第40話『衰弱するバーギラのために』
「何だ…こいつ」
そこに倒れているバーギラに、ヒロトは疑念を抱く。
だが、ラビットはその理由に気づいていた。
「かなり衰弱しています。呼吸が荒いですね」
「…!本当だ」
先程からゴロゴロと鳴る音は、恐らくこいつの呼吸が影響している。これだけ巨大な生物が必死に呼吸すれば、森が震えるのも無理はないだろう。
「…」
ヒロトはそのバーギラの体を見て思う。
その体は、少し痩せている。恐らく十分な食事を摂れていなかっただろう。
そして、しばらく体を見ていると…。
「…──!何だこれは…」
ヒロトはバーギラの体にあった何かに驚く。
「ちょっとこれ見ろよっ」
それにラビットも向かう。すると、彼女の視界にも衝撃の光景が焼けついた。
「つ…爪痕…!」
横腹に深く刻まれた三本の裂傷が、それを爪痕だと認識させた。
だが驚くべきはそこではない。なにより驚くべきはそのサイズだ。
それは実に、1.8平方m。
「こいつは…一体」
──それが何であったとしても、ここでバーギラをこの状態のままでいさせるつもりはない。
二人はバーギラを救うため、奮闘することにした。
「まずは飯だな…とびきりでかいモンスターをやるか」
「わたくしはこの傷を診ておきますね」
ラビットはバーギラの傷に回復魔法をかけはじめた。
「よし…あっ、俺たちの分もとってくるからな」
「はい!」
──ヒロトは森を走りながら、美味しそうな果実や木の実を採取していた。
なお彼もバカではないので、木の一つ一つにリボンをつけながら進んでいった。
だが、道中大きな泉を見つけたのでそれを見つければすぐだろう。
「そろそろ肉がほしいな…魔物の肉なんかは欲しくもねえけど」
1つの巨大なリュックがパンパンになるほどには集まったのだが、肝心のバーギラに与えるための肉がない。
とびきり大きなものがあれば、バーギラも元気になるだろう。
ドオンッ…!
「…ん?」
森の奥から、突如木々が倒れる音がした。
「ブィイイッ!」
そこには、3mほどの巨大なイノシシが2体立っていた。
『ランページボアー:危険レベル6』×2
あちらもかなり腹を空かせているらしい。
「へへっ、弱肉強食の世界だ…食われても文句は言うなよっ」
ヒロトがオーラを纏わせて、戦いが始まった。
「──…よしっ、これで傷が治りましたね」
ラビットは、20分をかけてその傷を治した。
あまり専門ではなかった回復魔法も、修行のおかげでこれほどまでに成長したのだ。
これだけの傷が癒えたので、バーギラの顔には少し安らぎが見えた。
ラビットはほっとしていたが、帰りが遅いヒロトが心配だった。
「…」
先程ヒロトがくぐった木の方を何ともなく見る。
するとそこには、巨大でいかめしいイノシシの顔があった。
「ええっ!?」
驚きのあまりのけぞっていると、そのイノシシの横からヒロトが笑って現れた。
「はっはっは!驚いたな!」
「何してくれるんですかもう!いつからそこに!」
「ついさっきだ…まあともう一匹とってきたから許してくれよ」
「どうでもいいですよそんなことは!」
──ヒロトはその捕らえたイノシシを、バーギラの前に運んだ。
「こいつは俺らからお前にだ!」
バーギラはヒロトをしばらく見つめていた。
「…」
そして匂いを嗅いでから、それにかぶりついた。
バーギラを見て、ヒロトはリュックの大量の果実も差し出した。
「縄張りの中で弱って、獲物も寄り付かない状態で、よっぽどひもじい思いをしてたんだろうな」
「そうですね…」
──バーギラがあらかたそれを平らげてから、そいつは二人の方を向いた。
「ん?」
その目を見て、ヒロトは何とかそのバーギラが伝えたいことがわかった。
「この縄張りにいさせてくれんのか?」
バーギラは目を閉じた。こいつなりの合図だろう。
「じゃあ、そうさせてもらおうかな」