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異世界人の手も借りたい。  作者: justa
第一部 変転は唐突に
3/37

1-1 先は暗く

「本当にいいのかい黒木君。君はいろいろ大変なんだし、俺も上の方にかけあってみて……」


「あー、大丈夫っスよ店長。自分一人のために、そこまでしてもらうのは悪いですし」


「ごめんねー……せっかく長くやってきてくれてたのに」


「いえいえ、気にしないでください。どうしようもないですって、今回は」


 ――2080年のとある夏。自分はまた、バイト探しをする羽目になりそうだ。


 これまで何度も多くのアルバイトを転々としてきているが、どれも長く続いたことはない。

 だが、今回は今までで最長、2年ぐらい続いてきていたので、ひょっとするとこの居場所をキープできるのでは、と思っていたのだが……。


「あれが隣にできちゃったんじゃねえ……」


 要は、上位互換の出現というやつだった。

 最近の世の中は、気軽に通うことのできるような店、つまりコンビニエンスストアの需要が高まっていた。そのため、コンビニの近くに別の新しいコンビニが建つなんてことはざらにあった。


 ……とはいえ、よりにもよって自分の勤めているところでそれが起こるとは、なんとも不運であるという他ない。


「『8』の次はやっぱり『9』でしたね」


 自分の勤めている場所とそっくりな……いや、デザインも数字も格上なロゴが目に入ってくる。


「縁起でもないこと言わないでくれよー」


 世代交代宣告に、店長の苦い笑みはさらに濃くなった。


「……まあともあれ、今までありがとうね。今月分の給料は、来週には振り込まれてるだろうから、また確認しておいてよ」


「了解っス。こちらこそ、今までお世話になりました。店長も、体とか気をつけてくださいね」


 この言葉、もういい加減言い飽きた……。

 まあ、ただの社交辞令のようなものだから、別に面倒くさがるほどのことでもないのだけれど。


『諸々頑張ってね』とかけられた声に軽く頭を下げ、コンビニを出たのを最後、自分の2年間のコンビニアルバイトは幕を閉じた――。


   ◇   ◇   ◇


「(あーあ、また最初から人間関係やり直しかー。面倒だなぁ……)」


 そんな愚痴を心の中でこぼしながら、いつもの帰路を歩む。

 帰宅ラッシュが過ぎても多くの人々がごった返す大通り。季節的なものもあってか、日が落ちているのにも関わらず、未だ昼間のような熱気が蔓延っていた。


「(せっかく苦労して大学に入ってサークル活動もいい感じなのに、結局バイトに本気になってるなぁ……)」


 しかし、これに関してはどうしようもないことだ。

 身内も親も、養い手が誰もいない以上、自分がどうにかしなければ食っていけないのだから。背に腹はかえられないというもの。


「――遅くなってごめんね、今帰ってるよ」


「――今日晩ご飯作ってある?」


「――子ども寝かしつけといてね」


 次々と耳に入ってくる、通りすがりの家族会話。


 ――居心地が悪い。

 思い出したくない記憶に駆られそうになり、自然と足取りが速まる。


「(ゲームでもして気分紛らわそっと)」


 いつものようにポケットからスマートフォンを取り出し、ボタンを押し込む。すると映し出される、見慣れた煌びやかなタイトル画面。


 帰宅時のルーチンワーク、ソーシャルゲームのダンジョン周回の始まりだ。今は○周年記念とかそういう類のイベントが開催されていて、たくさんのレアアイテムだったりとかが貰える。色々な意味で、気晴らしにはうってつけなわけである。


 ちなみに、ゲームの世界観は最近流行りの異世界ファンタジー。情けない話だが、面倒ごとに押しつぶされそうになったり、辛いことが続いたときなどはよく、こんな世界に行けたらなぁと思ってしまう自分がいる。文字通りの現実逃避である。


「――あっ、すみません」


 肩からの鈍い衝撃。反射的に謝るも……謝ったところで何も返ってくるはずもなかった。なんせぶつかられた側も、完全にお手元の世界に傾倒中なのだから。気まずくて何も言ってこないのではなく、そもそも気にもしていないのだ。

