第39話『ジャングルの魔物』
二人は森を進みながら、話していた。
「先程のように、魔物以外の動物を殺さない手筈では、あなたのオーラは必需ですね」
「確かにそうだな。実力行使では殺しちまう」
数少ない自然の宝庫であるこの森のモンスターを殺す訳にはいかない。殺すのは魔物だけに絞るのだ。
そう思っていると、突如鳴き声が響いた。
「ガラララァ…ッ!」
奇妙な鳴き声だ。嫌な予感がする。
辺りを見渡すと、幾多もの1mの魔物が二人を取り囲んでいた。
「ざっと15匹ってところか」
「トロルラットにレーブル鳥…ほかもざっと計算すると、平均4といったところでしょうか…」
「魔物の情報担当はお前だけだな…俺にできるのは、駆除だけだ」
「…それで十分です!」
『──魔物化トロルラット:危険レベル5』×7
『──魔物化レーブル鳥:危険レベル4』×4
『──魔物化グロスリザード:危険レベル4』×5
「魔物がこんだけいるとはな…森が危ねぇわけだ」
「手分けして倒しましょう…あなたは──」
「命令を聞く耳はないぜ!だありゃッ!」
ヒロトはラビットの忠告も無視して、トロルラットに殴りかかる。
パンチをめり込まれたトロルラットは、後ろの木にぶつかって死んだ。
ヒロトの力任せな作戦にため息を漏らすラビットだったが、その手にエネルギーを溜め、襲いかかるモンスターを迎え撃つ。
「インパクト!」
彼女の放つインパクトは、モンスターを何度も確実に捉えていた。
ラビットがカリンから学んだのは、一口で魔法とは言っても、効率的に魔法を放つ実践練習だった。
彼女の魔法の才能は、ムーン家によって育まれてきた本物のものだ。だが、生徒会の下で磨かれたのは、それをさらに発展させた技術であった。
「やるなアイツ…だけど、こっちも!」
ヒロトはオーラを自在に操ってモンスターと戦っていた。
彼の喧嘩の実力はメイプルにも認められている。
メイプルに教わったのは、体術にあわせてオーラを完璧に順応させること──もちろん、オーラとともに8年間生きてきたヒロトにとっても、これには驚くほどの集中力が必要だ。だがヒロトは、より簡単にそれを行う方法にありついたのだ。
その修行を考案したのはカリンである。その課程の中で何度も体を撫でるので気味が悪かったが、その方法は確実にヒロトを強くしていた。
「こいつで最後だな!うぉらッ!」
ヒロトは最後にオーラを足に纏わせ、トロルラットを蹴り下ろした。
「ふぅ…生徒会のもとでの修行は、しっかり結び付いてるみたいだな…」
「本当ですね…自分でも驚きです」
二人にとって、レベル4程度の魔物などどうといったことはなかった。
──だが、問題はバーギラだ。
レベル42のソイツはどんなヤツなのか、危険な怪物なのか、二人はそこに意識を張り詰めていた。
※
「森にやって来て、もう5時間という所でしょうか。日が落ちてきています」
「バーギラもまだ発見できてねぇし、やっぱり野宿は避けられないか」
恐らく夜になると、森のモンスターの動きは活発になる。単独行動は危険だ。
「となると、二人で眠れる場所を探すか」
「えっ!」
なぜだかラビットは驚いた。
二人は部屋も別々だったため、ラビットはヒロトと眠るなどということを考えていなかった。
「えっ──ってなんだよ」
「いえっ…別に何でもありませんからっ!」
今日はラビットの様子がやけにおかしいなと、ヒロトは内心思っていた。
「──そういえば、モンスターの姿が見えないな…」
「…!ですね」
他のところでは多く見るはずのモンスターが、今となってはめっきりいない。
一体どうなっているのだろう。不思議に思いつつ進んでいると、二人は行き止まりに差し掛かった。
「何だ?行き止まりか?」
道を阻んでいるそれは、なにやら金色の毛並みのようにも見える。
そしてそれは、ある一定の間隔で動き、それにあわせて、どこからかゴロゴロと地響きのような音が響いている。
「…何なんだ?これ」
「わたくしに聞かれましても…」
ヒロトが謎に思ってそれを見上げてみる。
すると、思いもしない光景が目に飛び込んできた。
「なっ!?」
ヒロトは驚愕に表情を歪ませる。
それを見てラビットも上を向くと、ラビットはその驚きに腰を抜かした。
「ガァアルゥァ…」
まさに4m以上の大きさの猿の顔面。
その猿の目は、確実に二人を捉えていた。
「まさか…この猿のモンスターは…」
「ああ…それとしか考えられない!こいつが…バーギラ!」
『──バーギラ:レベル42』
バーギラの放つ威容に、二人は気圧されてしまう。
だが、ヒロトは負けじとオーラを放ち、バーギラを脅す算段にでた。
「うぉおああーッ!」
そのオーラの強さを、ラビットも肌で感じていた。
「ヒロトさんが、あそこまでオーラを高めるなんて…」
彼がある程度オーラを放った後でも、バーギラは初見の体勢から動かぬまま、二人を見つめていた。
「なにッ…」「!」
二人が驚いていると、そのなかでラビットが何かに気づく。
「──ガロロ…グロァ…」
バーギラは、ひどく衰弱しており、加えてこちらに敵意は示していないようだ。