第02話『入学式典のステージ』
入学式典の行なわれる大きなホール、その中には600人を越える生徒が集まっていた。
みんな隣を向いて話しているので、開式まで余裕がありそうだ。
「あっちの席に行きましょうか」
「…おう」
ヒロトは少女の隣の席に腰を下ろす。
──そこで、ヒロトは落ち着いて現状を見つめ直す。
「《俺はこれからこの学園で暮らすのか…学園には馴染みがないんだが…》」
ヒロトは再び少女へと向き直ると、彼女と目が合う。
「どうかしました?」
「…別にぃ?」
少し微笑んだヒロトに少女も微笑む。
ここの生徒たちは自分に敵意を示さないので、かなり平和な生活が送れそうな気はするのだが…。
──パッ…とホールの電気が消えた。
するとステージのカーテンが開き、男性が現れた。25歳ほどの若さである。
「みなさん!ご静粛に★」
ホールに響いた声は、一瞬に皆を静かにさせる
予想外のおちゃらけた開口に、ヒロトは驚いた。
「魔法学園セコンディア·スペイリアに、入学おめでとう!この学園は、魔物の侵攻に対抗する手段である魔法に秀でた生徒を育成するための養成学園だよ★」
「魔物…魔法…」
ヒロトはいまいちピンとこなかった。
「ボクはこの学園の学園長──リズレ=I·クラクソン。これからもよろしくね★」
学園長はポーズとともにウィンクをした。
ヒロトにとっては、彼の体に浮き出る不可視のオーラがあるようにも見える…。
「──続いて、新入生代表の言葉。ラビット=M·T·ムーン」
「はい」
学園長が名前を呼ぶと、先頭席の誰かが立った。
黒いストレートヘアーと無口そうな態度が印象的な、16歳ほどの少女が、返事とともに壇上に登る。
彼女の名前を聞いた生徒たちがヒソヒソと…。
「ラビットさま…つい5年前にあんなことがあったのに…」「大丈夫なのかしら、ラビットさま…」「おかわいそうに…」
ラビットは正直わからない少女だった。
当然ヒロトは彼女を知らず、隣の少女に質問した。
「誰だ?」
「知らないんですか?素晴らしい魔術師を何度も配属してきた、ムーン家のお嬢様です」
2人のやり取りのすぐ後、ラビットが壇上に立って、ひと呼吸置いて語り始める。
「リズレ学園長並びに生徒ご教員一同様、お初にお目にかかります…──わたくしたち新入生一同は、魔法の研鑽を欠かさず、この世界の人々を魔物の脅威から救う使命を胸に戦います──失うことへの恐怖と失ったときの絶望は、果てしなく重いでしょう。ですが、わたくしたちは戦わなくてはなりません。平和をせしめるために…」
「…」
ヒロトは全くその意味がわからなかったが、ラビットの声明は落ち着いているようで、真に心の底から訴えるようでもあった。
──さきほどの学園長が前に出る。
「本日は実力テストがあるから、全員教室にある体操着に着替えてグラウンドにきてね★」
「テスト…?」
ヒロトに少女は助言する。
「体力と魔力を集計し、最良の1組からそうでない10までのクラス編成のヒントにするらしいですよ」
「へぇー…」
ヒロトには実は自信があった。彼の体力と戦いのセンスは、30人のヤクザと肩を並べるレベルである。
「そんじゃ、ちょっくら1組に入ってみるかな」
ヒロトは、自信たっぷりに微笑んだ。
自分の実力を、この魔法学園で轟かす絶好の機会だ。