 一昔前まではこんな光景はありえなかったそうだが、正直、皆がちゃんと前を向いて歩いている姿など皆目想像がつかない。


「(ふう、やっと大通り抜けれたー……)」


 直前と比べて、あからさまに閑散とした狭い通路に差し掛かる。

 全ての店が既に営業を終了しており、通路を照らしているのはまばらな街灯のみ。人も、今日は珍しく自分以外誰も通っていない。

 そんな静けさを前にすると、心なしか体を包んでいたむさ苦しさも少しマシになったように思えた。


「(――ん、なんだろ)」


 バイブと同時、手元のスマートフォンの画面上部に表示されるメッセージ。どうやら、サークルからの連絡らしい。


「(なになに……『来月に大会があるのですが、男子100m走の人員があと1人足りません。足の速さに自信がある人、誰か助けてください!♡』……と)」


 ……相変わらずグループでも陽気な代表だなぁ……。


 そんな感想は差し置いておくとして。この連絡に関しては、自分はスルーしてもいいと思った。


 ――単純な話だ。自分より相応しい誰かがいるのだから。

 同期にも先輩の中にも、自分より足の速い人はいる。そんな中で、自分が出て行く余地などどこにもない。

 それに――、


『――どうしてそんなこと言うの!? あなた、この子がどれだけ辛い思いしてるか分かって……!』


『――そんなことわかってるんだよ! 俺だって……俺だって、望んでこうなったんじゃないんだ!』


『――え、なになに? お前んちの父さんと母さん仲悪いの?(笑)』


『――青木……じゃなくて、そういや黒くなったんだったわ『黒木』w』


「――」


 ――それに、どうせ自分は誰からも必要とされていない。

 自分がいたせいで、父と母は別れた。

 自分がいたせいで、父と母は苦しむ羽目になった。

 そして、そんな自責の念が表に滲み出ていたのか、中学・高校ではいつも周りから疎まれ続けてきた。

 そう、結局、自分が傷つき思い悩み、苦労してきただけ。何をやっても、良いことなど一つも無かったじゃないか。


 ……ああ、もうどうでもいい連絡に思えてきた。他の誰かがやってくれるだろう。


 メールアプリのタスクを閉じ、再びゲームのアイコンをタップする。


「(……じゃあ、何のために大学入ったんだよ……)」


 煌びやかなゲームの画面が、急激に虚しく思えてくる。

 世界中の人々から必要とされる人に、人知れず困っている誰かに手を差し伸べられるような人になりたい――あまりにも漠然としていて、適当すぎる夢だった。


 在るのは理想の自分の姿だけで、特別何かになりたいわけでも、したいことがあるわけでもない。

 そんな中途半端な気持ちのままであるのに、無駄に血を吐くような思いをして、進学の道を選んでしまった。とりあえず周りと同じように生きていればいいと、単にそう思っていたのだ。

 

 ……わからない。

 自分が、本当は何をしたいのか。

 自分が何のために、今の環境に身を置いているのかが。

 本当に、自分のやってきたことに、意味はあったのか――。


『――んじゃねえぞコラァ!』


「っ……!?」


 突然路地内に響き渡った怒声に、肩が跳ね上がる。


『にしやがんだっ――』


 立て続けに響く怒声。

 しかし、続け様に響いた鈍い音が、今度は不気味な静寂を路地内にもたらした。


「(あそこの角から、かな……?)」


 二つ先の角の方から聞こえた謎の怒鳴り声。

 声圧からして関わるのはもちろん、見るのも少し躊躇われる。

 ……だが、これが怖いもの見たさというもなのか。本心では見てはいけないと分かっていても、引き寄せられるように体がその角のところへと向かってゆく。


 一体、何があったというのだろうか? 少なくとも、ただ事ではない気がする。

 恐る恐る、暗い路地を覗いてみて――。


「――ぇ」


 ぐしゃりと、大きな果実が潰れたような音――足元に、顔が血だらけの強面の男が倒れ込んでいた。


「え……? は……!?」


 頭の中がぐるぐると回転するかのような錯覚が襲ってくる。

 なんだ? なんで自分はこんなものを見ているんだ? 血……血……? 血……!?。

 え? 現実の、本物の血……!?

 全部本物の血で、この人たちの怪我も全部本物で――、


「――あーあ、見ちまったんだな」

「ふっふ。今度は随分と可愛げがあるのが現れおったな」


 ――そんな二人の声が響いたのは、目前の凄惨な状況に理解が追いついてからすぐのことだった。

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