第10話『立て続けの違和感』
「ふぅ~、食った食った」
食堂での昼食の後、ヒロトは満腹の腹をさすっていた。
相変わらずの食いっぷりに二人は呆れ、ヒロトの後ろをついていった。
だが…──
ヒロトはそこを通る一人の少女と目があってしまい、不機嫌そうに舌打ちした。
「くそっ…またかよ」
そこで、またラビットと会った。
「…!──弥上ヒロト…」
だが、なぜだか少し様子がおかしかった。
「…」
みんなは階段のほうに向かうのに、彼女だけはそのルートから離れているようだ。
「…?おいラビット!」
「…なんです?問題生さん」
お嬢様を呼び捨てにしたことに焦る二人だったが、ラビットは気にしていない様子であった。
「授業はそっちじゃねえだろ」
「…北の校舎に用があるんです。あなたたちのクラスの先生に呼ばれたですよ」
だが、3人は違和感を持つ。
「うちの先生、今日いなかったぞ?」
「は?」
実際あの教師は、今日10組のみんなの前に現れなかった。いかにも不自然だ。
「本当だって。それおかしくねえか?」
「…私は間違いなくあの先生に呼ばれましたので。ではさようなら」
ラビットは3人から目を背け、北校舎にむかっていった
※
昼からの授業がはじまった。
10組のみんなは、変わらずガンダーの授業を受けていた。
「で、ここで空気中に蔓延する魔力が強く作用して──…ん?」
ガンダーが授業を中断し窓の外を見る。
空は厚く黒い雲に覆われ、稲妻がたっていた。
「どうなってるんだ…さっきまであんなに晴れていたのに」
不思議なこともあるものだ──10組全員は不穏そうに暗い空を見上げ、ざわめいていた。
すると突然、ふぅっ…と教室の明かりが消えた。
「え?何…?」
その時のことだ。
ひたっ…と、廊下を誰かが裸足で歩く足音がした。
「…」
ヒロトを含むクラスメイト、ましてやガンダーさえもが、廊下からおぞましい力を感じ取っていた。
その場は、沈黙に支配される。
聞こえるのは、稲妻とその足音だけ。
その間15秒。だがその時間が1時間にも感じられるほど、すさまじい恐怖があった。
やっと明かりが戻り、恐怖は消えた。
水中からやっと上がり、呼吸にありついたような感覚だった。
「何だったんだ…」「本当にこわかった…」
10組はどよめきだっていた。
ガンダーは外を注意深く見渡したが、何もいないようだった。
「何もいないようだな…ん?」
ガンダーは違和感を感じ取った。
…廊下の窓がひとつだけ開いていたのである。
「なぜ…鍵は常時かけてあるはず…」
コウとキサクも、ヒロトに声をかける。
「何やったん…ホラーすぎるわ…」
「ヒロトも感じたのか?」
「ああ。ちと恐ろしかったな…」
ヒロトすらも恐怖を隠しきれない様子であったことに、コウとキサクは驚いた。
「ガンダー先生、何か感じませんでしたか?」
「今、廊下を何か邪悪な魔力が…」
廊下に出たガンダーに他のクラスの先生がかけよる。どうやら他のクラスのみんなも、今さっきの違和感を感じ取ったらしい。
すると、全校舎に突如サイレンが響き渡った。
『警報!学園内に異常な魔力を感知!魔力の現在位置、東の階段2F!生徒は全員、そこに近づかぬよう、先生の指示に従い避難してください!』
それを聞いて、学園は騒然とする。全ての生徒が驚き避難した。
「ついてこい!絶対に後を離れるんじゃないぞ!」
ガンダーのにこやかな目は、今や影もない。
彼がドアを開けると、なだれ込むように生徒が飛び出した。
全員が外へ出ると、その向こうには生徒が地獄絵図のようにごった返していた。
逃げるのに必死なあまり、9,8組は喧騒に支配され、みんな押し押されていた。これでは逃げられない。
「くそっ…これじゃあ逃げられねえ…」
万事休すか──ヒロトが息を飲んだ。
すると、新たに放送が流れる──…
『えー…待ってください。先ほどまで計測していた魔力が、突如姿を消しました…』
喧騒は消え、代わりに沈黙が空気を支配した。
「え…?もう大丈夫なん?」
「ぽ…ぽいな」
コウとキサクも唖然としていたが、生徒は再び落ち着きを取り戻した。