第03話『ヒロトの編入』
およそ二時間の検査を終えて、ヒロトは特別指導室に呼ばれた。
「どういうことなんだキミ!」
一人の教師は、唾がとびそうな勢いでヒロトに声をあげた。
そして彼のお叱りをうけるヒロトは、いかにも不機嫌そうだ。
「魔法のステータスがEってなんだ…?せめてDでも、低級魔法の未完成でもとれるんだが、お前は平然と魔法ってなんだとしらを切っていたそうじゃないか」
「しらを切ってなんかねえよ。それでも他の項目じゃあAなんだぞ。兵と組手で勝てるレベルだってさ」
確かにヒロトは魔法の才能こそないが、握力計を片手で破壊し、50mを4.0秒で走破、そして魔法を使って壊すはずの壁に飛び蹴りでヒ皹をいれてみせた。周りの生徒には、当然このレベルについてこれる生徒はいなかった。
「だがなっ、ここは魔法学園なんだぞ?魔法が全てなんだよ!」
教師は再び堪忍袋の緒を切ったように怒号を浴びせた。
「なんだ!魔法なしで魔物の一匹でも倒せるとでも言うのか!」
「つうか第一、魔物ってなんだよ」
「あぁーっ!つける薬もない!」
ついに発狂した教師。
「全く、お前は何をしにここに来た!とっとと出ていってしまえ!」
そう言われても、ヒロトにこの世界には、ここ以外の身寄りはない。
今までの人生を、魔法とは無縁の世界で過ごして来たのだから、声をあげられる所以はひとつとしてなかった。
ヒロトが静かに立ち上がり、彼の腕は教師の方を向いた。
「おっ…おい!何をする気だ!」
ヒロトは教師の後ろに回り込み、彼の首を締めた。
「うっ…!放したまえ!私が悪かった!──誰かああ!誰か助けてぇーっ!!」
「俺にはここ以外に居場所がなくてよっ、魔法なんざは今から習得すりゃあいいだろォ!?俺を入学させろやァ…なァ!?」
「離せぇ!ちょっ…ぎゃあああっ」
ヒロトは教師の必死の抵抗にもびくともしなかった。
──ガラガラ…
ドアが開き、ヒロトはそこを見た。
そこにいたのは確か、壇上に立っていたラビットとかいう少女である。
「あの、どうかしました…──か!?」
「たっ…たすけてぇっ!」
今日の壇上では落ち着いた様子の目立っていたラビットは、必死の抵抗をする教師の首を締めるヒロトに目を見張った。
「ちょっ…あなた何をっ!」
「見てわかんねぇ?」
「いやそういうことでは──…いやいい加減離してあげてくださいよ!」
※
「まったく…10組に編成され、あげくの果てに暴力とは…」
ラビットは溜め息をついた。
「ここは喧嘩の場所じゃないんですよ、学園です」
「別に10組うんぬんの件はどうでもいいんだ。こいつの舐め腐った態度が気に食わなかっただけだ」
「魔法学園で魔法が使えないなど本末転倒ですよ」
「ちっ。そういうお前は何組だ」
「1組です」
「…」
情けないもので、ラビットのその一言に言論は終局した。
教師はやっと呼吸を整える。
「彼女は幼い頃から魔法の英才訓練を受けてきたこともあって、魔法とそれをいかすテクニックがキミとは大違いだよ」
「あ?殺すぞてめぇ」
「ひいっ!?」
「やめてくださいよもう!」
──ラビットはヒロトを止め、指を突き出して続ける。
「とにかくヒロトさん、あなたの実力はこの魔法学園では通用しません。第一、なぜあなたが生徒として生き残ったのか理解に苦しみます」
ラビットの容赦ない言葉の応酬に、ヒロトはぐうの音も出なくなった。
だが、ヒロトは小さく言葉を漏らす。
「俺だって…わからねえことだらけなんだよ…」
「…?」
ラビットはその言葉に、疑念が植え付けられるのだった。
「──…ん?もうこんな時間か」
教師は時計を見てはっとした。どうやら休憩時間は残り8分で終わるらしい。
「…」
「…」
ヒロトとラビットはしばらく睨みあってから、指導室を出た。