第30話『生徒会との修行へ』
「腹が減っては戦ができぬ──まずは食事をとらないことには始まらないですからね」
「親睦を深めるっちゅう意味合いも兼ねて、まずは食堂に行こうや」
カリンとメイプルの決定に頷いた生徒会とともに、ヒロトとラビットも同じく続く。
「食事ですか?…あっ、その──」
ラビットはヒロトを見て苦笑いする。
何か心配そうに汗を垂らしているが、ヒロトはきょとんとしていた。
「ふふ、大丈夫ですよ。ヒロトくんが大食漢なのは知ってますし」
「そ…そうですか」
生徒会一同は『大食漢…?』と首を傾げるが、ヒロトは不安そうに言う。
「緊張してるから、あまり喉を通らないかもしれないけど…」
──言った側からのヒロトの食事に、一同は釘付けだった。
テーブルに並ぶ中華料理は、香ばしい匂いを放っていた。
ヒロトは巨大なシュウマイをまるでフルーツのようにぽいぽい頬張りつつ、更に山盛りのチャーハンを掻き込んでいた。
「ここには中華料理もあるんだなぁ…俺好みの味だ」
「そ…それはよかったです」
メイプルはその食べっぷりに感化されたのか、巨大な春巻きに一気にかぶりついた。
「なかなかやるやないか!やが私に比べたらまだまだや!」
「こちとら食欲がねえんだから勝負になんねえよ!」
「弱音を吐くとは情けないのぉ?…──ラーメンじゃんじゃん運んで来てやー!」
器に盛り付けられたラーメンが運ばれると、ヒロトとメイプルはそれを一気にかきこんでいく。
まるでわんこそばのように重なっていく器に、生徒会はもはや、『食欲がないんじゃないのかよ』というツッコミすらもまるで出そうになかった。
すると、そこでメイプルに何やら動きが入る。
サッと動いたメイプルの手が、ヒロト側のテーブルの何かを奪っていったのを、彼は見逃さなかった。
「…なあ、俺のシュウマイ無くなってね?」
「がまもまむもま(なんのことや?)」
メイプルの口が膨らんでいることから、彼女の黒はすでにわかっているのだが。
「ムフフフっ」
メイプルは膨らんだ口でヒロトを嗤った。
だが、ヒロトはこの程度で怒るほど短気ではない。
「なら、こいつも食っていいぜ」
ヒロトは再び新しいシュウマイの皿を差し出すと、メイプルは嬉しそうに笑った。
「ほーう、なかなか気が利くやないのぉ」
メイプルは比較的より大きなものに手をつけた。
「あーん…がぶっ──」
それを勢いよく頬張って、メイプルは咀嚼する。
すると、彼女の顔が真っ赤になって目が潤みだした。その面持ちは必死なようにも見える。
「え?メイプル大丈夫!?」
その様子に、生徒会のチーサンがかけよった。
まさか…──と思ってラビットとカリンはシュウマイを割ると、中にはおびただしい量のカラシが入っていた。
「辛いものが苦手のメイプルには苦行ね」
「メイプルさん!しっかり!」
メイプルは何とか飲み込んで、一気に水を喉に流し込んだ。
「よっ…余裕やったな!」
「「「嘘つけ」」」
ヒロトはさっき二人が割ったシュウマイを頬張って、にこやかな表情だった。
「最高だなぁこのシゲキ」
「シゲキどころじゃないと思うんですが…」
ラビットはヒロトの辛さ耐性に恐怖していた。
※
「っはぁっ!…美味かったぁ!」
「こんだけ食えばトレーニングにもちょうどええやろな」
ヒロトとメイプルによって重ねられた皿に驚愕する一同。
そのなかで、カリンは二人に話す。
「食事のあとすぐにトレーニングというのも辛いでしょうし、しばらくここで雑談でもしましょう」
「そうやな」
まだムードがなっておらず、カリンが手をあげる。
「何で、魔法を習おうと思ったの?ヒロトくんがこの学園に来た理由は、生徒会は全員知ってるけど、その…オーラの力だけでも、この学園で習う魔法と同じくらい十分だと思うけど」
「…うーん」
ヒロトは、そこで腕を組んで悩む。
「俺がただ魔法が使えなくて、使ってみたいってのも理由のひとつだが…」
そこでラビットは、ヒロトの目がこちらを向いていたことに気づく。
「こいつ」
「「「…え?」」」
一同はポカンとするが、ヒロトは続ける。
「ラビットみたいな実力者が前にいると、何か気にくわなくってよ…つうことなら、いっそこいつを押さえるくらいの実力を手に入れてやりゃあよくね?」
その意見に、2人笑う者がいた。
まずはメイプル。そしてその次は、ラビットだった。
「まさか、ヒロトさんからそんなユニークな話が聞けるとは…」
ラビットは口角を上げてヒロトを見た。
彼女にとって、ヒロトは魔法を一切知りもしない子供だ。絶対に負けることなどない。
ムーン家の娘としてのプライドと、ヒロトへの憎ましさがそうしたのであろうか。
しかしなぜだろう。ラビットはヒロトの暴挙にも、いかにも前向きにその勝負を受けてみせた。
「いいですよ。受けてたちます」
「言質取ったぜ。天才児」