第36話『ヒロトにとってのラビット』
10分後…──
「その…落ち着いたか?ラビット」
「…はい」
あの後からこれまでの間、ラビットはありとあらゆる怒りを言葉にのせてリズレにぶつけた。
ブルーになるラビットを申し訳なく思いつつ、リズレはヒロトにひとつ質問をかける。
「率直な疑問なんだけど…、君にとってのラビット君は…いったいどんな?」
「えっ…──うーん…」
ヒロトは、一度返答に時間をおいた。
「なんかわかんねぇけど、すげえやつだなぁって思う」
「え?」
ラビットもヒロトを見る。
「魔法の実力もカリンが一目置いてるくらいだし、1組だからな」
「がくっ」
ラビットはがっかりしたが、ヒロトはさらに付け加える。
「でも…──」
「…?」
「あんま言っちゃいけねぇんだろうけど、2年前のあの辛い出来事を乗り越えて、ここまで強く生きれてるのって、マジでスゴくね?俺ひそかに尊敬してんだ。ラビットのこと」
「(…ヒロトさん)」
他の人間から、こういうことは飽きるほどに聞いたはずだった。その時はラビットは何も受けることはなかったのに、なぜかヒロトからの言葉は、こうも浅いのにラビットの心に届くものがあった。
「学園長はさっきさ、親密な関係がどうこうとか言ってたけど、俺はただ…ラビットを女としてじゃなくって、すげえ強いやつだってライバルとして尊敬してんだよな…」
「…」
ラビットはヒロトから目をそらす。
彼女の表情は、ヒロトが言ってくれたそれが嬉しそうだった。
──女としてじゃなくって…
だが、ある1つの言葉が引っ掛かっていることなど、彼女は信じたくなどなかった。
その後話し合って、その依頼は明日に決行すると決定した。
そして、その帰り…──
「ったく、もう夜じゃねえか…」
「…」
「…じゃあなラビット。また明日だ」
だが、彼をラビットは呼び止める。
「あ…あのっ」
「──?どした」
振り返ったヒロトに、ラビットは質問を投げかける。
「…さっきのって、その…本心なんですか?」
「ぁ?」
「わたくしの話ですよ!」
ラビットのいうそれに気づいてから、ヒロトは迷わずに答えた。
「あれは本心だけど」
「ええっ!」
ラビットはその後、背中をむけて再び歩きだすヒロトを見つめながら、その場に5分ほど立ち尽くしていた。