第11話『学園の異変』
どうやら安全らしいが、万一に備えて、生徒全員は校庭に出た。
「全員いるかー?」
少しざわめきのあるなか、そこには全てのクラスが揃っていた。
「本当に天気が悪いな…」
稲妻をたてる暗雲が立ち込める空は、学園内の不穏な空気をさらに掻き立てていた。
「大丈夫なんか…」
「キサク、近いって…」
「ご…ごめんっ…」
多くの人たちが、焦燥感に見舞われるその時、密集する多くの生徒を押しのけ、前に出てきたのはカリンだった。
常時落ち着いている彼女のその表情には、強い焦りがあった。
「先生…!」
「ど、どうした!」
彼女はその教師に言った。
「1組のラビットさんが、どこを探してもいません!」
「なっ…──」
10組から1組を含めた全員が驚愕した。
「どうしてだ!なぜ彼女は…──1組のみなさん!説明しなさい!」
そこで、1組の生徒の一人が言う。
「昼の授業からもういなかったんです!」
「くそ…っ」
教師は歯を軋って考えた。
そこで、教師に声がかかる。
「うちのクラスの先生に呼ばれたと聞きました!」
そう言ったのは、キサクだ。
「なぜだ!彼は今日、欠席すると言っていたぞ!」
「え!」
キサクは先生の言葉に驚く。
「本当です!西階段で北校舎に向かうって本人から!」
それに賛同するコウに、教師はますます頭を悩ませた。
「お前も聞いただろ!ヒロト!」
コウも後ろを振り返る。
だが、そこにはヒロトはいなかった。
「どこにいった!ヒロト!」
ガンダーも呼ぶが、出てくることはなかった。
──ヒロトは、今、北校舎に向かって全力疾走していた。
「くそっ、世話かけさせやがって!」
※同時刻
場所は、北校舎のある空き教室。
ラビットがそこに入ると、10組の教師が二つの席を用意し、座って待っていたことに気づく。
「よく来てくれたラビット君。どうぞ座りなさい」
ラビットは、10組の教師が意味深に浮かべる笑顔に、ほんのわずかに不審感を覚える。
だが彼女は先生のいうとおり、教師と向かい合う位置におかれた椅子に座った。
「ところで、その…ご用件は?」
「いや、ちょっとした…相談だよ…学園での生活についてでも、何でも…いいんだ」
ラビットは、教師の様子が変わったのを感じ取ったが、深くは触れなかった。
「授業は8分後なんですよ?」
「いいやっ…この相談は学園から特別に設けられたものだから、ゆっくりと話していいんだ」
「別に、困ったことは何もないのですが」
「…本当か?」
やはり、教師の挙動はかなりおかしかった。
そこで、ラビットの表情に影がさす。
「わかってますよ。ラビット家の話を聞いて、私を変に慰めようとするつもりでしょう」
ラビットの目が少し虚ろになり、こころなしか愁いを湛えているようにも見えた。
「もうたくさんです…勝手に昔のことを取り上げられ、悲劇のヒロインとして持ち上げられるのは…」
「い…いや、断じてそんなことは──」
「結構です。ひとりでやっていけますから」
教師の言葉を振り切って、ラビットは教室を出ようとドアノブに手をかけた。
──ガチッ…
「え…?」
ドアが開かない。鍵でもかかっているのだろうか。
「…っ!?」
ラビットは即座に身の危険を感じ取って、後ろを振り返った。
そこでは、教師が彼女に催眠をかけていた。
ラビットの目からみるみるうちに光が失われていく。
「ひひっ…楽しくヤろうぜ…」
シャツのボタンを外しラビットに邪悪な笑みを浮かべる教師に、ラビットは感情の抜けた声で小さく答えた。
「…はい」