第45話『巨大グリズリー大暴走』
「ガアァアアアアーッ!!」
グリズリーはこちらを睨み付け、先程のヒロトにも並ぶ咆哮をあげた。
その瞬間、森に生きる全ての生物が死を覚悟した。それは3人も同じだった。
ヒロトは少女に叫ぶ。
「フ◯ラ女…バーギラを守ってろ!」
「で…でも」
「足手まといなんだよ!そこにいろ!」
「!」
ヒロトの体から発生する赤いオーラの脅威が、少し少女に向く。
最強の脅迫に気圧されて、少女はバーギラを護るように立った。
ラビットも、思いきった行動をとるヒロトに驚いていた。
「威嚇はてめぇの専売特許じゃねえぞッ!うぉおアアアアーッ!!」
ヒロトの体から、先程の数倍にも上るオーラが放出される。
ラビットはそのオーラの強さを、肌でビリビリと感じていた。
「(なんて強さ!間違いなく本気だ…!)」
その様子に驚くラビットだが、グリズリーはというと…──。
「ガァルルル…ッ!」
全く怯まないといった様子だ。むしろ牙を向いている。
「威嚇に動じてねぇのか…!?くそ…ッ」
「ゴァアーッ!」
しびれを切らしたグリズリーが、ヒロトについに攻撃をしかける。
「…ッ!」
ヒロトに迫るその右腕は、想像以上に巨大であった。
「アっブ…ッ!」
ヒロトは体全体を吹き飛ばしてそれを回避する。
それが流れた一撃で、森全体がドォンッと震えた。
「チャンスだ…!」
ヒロトは、その腕にオーラをためて、グリズリーの腕を架け橋に頭をめがけて走る。
ついに肩までかけ上がると、飛び上がって右頬にパンチを叩き込む。
「やった…!」
ラビットも相当のダメージを期待する。
ドンッという音がしたのだが、グリズリーはケロリとしていた。
「嘘だろッ!」
グリズリーは左腕で、ハエを払うかのようにヒロトを叩き落とした。
9mあまりの高さから落とされたヒロトは、その痛みに身動きも取れなくなった。
「がぁっ…!ぐっ」
「ヒロトさん…っ!」
心配して駆け寄るラビットにも脅威が迫る。
二人の頭上には、2mほどの足があった。
ラビットは、すぐさまエアスピアーを構える。その槍にかなりの魔力をかけて。
「ウガァアッ!?」
グリズリーの足に尖ったそれが刺さり、ラビットは血を浴びる。
意表を突かれたグリズリーは、驚いてその巨体を背中向きに倒す。
地震のような揺れと、森の木々が破壊される音が一斉にやって来て、ほんの少しの安寧の時間が訪れる。
「ヒロトさんっ!しっかりしてください!」
「うぅ…っぐっ!」
ヒロトの体は、背骨にヒビが入っている。
今のヒロトは相当の激痛に支配されてた。
「今から俺は…オーラで自分で処置を始めるっ…だからお前は何とか…グリズリーから身を守れっ!」
「そんな…!」
ヒロトは処置を始めるが、ラビットの背後からは巨大な影が迫っていた。
「ガルルルッ…!」
「!?」
巨大なグリズリーの顔面は、確実にラビットを見据えていた。
北校舎でのように連れて逃げれればよいのだが、彼女には先程のレッドホーンフッドのダメージがあるので走れない。
「うっ…」
少女も自分がバーギラの様子を見ることしか出来ないことを悔やんでいた。
だがそこで、彼女は後ろのバーギラの様子が変わっていたことに気づいた。
「!」
眠りのために閉じていた目が開いていた。
その絶望に歯を食い縛るラビットは、そこに目を閉じる。
「くっ!」
──すると次の瞬間、戦況が一気に変わる。
二人の頭上を飛び越えて、何か巨大なモンスターがグリズリーに襲いかかる。
「ガァアッ!?」
グリズリーの10mの巨体を押し倒したのは、13mの巨体のバーギラであった。
バーギラはグリズリーと森に倒れ込み、戦いが始まる。
「ゴァアアーッ!!」「ガオァアーッ!!」
双方轟音とも言うべき咆哮を上げながら、森の木々を次々となぎ倒してゆく。
ヒロトもラビットも少女も、それには驚きが全く隠せなかった。
──バーギラが口を開けると、そこには金色の鋭い牙が並んでいた。
「ガオァアーッ!!」
「ヴァアアッ!?」
その牙は、グリズリーの首を挟んで放さない。
ヒロトのパンチにも屈しなかった屈強な首からは、溢れんばかりの血が吹き出ていた。
そして、グリズリーは生命活動を停止した…──レベル28の魔物がほんの一噛みでである。