第23話『意外な再会』
「え、待って迷ったんだけど」
ヒロトは当然スタジアムの場所を知らなかった。
この行事がそこまで注目されているためか、みんな移動が速い。
「ウンコしている間に取り残されちまった…」
頑張って探そうとヒロトは思った所を、後ろから声をかけられる。
「あれっ…あなたは!」
「…ん?」
どこか聞き覚えのある女の声。
ヒロトが振り替えると、見覚えのある少女が微笑んでいた。
「やっぱりあなたでしたか!」
それは、ここにやって来てヒロトにはじめて声をかけた少女だった。
「ああお前か、久しぶりだな!」
「奇遇ですね。…もしかして──」
「そうだよ迷ったよ」
その少女は口に手を携えて笑った。
「私も用事があって遅れましたからね。一緒に行きましょう」
「そうさせてもらおうかな」
ヒロトは、親切なその少女と並んで、スタジアムに歩いていくことにした。
「学園の暮らしにも慣れたようですね」
「わかっちまうか…」
「私も、2組のクラスの授業は難しいですが…──」
「えっ!お前…2組なのかっ!」
「そ…そうですが…」
「すげえな…」
ずいっと顔を近づけるヒロトに思わずのけぞる少女。
「えっ、あなたは何組なんですか?」
「ギクッ…」
ヒロトは汗を垂らしつつ苦笑いしながら、少女から目をそらした。
「よ…よしっ、そんなことより急ごうぜ」
「は…はぁ」
ヒロトがソソクサと急ぎ足で行くのに、言わんとしていることは察した少女は、深くは言及しなかった。
「──そろそろスタジアムですよ」
少女が追い付いて言う。
ヒロトは、そこで少女に尋ねる。
「そうだ…お前名前は?」
「あっ…そういえば言ってませんでしたね──クレア=S·マディアです」
「クレアか」
ヒロトは名前を知れて嬉しがっていたが、クレアもヒロトの名前を聞く。
「あなたは…?」
「俺か?えーっと…」
ヒロトは自分の名を答える。
すると、何やらおかしなことが起きた。
「ヒロト、弥上ヒロトだ」
「…えっ」
名前を答えたとたん、クレアは驚いて言葉を失う。
その様子に、ヒロトはハテナとなる。
「…?ああ、そうか…まあ珍しい名前だしな」
「…いえ、そうではなくて…その──」
クレアが言葉に困っている様子に釈然としない様子のヒロトだったが、廊下の奥からコウが呼びにくる。
「ヒロト!みんな待ってるぞー」
「やべえっ!急がねえと!」
ヒロトは急いで走るのを、クレアは止めようとしたときだった。
「待って!ヒロトくん!」
「──!?」
ヒロトはその呼び方に何かを感じたが、急いでいたのでコウの所に走った。
「弥上…ヒロトくん──あなたは…まさか」
クレアは、ヒロトの離れていく背中に手を伸ばしつつ、驚いたような様子であった。
※
広いスタジアムの観客席で、10組のみんなはヒロトを待っていた。
「もう軽く10分は経ったんやけどなぁ」
キサクが嘆息を漏らす中、ヒロトはそこにやって来る。
「ワリい遅くなった!」
「遅いわヒロト、どこ行っとったん」
「ウンコしてた!」
「汚いわアホ!」
キサクがツッコむと、そこにマーニがさらにツッコむ。
「そうや!普通ウンコやなくてウンチや!」
「はあ?ウンコが普通だろ!」
「ウンチや!」
「ウンコだ!」
「ウンチ!ウンチ!ウンチ!」
「ウンコ!ウンコ!ウンコ!」
「「「「うるせえなぁああッ!!」」」」
10組のバカ2人を除いた4人は、総ツッコミを叩きつけるのだった。