頭痛に襲われたのか、そこに頭を押さえてうずくまる。
「どうしたんです!」
「多分オーラを使いすぎたんだ…特訓でもこういったことはあったが、今回のは一番強いな…」
だが、そこでヒロトはバーギラを見る。
「(俺たちを助けるために、体力を振り絞ったのか…なんて情にアツい獣だ)」
グリズリーを仕留めたときのあの風格は、間違いなく王者という呼びが相応しかった。
少女は倒れるバーギラを見て、その方へ歩きだした。
「…」
ヒロトとラビットは、その理由がわからない。
「どうしたんでしょう…?」
「…?」
バーギラの顔のもとにたどり着いた少女は、その巨大な顔に手を携える。
「…?どうしたんだ」
ヒロトとラビットは、少女に駆け寄る。
「…わからない、けど、なんだか…ふしぎなかんじ」
それではわからないと思いつつも、次の一言で二人は、この少女とバーギラの衝撃の関係を知る。
「…この中からうまれたような…なつかしいかんじ」
「なっ…!」「…!」
二人は、衝撃のあまり少しの間言葉を失った。
「──…いや、少し考えると辻褄があう」
ヒロトがそういう。
「ど…どういうことです?」
「バーギラが衰弱していた理由だ…!妊娠は沢山のエネルギーを胎児に移す──それゆえに、昨日俺たちが食事を分け与えるまでは、こいつには出産へのエネルギーはほぼ残っていなかった…」
「えっ…!ちょっと待ってください!」
ラビットにとっては、腑に落ちないところが多すぎた。
「オスの個体がまだ見つかっていないんですよ!」
「確かにそうだ…単位生殖を行ったとは、にわかには信じがたい…」
「それに、この少女は人の言葉を話します!一体何が!」
「…」
ヒロトは、返答に悩む。
だがその答えには、ほんの短い間でありついたらしい。
「じゃあ、それでよくね?」
「はい…?」
「バーギラから単位生殖で産まれた少女…それにして人の言葉を喋る少女…非科学的なことが起きたってことだけで、それでよくね?」
「よ…よくね…って」
今更考えても仕方ない。ここで起きたことが全てだ。
「──◯ェラ女…」
少女はヒロトの呼び掛けに振り返る。
「どうだ?母さんの温かみは」
「かあ…さん?」
「お前を頑張って産んでくれたやつのことなんだ…この世にたった一つの大切な存在なんだぜ」
少女は、バーギラを見つめ直す。
バーギラの目は、暖かく柔らかく少女に細められていた。
「体力は残り僅かだ…時間は少ないが、たっぷり甘えるんだぞ…?」
ラビットは、そう言うヒロトの表情を見て驚く。
「ヒロトさんが…こんな表情をするとは…」
──少女はヒロトの言葉を聞いて、再び少女はバーギラに手を伸ばす。
「かあ…さ──」
少女がそう声をかけようとする。
その瞬間だった…──。
──ギュゥーン!
鈍い光が、突如音とともに現れる。
「「「…!」」」
それは突然眩しい光となり、3人は驚いて目をおおう。
「ぐっ…!」
──ようやく光が消える。
そしてそこにあったものを見て、3人は目を見開いた。
「なっ…!?」「はっ!」
バーギラの頭は、黒いビームによって撃ち抜かれていた。
白眼を剥いたバーギラは、そこに顎をついた。
「か…あ…」
少女は小さく力の抜けた声でそう言って、バーギラの顔に触れる。
「っ…」
しばらくして、少女の虚ろな目から涙が溢れた。
野生に産まれ、たった一匹の親を失った少女から、それは溢れた。
そして、どこからともなく声が響く。
「ヒーッヒッヒッ!アハハッ!」
ヒロトとラビットは、そこの方を見る。
そこには、黒い服を着た少年が高らかに嗤っていた。
「泣いてる~!何で~!ネェ何で泣いてるの~?アヒャヒャッ!」
ラビットは怒り、その少年に叫ぶ。
「どうして…!どうしてこんなことを!」
「んぅ~?」
バーギラはひどく衰えていた。恐怖の対象にはならない。殺す必要などない筈だ。
「ん~…ん~?」
「答えなさい!」
問い詰めるラビットの表情は、ものすごい剣幕であった。
少年は、しばらく返答に悩んでから、明るい笑みで答える。
「そこのクソデカい猿畜生が目障りだったから…ぶっ殺しちゃった!」
その様子に、ラビットは一歩引いてしまう。
「ひどい…っ」
「森の魔物がぜ~んぶ魔物になってて、でもそいつだけは手強かったんだ~!だからムカついちゃって~今こそがチャンスだと思ってやっちゃった!テヘペロッ」
間違いなく、この少年こそがテレパシーを送った張本人である。
何というゲス野郎だろう。このようなことを行いつつ、こうも明るい笑みを浮かべるというのか。
サイコパスだ。
「ううっ…うえぇっ!」
少女は涙を溢れさせる。
ヒロトは、彼女を後ろから見ていて、ただただ黙っていた。
そして、彼は少年に向き直ると、そこに向かって歩きだした。
「…ヒロトさん」
ラビットも、後ろから歩いてくるヒロトに気づく。
「ラビット…放れてろ」
「え…?でもっ…──」
ラビットがヒロトに振り返る。
だが彼女は後ろを見て、心臓が飛び上がるような感覚に陥った。
「──下がってろって…言ってンだよ…!」
ヒロトの体から発生するオーラは、量も濃さも今までのものではきかない。
「不思議だなぁオイ…アイツへの怒りで、限界のはずだったオーラが溢れてくらァ…!」
「…っ!」
ヒロトの強烈な威圧感に腰を抜かしたラビットは、自分の前を通りすぎて前に出るヒロトをただ見送っていた。
本気で怒ったヒロトの恐ろしさを、ラビットは今、目の前で確実に目にしていた。