第15話『ヒロトの意識内』
ヒロトが意識を覚ますと、そこは真っ暗な世界だった。
「っ…ここ…は」
ヒロトは、そこで何か音を感じとる。
──グチュ…ニチッ…ボキッ…!
肉をえぐり、腸をかき混ぜ、骨を砕くような恐ろしい音。
ヒロトは右を見ると、そこには異様な光景があった。
「──…はっ!?」
ヒロトは表情を歪ませ、声を出して驚いた。
赤い肌…逆立つ髪…筋骨隆々の巨体、うねり立つ角。
──間違いない…それは赤い鬼神だった。
鬼神は、何か肉を貪っていた。
ヤツがこちらに振り返ると、ヒロトは赤い瞳にいすくめられた。
般若のようないかめしい顔に鋭い牙。そして鬼神が貪っていたのが何かわかった。
先ほどちぎれた、ヒロトの右腕だった。
『──再会だな…』
鬼神は地を揺るがすような声で語った。
『毒に侵された意識のなか、少女を護りきったか…こんな所にとばされ、なんとも不運な男よのぅ…』
ヒロトの目の前に顔をずいっと近づけ、鬼神は嘲笑うように言った。
ヒロトは鬼神に何とか言葉をかけた。
「今の俺がいるのは、どこだ」
『貴様の途絶えた意識だ…私はそこに入り、貴様に語りかけている』
「…」
ヒロトは目の前の鬼神に、なぜ自分が語りかけられているのか気になって仕方がなかった。
そしてそれより、鬼神の食っている自分の腕が一番の謎であった。
『ん?…ぁあ、この腕が気になるか』
鬼神はそういうと、ヒロトを尻目にその腕を丸飲みにした。
『──お前が助けた少女は今、お前をかついでトカゲから逃げておる』
「なに…!ラビットが」
ヒロトにとってそれは、あまりにも意外すぎる事実だった。
『トカゲに見つかるのは…時間の問題だな』
「じゃっ…じゃあ、今すぐ助けにいかないと!」
『待てッ!!』
今すぐにと立ち上がるヒロトを、鬼神は『呼び止めた。雷が落ちたような大音声であった。
『貴様の力が、そこまでのものか!やつは恐ろしい強さだぞ。8年前のことから、何も学んでおらんなぁ』
「っ…!?」
ヒロトは鬼神の言葉に驚いた。
「なぜ…そのことを」
『覚えておらんとは言わせまい…8年前のあの絶体絶命の状況を覆せたのは、貴様がワシの力を解放したからだろう』
ヒロトはそのとき、喘息のようなものに襲われた。
「はあっ…!はぁっ…──ぐっ…」
心臓を締め付けるような苦しみがヒロトを襲う。彼のある苦い記憶がたちまち蘇り、頭痛に表情がゆがんだ。
『力のない正義など…無力だ!』
ヒロトは苦しみを堪えて、鬼神をみた。
鬼神の表情には、厳しい眼差しが浮かんでいた。
だが、その表情に笑みが浮かぶ。
『今、お前に残るのはただひとつ…』
鬼神はそう言うと、ヒロトに腕をかざす。
『ワシの力を──…使えッ!』