第12話『ラビットの危機』
ヒロトは、北校舎までたっぷり走って、息を切らしていた。
「はあっ…はあっ!」
昇降口から西階段を上り、北校舎につなぐ橋までを全力走破したヒロトは、北校舎に足を踏み入れた。
「…──っ!?」
瞬間、ヒロトは体を蝕むような悪寒を感じ取った。
外が暗いせいで光の射し込まない廊下は、ヒロトの恐怖を強く煽る。
この北校舎のスピーカーは、なぜか全てが破壊されていた。
こうした理由も方法もわからないが、これではラビットには避難の通告が通じないはずだ。
「どこなんだ…ラビットの野郎!」
ヒロトは恐怖を押し殺して、そのまま奥へと走っていく。
すると、突如恐ろしい音が響いた。
「ギュアアーッ!!」
猿のような叫びだ。
すると暗闇の奥から、小さな影がこちらに走ってきた。
「なっ…──ぐあっ!」
その影の正体は、白目を剥く黒い猿であった。
そいつは、ヒロトの右腕に必死にかじりついていた。
『──魔物化マッドモンキー 危険レベル3』
「くっ…うぉおーッ!!」
なお、ヒロトは左腕でそいつを力ずくで引き離し、地面に全力で叩きつけ金的を踏みつけた。
猿は悶絶しその場に息絶えたが、ヒロトの右腕からは血が滴っていた。
「くそっ…魔物ってのは…こういうやつか」
ガンダーの話を今一度思い出す。
ヒロトはなおさらラビットが危険だと、奥へとさらにスピードをあげて走った。
※
「──ここには誰もこない…思う存分ヤろうぜ」
「…はい」
下卑た目でラビットの服に手をかける教師に、洗脳されたラビットは抵抗もできず、できることはただ返事だけだ。
「へへ…──ん?」
突如、教師は異変に気づく。
何かがこちらに近づいてきていて、そいつはこの木製のドアを強く叩いていた。
──ドンドンッ
だが、教師は余裕そうな表情だった。
「(大丈夫だ…声さえ出すことがなければ、簡単に見過ごしてもらえる)」
そうしてずっと静かに堪え忍ぶ教師。
──バンバンッ
扉の音が変わった。
「…ん?」
──バキッ!バキッ!
扉が形を変えて、教師は嫌な予感を感じとる。
「…ッ!?やめろぉおーッ!!」
──バキィイイッ!
扉が音を立てて壊され、その奥からヒロトがお出ましした。
「──てめぇ…!このクズがぁあーッ!!」
「ふごぁッ!?」
ヒロトのパンチを直にくらった教師は、悲鳴をあげてそこに倒れた。
ラビットの洗脳が解ける。
「あれ…わたくしはいったい…」
「くそっ…洗脳が」
教師は顔をしかめたが、ヒロトは焦燥を顕にして声を荒げた。
「ここにいたらまずい!はやく逃げろ!」
ヒロトはそういうが、二人は釈然としない様子だった。
「魔物が出──」
──ドォオーンッ
ヒロトが再度忠告をいれると、それを遮るように爆音が響く。教室の壁が一気に破壊されたのである。
そして壊された壁の向こうには、先程の猿が15匹も現れた。
「うっ…うわぁああーっ!」
その光景を見るやいなや、教師は情けない悲鳴とともに教室を飛び出し、北校舎への入り口の錠前を締め切った。
「はぁ!?──ふざけてんのかテメェ!開けろ!」
教師は錠前を開けようとはしなかった。
「くそがぁあーッ!」
ヒロトが万事休すかとなったとき、彼に猿のモンスターが肉薄した。
するとヒロトの前に、ラビットが立った。
ギュウン!
ラビットの魔法で猿は吹き飛ばされ、壁に力なくうなだれた。
「ヒール!」
ラビットのおかげで腕の傷が塞がった。
「弥上ヒロト!あなたも体力なら充分でしょう!少しは戦ってください!」
ラビットは正気に戻っていた。
「ちっ…!言われなくてもやってやるよ!」
ヒロトはラビットに張り合うように、魔物に向き直った。
「あいつの動きを止めるくらいは、あなたでも余裕なはずです!」
「なめんなよっ!」