第35話『リズレから2人への依頼』
──コンコン…
「ラビットです。弥上ヒロトを連れてきました」
「──入りなさい☆」
「──失礼します」
ラビットがドアを開けた向こうには、広い部屋に大きな机がひとつ。
リズレは、組んだ手に顎を乗せ肘を突いて、椅子に座ったまま二人を待っていた。
「さっきぶりだね、ヒロトくん」
「ああ」
「…まあ、座りたまえよ☆」
二人は、リズレと向かい合うように置かれたソファーに座った。
「ちょっ…ヒロトさん、姿勢っ」
「はぁ…?」
ラビットはヒロトの姿勢をたしなめる。
机に足を乗せるとは、なんと無礼なことか。
学園長に見せる態度ではないと、優等生らしい態度だ。
「いいや、いいのいいのっ☆」
リズレはそれを許容して、本題に入った。
「──今回君たち二人を呼んだのは、君たちに依頼をお願いしたいからなんだ」
「「依頼…?」」
それについて、リズレは詳しく説明をしはじめた。
「僕が君たちに課せる依頼──それは、レーブルジャングルでの偵察だ」
当然ながら、ヒロトはリズレの言うそこの詳細は知りはしない。
だが、ラビットはそこを知っている様子だ。
「この街を出て南にある森林ですか?」
「そう、そこだっ☆」
わからない様子のヒロトに、二人は説明する。
「レーブルジャングルというのは、たくさんの動植物が多く確認されている森林です。魔物が多く出現する昨今、あの森は残り数少ない自然の宝庫と言えるでしょう」
「その通り。つい最近あの森で、魔物の反応があったと報告があってね、君たちにはよかったら向かってほしいんだ」
魔物の反応──その言葉で、二人はあの北校舎での事件を思い出す。
ラビットにとっては、魔物という存在は耳にも入れたくないだろう
「心配そうだね…だけど大丈夫だ。あそこで確認された魔物の危険レベルは、多く見積もっても4、最高でも8ってところ。生徒会のもとで十分に成長した君たちなら、きっと楽勝だろうね☆」
「つまり、わたくしたちの任務というのは、そこの魔物の駆除ということですね?」
「…そういうことでもあるんだけど、もう1つあってね?」
「「…?」」
キョトンとする二人に、リズレは続ける。
「その2つ目はちょっとだけ危険だけど、引き受けてくれるかい?」
「…一応用件は聞いておこうか」
「…その森の奥には面白い生き物がいてね?その名も、未解明猿獣バーギラ。体長13mほどの巨大な哺乳類で、そのレベルは少なくとも42はあるとも言われている」
「「42!?」」
あまりの次元の違さに、二人は驚愕仰天する。
魔物化したオニオオトカゲのレベルが12なのだ。42など恐ろしすぎる。
当然二人は、椅子から立ち上がって反抗した。
「危険すぎるだろ!本当に俺たちが出向くべきなのか?」
「わたくしも同意見です!死ににいくようなものです!」
「待って待って、まずは話を聞いておくれよ」
意地でも反抗する二人を抑え、リズレは続けた。
「「…」」
二人は落ち着いて、リズレの話を再び聞くことにした。
「なんとこのバーギラ、最近の消息が途絶えているんだ」
「「えっ!」」
「バーギラほどのモンスターが、魔物にやられるなどと言うのは考えにくいだろう?」
「確かにそうだ…」
「バーギラが活動をしていたときは、その狂暴さゆえに、そこに足を踏み入れる魔物は全て駆除されていた。こうして魔物が増えているということは、バーギラ自身に何かがあったと思わないかい?なので君たちにはそこに向かい、調査をしてもらいたいんだ。テントや寝袋、あとは携帯食料などはこちらで用意しておくから」
──だが二人は、それを聞いたところで、不思議な点があったようだ。
「じゃあ、俺たちに行かせる理由があるのか?」
「んん?」
「こういうときってさ、兵とかそういうのの出番とかじゃねえの?」
ラビットもうなずく。
「随分と鋭いねぇ。いいよ、話しておこう」
「「…」」
二人は、リズレの表情がニヤリとしたのを感じ取った。
「君たち二人に、生徒会のもとで修行した成果を肌で感じてもらいたかったから…ってこと」
「「あぁー…」」
二人はそれが腑におちたが、なぜかリズレの様子と結び付かなかった。
「…っていうのが、表の理由」
「「!」」
リズレは立ち上がって、二人に顔を近づける。ただ口角をあげて。
「で、裏の理由は、二人にはどぉーにか親密な関係になってほしいから…ってこと」
「「はぁ?」」
全く釈然としない理由に、二人はあっけらかんとなる。
「…あのなぁ、俺たちがそんなんになると思うか?」
「…でも、どうにかなってくれないかなぁーって」
「…」
ヒロトは何とも言えない表情で静止し、リズレを見つめた。
「はぁ…なんでかなぁ…」
ヒロトはため息をついてから、ラビットの方を見る。
「お前もそう思うだろ?ラビット」
「…」
「えっ?」
ラビットは、ヒロトを見つめる初見の姿勢のまま動かなくなっていた。
だが、それに加えて謎なのは、ラビットの頬がなぜかほんのり赤らんでいたことだった。
「ラビット?」
「…──っえ!あっ…そうですねっ!」
現実に戻ってきたラビットは、少しテンパった様子でヒロトから目を背けた。
次々と意味不明なことが起こるので、ヒロトは何とも言えない気分になっていた。
「フフ…」
そのやり取りを微笑みを浮かべ眺めるリズレは、付け加えるように言う。
「君たちが親密になれるように、他にもう1個、ボクはサポートしてやったじゃないの」
「「えっ?」」
二人は心当たりがなかったが、二人は次の一言にハッとする。
「ほら、君たちは部屋一緒でしょ?」
「「!?」」
お前の仕業だったのか──という様子で二人はリズレを睨む。
ヒロトの中には怒りが少し現れていたが、それ以上に怒りを持っていたのはこの人物だった。
ラビットはテーブルをバンと叩くと、リズレの顔すぐまで近づいて睨み付けた。
「ええっ…!ちょっ!」
「全部あなたの仕業だったんですか!あなたがこの男とわたくしの部屋を一緒にしたせいで!わたくしは!わたくしはこの男に!」
ヒロトは何かと概要はわかっていたため、顔を手で覆いうつむいていた。