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魔法学園と鬼氣使い(ヤンキー)  作者: みっしゅう
第1章『全てはここから始まった! 最強の日本人ヤンキー 異世界の魔法学園に転移!』
38/96

第37話『ラビットの心のムズムズ』

※夜は明けて…──


 ヒロトとラビットは092号室で落合(おちあ)い、学園長室へと向かっていた。

「どうだ?今日の調子は」

「わたくしは万全(ばんぜん)ですが…あなたは?」

「当然俺も万全だ」

「10組の方々は説得できました?」

「…ひっくり返ってたわ」

 二人が(なら)んで歩くさまを見て、そこにいる生徒一同はざわめいていた。


「あの二人…カリンさんとメイプルさんに修行をつけてもらってるらしいぞ」「知ってる知ってる。ラビットさんはムーンの血を引いてるし、ヒロトさんだっけ…あの男にも不思議な力があるからなのかな」

 オーディショナルトーナメント以来のこの二人が、かの生徒会との関係をもっていることはしれわたっていた。

 だが、その二人の関係はというと、何やら周りから見て少し不思議そうだった。


「あの二人…何か変に距離(きょり)空いてない?」

「(…えっ!)」

 ある一人の女子の言葉に、ラビットは大きく動揺(どうよう)した。

「(ウソっ!わたくしがこの男を意識しているのが見え見えではないですかっ!)」

 ラビットの表情にこそ変化はなかったが、彼女の心はバクバクと強く脈打(みゃくう)っていた。

 彼女が動揺しているのには、昨晩のヒロトのある一言が由来している。

「(いかに昨日(きのう)のヒロトさんの言葉が心に(ひび)いたと言え、わたくしはこんな男に恋情(れんじょう)なんて(いだ)きませんから!)」

 その動揺は度々(たびたび)高まってきて、ラビットはブルブルと(ふる)え始める。

「ちょっ…ラビット大丈夫か?」

 だが、今のラビットにはヒロトの声は聞こえない。

「(それにヒロトさんだって言ってましたし!わたくしはガールフレンドじゃなくライバルだって!)」

 だが、ラビットにとってはそれが一番心残りな点であった。本人は意地でも認めたくはないだろうが。

 彼女がそうやって震えていると、その肩が急に掴まれた。

 ──がしっ!

「ひゃっ!?」

「お前大丈夫か?」

 ラビットはあまりの驚きに、(しび)れるように大きく震えた。

 すぐ目の前まで迫っていた顔に、ラビットは廊下の壁からへなへなと(くず)れ落ち、そこにいる全員も(おどろ)いていた。

「ちょっ!お前マジで大丈夫か?」

「あ…あ…──はっ!」

 酸素がうまく頭にいかず過呼吸になっていたラビットは、そこでやっとはじめて正常に戻った。

「ちょっと!何近づいてるんですか!不純(ふじゅん)ですよ!」

「いやっ…震えてたから…」

「わたくしはなるべく距離を取りますからね!半径5m以内には、近寄らないでください!」

「えぇ…」


※10分後、二人は学園長室に到着した


「(…わたくしは何を悩んでたんでしょう…バカらしい)」

 ラビットは今になって、さっきまでの自分の(おろ)かさを()やんだ。

 ヒロトには、なぜこうなったのか一切の見当もつかなかったが、ラビットはそこでようやく落ち着いてリズレに向き直った。

「ちょっと何かあったらしいけど、じゃあ出発しようか」


 ──ヒロトとラビットは、リズレと一緒に校門前にやってきた。

(つか)いの車は出せるけど、大丈夫かい?」

「ああ…道はラビットがわかってるだろうし、ついていけばいい──だろ?ラビット」

「はい」

 すっかり正気に戻ったみたいだとヒロトは胸を()で下ろしつつ、二人は学園を出て歩き出した。

「じゃあ、行ってくるぜ」

「行ってきます」

「うん!それじゃあね」

 …歩いていく二人が小さくなって、ついに見えなくなる。


「よしっ…──ん?」

 二人を見送ったリズレは、学園長室に戻ろうと再び歩きだしたが、校内からの一人の生徒が、走ってそこへやって来たことに気づいた。

「おや…?君は…」

「はぁ…はあっ」

 その生徒は少女であった。息を切らす様子を見るに、よっぽど急いできたらしい。

「君は確か…2組の──」

「はあっ…クレアです…っ」

 クレアは呼吸を(ととの)えつつ、リズレに質問する。


「学園長…!先程にここを通ったのは!」

「…1組のラビット君と、10組のヒロト君だけど」

「…っ!」

 クレアは、また過呼吸に(おちい)る。

「はあっ…はあっ…ヒロト君…」

「いったいどうしたんだ…」

 クレアはトーナメントの時と同じく、またヒロトを逃すこととなってしまった。

 彼女は、ヒロトに何の用があるのだろうか。なぜ、彼を『ヒロト君』と呼ぶのだろうか。


※街に出た二人


「この街から少し歩けば、門をくぐって森に向かえます」

「OK」

 ラビットは、神妙な様子で街を歩いていた。

 その理由は他でもなく、周りの視線であった。

「ラビットちゃんだ…ムーン家の」「2年前のあの事件、可哀想(かわいそう)な限りだ…」「やはりあの学園にいたのね」

「…」

 その声に対してラビットは、ため息をつくことも耳を(ふさ)ぐこともなく、そこをとぼとぼと歩く限りであった。

 その様子に気づいていたヒロトは、そんな彼女を(あん)じてある行動に出る。

 彼はラビットの手を(にぎ)り寄せたのだ。


「…えっ?」

「…」

 ヒロトは何も言わなかった。

 その代わり、注目はラビットからヒロトに移った。

「誰だ?あの男」「何でラビットちゃんの手を?」「同じ学園の生徒っぽいけど」

 これはヒロトの計算だった。これでラビットへの注目が退()くだけで、それでよかったのだ。

「…ヒロトさん」

「…なんだ?」

「い…いえ…何でも」

 ラビットは驚きつつも、その手を放そうとはしなかった。


 ──ラビットとしばらく歩いて、二人は門の近くへやってきた。

「あの門です」

「よし、早いところくぐろう」

 ヒロトはラビットから手を(はな)そうとするが、なぜか離れなかった。

「…ん?」

 なぜだろうか、ラビットの方から握っているような…。

「…はっ!──これは…その…(ちが)くて!」

「…ぁあ?何テンパってんだお前?」

 顔を真っ赤にして必死に弁解するラビットを、ヒロトは(わけ)のわからない様子で見つめていた。

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