第38話『レーブルジャングル』
「ここが、レーブルジャングルか?」
「はい」
二人は、その森の前に到着した。
目の前には、すでに目で覆いきれないほどの緑が広がっていた。
「木のひとつひとつがでけえなぁ」
「あと、獣の鳴き声もたくさんしますね」
流石は数少ない自然の宝庫──モンスターの声が嫌でも聞こえてくる。
「ギャーッ!」「ハルル…!」「アアーッ!」
鳴き声の種類を聞くと、あらゆる種のモンスターがこの森に共生していることがわかる。
「ですが、何やら様子のおかしい声もしますね」
「…言われてみれば」
耳をすますと、何やら獰猛さと狂喜さの増した声が聞こえてきた。
「ゴギャゴァーッ!?」「ブェレャアァーッ!」「ビージュラララッ!」
このような鳴き声には、どこか心当たりがある。
「恐らく、魔物か」
「はい…」
魔物は一匹だけでも自然界の驚異となり得る。ガンダーの授業から学んでいる。
「早いとこ駆除しにかかるか…修行の成果も試してみてえしな」
「はい」
二人が森に入ると、差し込む日光は遮断され、辺りには暗い緑が広がった。
「ちょっと不気味ですね…」
「お、びくついてんのか?」
「なっ!…してませんよ!」
「へッ…」
鼻で笑うヒロトに、ラビットは少し青筋を立ててそっぽを向いた。
「(まったく、ヒロトさんの気に入らないところはこれだ…わたくしをいつまでもおちょくって…)」
折角先程は見直したというのに、これでもう台無しだ。
「──お前、カリンとの修行は順調なんだって?」
「…ええ。あなたにも負けないくらいには」
「へぇ…言うじゃねえか」
ヒロトはニヤリと笑ってラビットを見ると、ラビットも笑い返す。
やはり二人は腐ってもライバル──こうやって強さの次元で高めあうのが、彼らにとってお似合いであろう。
「…じゃあ、こいつは誰が仕留めようか?」
「…」
ヒロトの目の前にいたのは、3mほどの巨大な図体の虎であった。
『──レーブルタイガー:危険レベル6』
どうやらここはこいつの縄張りだったらしい。
「ハルルルァ…ッ」
虎は二人を威嚇するが、なぜか二人は恐れる様子はなく、呑気に作戦をたてていた。
「かなり危なそうなヤツだが…どうする?」
「魔物ではないようですし、生かしましょう」
「んじゃ、ちょっと脅すだけにするか…」
ヒロトの体が、とても淡いオーラに包まれる。
『動くな…!』
虎は、まさか威嚇し返されるとは思わなかっただろう。目の前のヒロトがまるで鬼のように見え、体からは汗があふれた。
「早いとこいくぞ。長くするとこいつ失神しちまう」
「はい」
しばらくして二人がそこから離れると、虎はやっとその恐怖から解放される。
虎は一瞬、少なくも死を予感していた。生きている幸せを、今ひたすらに噛み締めていた。
今この森において、一番の驚異が彼らであることには、何の疑いもない。