第43話『森の中での違和感』
「──いた!バーギラ…あれ?」
三人は、バーギラのところに到着した。
だが、バーギラはその巨体を倒していた。
「なっ…まさか!」
ラビットがかけよって様子を見る。
脈は十分にある。どうやら心地良さそうに眠っているだけらしい。
「はぁ…よかった」
「憑き物が取れたように安らかに見えるな」
二人はその様子のバーギラを眺めていると、少女がわからない行動に出た。
「…」
「…?何だ」
「…え?」
少女はバーギラの前に立ち、見つめた。
彼女の様子を見るに何かがあるようだが、それは二人にはもちろんわからないらしく、彼女ですらもわかっていない様子である。
──朝から次々と不思議なことがあるので、二人はバーギラを見ながら首をかしげることしかできなかった。
「ゴァアアーッ!!」
突如森中に響く咆哮──三人は驚く。
「魔物か?ここはバーギラのシマだろ」
森の木々を割って姿を現したのは、虎だった。
だが、その体格は以前よりも大きい。5メートルはある。
「コイツは…あのときのレーブルタイガー!」
「…!魔物化してます!」
突然の危機に、二人は臨戦態勢に入る。
『魔物化レーブルタイガー:危険レベル12』
「レベルは10を越えますが、ここはわたくしが!」
「いけるか」
ラビットが頷いてかかる。
手にエネルギーをためると、ラビットはそれで攻撃を跳ね返しながら接近し、その手を虎の鳩尾に携える。
「インパクト!エアスピアー!」
虎は吹き飛ばされ、その槍に体を貫かれ、血を撒き散らしながらその巨体を転ばせた。
「ふぅ…!」
「やるな…お前!」
「ええ、血がつくのは嫌なので吹き飛ばしました──でも、そんなことより…」
ラビットはその虎を見る。
「魔物化した虎のレベルは12~17あたり…ですが、このように現れることは滅多にないはずです」
「じゃあ、こいつは何で魔物に」
「…それが謎です」
──こいつを見て、ヒロトは北校舎の事件を思い出す。
そこでヒロトは、ラビットに質問する。
「なあ、ラビット。質問なんだが…」
「…?」
「…魔物を人為的に作り出す方法って、あるのか?」
それを聞いた途端、ラビットの表情から光が消えた。
光の消えたその目を見て、ヒロトは一滴汗を垂らした。
「…あります」
「…って、あるのかよ!その妙な間やめろよ!」
ヒロトはラビットに笑って言ったが、彼女は真面目に話を続ける。
「ですが、できないのです」
「え…」
「魔物がどうやって生まれるのか、ご存じですか?」
「確か、生物が…魔力だっけ?それを過剰摂取したらなるんだろ」
「はい」
ラビットはそれに補足する。
「魔力を過剰摂取させたなら、それは必ず魔物になるんです」
「それって、どういうことだ?」
ラビットは、近くに生えている草に手を携える。
彼女の手が光り、その光は草に送られる。すると、その草は急成長した。
「!?」
「わたくしは今、この草に魔力を送りました。意味がわかりますか?」
「魔力を送り込むっつうのは、人為的にできるってことか?」
「はい…魔物の生成は、魔法使用原則に大きく違反します。殺人罪にも並ぶ重罪です」
「…」
ラビットも、突然家に現れた魔物に、両親や召し使いを殺されている。
彼女の言葉にこめられる思いは、ただ事ではなかった。
「──…質問を続けてください」
「…おう」
ヒロトは、先程のラビットの発言を踏まえて言う。
「北校舎でのこと、覚えてるか?」
「…魔物に襲われたことですか?」
「違う」
「…?」
ヒロトが言いたかったのは、そこではない。
「俺たちを横ぎっていった、恐ろしい感じのヤツのことだ」
「なっ…あれですか?」
「お前も感じたろ。あれを」
「…はい」
「北校舎に魔物が現れたなら、あの邪悪な魔力の持ち主がそれなりに関わっていると思ってる」
「なら、ちょっと待ってください…!もしそうなら──」
そこで、二人は驚きの現実を叩きつけられることになる。
ラビットは、震えた声で続けた。
「…この森に…あのような魔力の持ち主がいると…?」
「…そうだろうな」
二人が怖じ気づいていると、そこで少女が不安そうな表情でやってくる。
「…」
「…?あっ、すまねえ。不安にさせて悪かったな」
その後も、その少女は少し不安そうな様子だった。
「──事態は、思ったよりずっと深刻みてぇだ…」
「ヒロトさんの言うことが本当なら、バーギラやこの少女、他の動物の安全も心配ですね」
バーギラは眠っている。相当体に負担がかかっており、今はほぼ運動もできないかもしれない。
「レベル12の魔物がいるくらいです。レベルが低いにしても、さらにたくさんの魔物がいるかも…」
「そうだな…ここはせめて慎重に…──」
そう話す二人と、それを見る少女。
その時間がしばらく続いて、ヒロトがそう言いかけたその時のこと。
『──へぇー…随分と勘がいいんだねぇ。誉めてあげるよ』
「「「!?」」」
三人は、突如響くその声に驚く。
「…!どこから!」
『これはテレパシーさ。それは君たちだけにしか聞こえないし、僕を探しても無駄だよ』
「テレパシー!?…そんな上位魔法を!」
「てめぇ何モンだ!ここの魔物は全部てめえが生み出したのか!」
『…ああそうさ。ならどうするの?』
その声の主は、ヒロトにそう聞く。
「…てめぇを意地でも見つけて、ぶん殴る…ッ!!」
『ははっ!へぇ~…なら──』
高らかに笑う声の主は、そこから続ける。
『来てみなよ…来れるものならね』
その声が冷たくなると、突如森が震え、森中の鳥が一斉に飛び立った。
『この森の強力なモンスターはぜーんぶ魔物にしちゃったけど、そいつら全部ぶっ倒してね~』
すると、先程のが現れたように、そこから魔物が出てきた。
虎よりも巨大で狂暴な魔物が、そこからわんさか出てきた。
『──魔物化ランページボアー:危険レベル15』
『──魔物化レーブルクロウ:危険レベル13』
『──魔物化オオバサミイタチ:危険レベル14』
『──魔物化レッドホーンフッド:危険レベル17』
『──魔物化レーブルヤスデ:危険レベル11』×2
体長5m以上のそいつらにいすくめられながらも、三人は臨戦態勢に入っていた。