第44話『狂暴な魔物大発生』
「レベル15程度のモンスターが6体だと…!ふざけんなよ!」
「今はとにかく、この状況を切り抜けなければ!」
ヒロトとラビットは、後ろで構える少女を見る。
先程の鳥の魔物のときと同様に、彼女は目を血走らせ喉を鳴らしていた。
あの瞬発力と危険察知力は、ヒロトとラビットにはない武器だ。
だが、彼女が危険に陥った場合に、二人はバーギラも同じく守ることとなる。
「(──難しいことは考えんな…!出し惜しみすると、死ぬぞ…!)」
「ヴォアアーッ!」
まずはじめに襲ってきたのは、危険レベル17のレッドホーンフッド──この中では最も危険だ。
奴の鍛えられた腕が地面に振るわれると、地面が大きくへこんでしまった。
三人はそれを避け、それぞれ別々の戦いを強いられる。
「──!?」
ヒロトが横を見ると、レベル15のランページボアーが猛進してきた。
「ブヒィイーッ!」
「ぐっ…!」
ヒロトはオーラを纏ってそれを受け止める。
だが、イノシシによってかかる力は衰えることを知らなかった。
「これっぽっちのオーラじゃテメェは止まらねえってか!さすがはレベル15だな!だが…──」
だが、ヒロトはイノシシを掴んで全力を振り絞る。
「…テメェにはこれで十分だってことだァアーッ!!」
イノシシの1tの巨体が、みるみるうちに持ち上がっていく。
「ンの…ァアアーッ!!」
ヒロトはイノシシを投げ倒した。
「…くっ!後ろか!」
ヒロトの背後に迫っていたのは、レベル13のレーブルクロウ──黒い翼に赤い紋様がかかった体長5mのカラスだ。
「ガァアァーッ!」
「ぐっ…!ピーピーうるせぇんだよ!」
ヒロトは、ここから遠く離れた所で戦うラビットの所へ、逃げるように走った。
「──のァ…!?」
しばらく走る二人の前に、オオバサミイタチが現れる。その長いシッポは、まるでハサミのような形状だ。
「…くそッ!」
イタチはその尾を巧みに扱い、ヒロトを挟もうとする。
「くそっ…シチめんどくセェッ!」
ヒロトはそのハサミを避けていく。だが…
──ガシッ…
「!?」
ヒロトはそのシッポに巻かれてしまった。
「キィイイーッ!」
「ふざ…っけやがってェーッ!」
だが、ヒロトはオーラを纏って徐々に引き剥がしてゆく。
「ギギ…──ギッ!?」
悔しそうなイタチの表情が突如悶絶すると、ヤツは泡を吹いて倒れた。
「急ぎましょう!ヒロトさん!」
イタチがヒロトを絞めている隙に、ラビットが鳩尾に衝撃波を放ったおかげだ。
「──ギィアーッ!」
レーブルクロウの鳴き声だ。もうヤスデから解放されたらしい。
「相手にしてられねぇ!後回しだ!」
──少女は、眠るバーギラを守るように、レッドホーンフッドに一人立ち向かっていた。
「ウガァアアーッ!!」
「バァアーッ!」
少女はレッドホーンフッドの攻撃を掻い潜り、その首の付け根をぶん殴る。
「バウッ…!──ガァアーッ!」
だがそれでは怯まないと、すぐに反撃がやって来る。
少女はその豪腕に捕らわれ、捻り潰されようとしていた。
「がぁっ…!うぁあーっ!」
「バゥウアアーッ!」
痛みに苦しむ少女に勝利の雄叫びをあげるレッドホーンフッド。
だが、その戦況が一気に変わる。
「ガァ!?」
ヤツは、横から迫るただならぬ危機に気づいた。
だがそこには誰もいなかった。
「──こっちです!」
レッドホーンフッドは、下から跳んでくるラビットに気づく。
「だぁーっ!」
ラビットのエアスピアーが奴の腹に刺さる。だが、深くは刺さってくれなかった。
「筋が固すぎるっ…はっ!」
気づけば、奴の反撃の拳が目の前に迫っていた。
「うぁッ!──くっ…」
肉体強化魔法でダメージを軽減することには成功したが、後ろの木に背中をぶつけ、痛みで起き上がれない。
少女は解放されたが、レッドホーンフッドが痛みを堪えていると、ヤツは横から迫る驚異に気づいた。
「だあらッ!」
横からヒロトが現れる。
オーラを蓄えた腕が、レッドホーンフッドにうなる。
「ガヴァッ!?」
右頬にパンチが直撃し、ヤツの7mの巨体は音を立てて倒された。
「…っ!ふぅーっ」
ヒロトが倒したことで安心した少女は、次に迫るとんでもない危機に気づく。
「ヒロト…まえっ!」
「!」
少女が警告する。
目の前のレッドホーンフッドは起き上がっており、その後ろからも、残り5体の魔物が現れた。
「「!?」」
絶体絶命のピンチに、少女とラビットは歯を食い縛る。
「二人とも、耳閉じてろ」
「えっ?」
「いいから閉じてろ!」
──ラビットの質問をさえぎって、ヒロトはその6体が集まったところを見据える。
各々がとてつもない声量で咆哮するなか、ヒロトが息を深く吸う。
「!」
ラビットは即座に何かを感じとり、少女にも耳を閉じさせる。
二人が耳を閉じてから、その場の魔物たちの喧騒が沈黙に変わる。
「──じゃっかしィンじゃあっボケがァああああッ!!」
突如響く大音声に、魔物たちが静まる。
彼の後ろには間違いなく、10mほどの体長の鬼神がいた。
魔物たちを襲うただならぬ威圧感は、ヤツらの動きを封じていた。
「と…止まった…?」「いまの…なに…」
「俺のオーラを爆発させた。相手に脅威を与えるには最高なんだ」
──だが、それでは終わらない。
次の驚異が、すぐそこまで迫っていた。
──ドゴゴゴ…
「何ですか…!この揺れは!」
「森全体が、震えてるのか…」
三人が怖じ気づいていると、後ろから超巨大な魔物が現れる。
「バァアアアアーッ!!」
巨大なグリズリーの魔物だ。
なんと大きいのだろう。8mはある。
「何だよこれっ!どうなってんだよ!」
「──!?ヒロトさん!」
ラビットが、グリズリーの手を指差す。
「──あっ、あの爪は…!?」
グリズリーの手の鋭い三本の爪は、かのバーギラの背中の傷を簡単に思わせた。
『──魔物化ジャイアントグリズリー:危険レベル28』
「──ガァアアーッ!」
グリズリーが魔物たちに襲いかかる。
その鋭い三本の爪を降り下ろすと、レーブルヤスデが分断され、体液が吹き出した。
「ギャァーッ!」
逃げようとするレーブルクロウの羽をすべて引きちぎると、その爪でズタズタに引き裂いていき、オオバサミイタチも同じありさまだ。
そこでレッドホーンフッドが前に出る。
「ゴァアーッ!」
グリズリーに果敢に立ち向かうものの、ヤツはそいつの恐ろしい目に睨まれ、いすくめられる。
「ヴァアアアアーッ!」
グリズリーはその手を握りしめて、レッドホーンフッドの脳に叩き込んだ。
「…!ガッ…ァガ」
「ヴォオオオッ!」
倒れてから、体を爪でズタズタにし始める。
めいっぱい抵抗したのだが、結局はそれも止まる。
ひとしきり暴れたあと、グリズリーの動きが止まる。
そしてグリズリーは、血走った眼でこちらに振り返った。