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異世界人の手も借りたい。  作者: justa
第一部 変転は唐突に
2/37

0-0 運命の始動

 初投稿です! 誤字・脱字はもちろんのこと、もしかしたら分かりにくい言い回しやおかしな文脈も所々あるかもしれません。

 そんな初心者の小説ですが、どうか暖かい目でお読みいただければ幸いでございますm(_ _)m


※2021 2/27 追記

 現在投稿してあるすべての部の誤字・脱字を修正しました。

 しかしながら作者の目は大変な節穴であらせられますので、もしかしたらまだ誤字脱字が残っているかもしれません。万一不備を発見されましたら、誤字脱字報告をしていただけると助かります……!

 ――完全に、敵との力の差を見誤ってしまった。


 ……これは無理だ。どう考えても。どう行動しようと。

 知恵と戦術で状況を覆す、そんな単純な方策では、もはや切り抜けられはしない。

 物量による暴力。考えも策も工夫も何もかもが、"こいつら"の前では容易く踏みにじられてしまうだろう。


 諦念とともに体から抜けていく力。迫りくる赤黒く湿った地面。

 為す術なく地に打ち付けられる体を顔を、砂利や枝が容赦なく裂く。

 そして間もなくして上げられる、痛覚からの絶叫。体中にあいた風穴――灼熱の鉄杭を打ち付けられたかのような破滅的痛みが、全身を残虐に駆け巡った――。


「引き続キ……ケイカクの遂行二、尽力スる……」


「目標の排除ヲ完了」


「計カク通り、これヨり四方向に分かれテ動ク……」


「九十六時間後、準備が整い次第、計画の最終段階を実行スル……」


 樹々の隙間から差し込む月光の下、感情の存在しない合議が交わされる。

 合議に集うもの、それは人間か。


 ――否、それは"山犬"。


 しかし、ただの山犬ではない。鉄のような黒い外殻を身にまとった、異形と呼ぶに相応しすぎる見た目をした山犬だ。


 ――"鉄の魔犬"……そう風変わりな呼称がされているのも納得ができた。

 月光を反射する黒い外殻は金属のような光沢を放ち、歩く度に漏れ出す音も、鉄鎧が擦れる音そのもの。

 死の淵を彷徨うこちらのことになど目も暮れず、鉄の魔犬たちは続々と森の夜闇へと消えてゆく。


「(バカか……俺は……。倒れている暇などどこにある……。奴らを始末するためにここまで来たんだろうが……!)」


 目前には、自分がまさに打倒せんとしていた敵がいるではないか。こんなところで伏している場合ではない。今自分がやるべきこと。それは、体を起こし、鉄の魔犬を滅することだ――。


「――ッ……」


 だが、意志は空回るのみ。虫のような息が喉の奥から漏れ出るだけで、指の一本動かすことすら叶わない。

 尚も漏れ続ける生命の源。自分は確実に、死へと近づいている。

 たった数秒の間に、自分の体が作り出していた「血だまり」は「血の海」へと広がったらしい。生暖かい血の感触、あるいは死の感触が、頬にべったりと纏わりつく。


「(……思えば、なぜ俺は、こいつらを前にしたときすぐに退かなかった……? 不意打ちでやられたにせよ、だからといって、真っ向勝負を挑んだところで勝ち目など無かったはずだ……)」


 個々の力では間違いなく、奴らにまさっている。だが、どれほど個々の力で勝っていたとしても、たった一体の生物は圧倒的数を前には恐ろしいほど無力だ。

 そんな当然のことを知っているというのに、なぜ無謀にも立ち向かったのか。


「――まだ生きているというのか」


 ――背後から迫る圧倒的な存在感。巨体が地を踏みしめる度、外気が唸る。

 ただ、その存在を前に抱いたのは、底なしの諦念でも恐怖でもない。

 ある種の『希望』に近いものなのかもしれない。

 呼び起こされる記憶と、背後に迫る見知った存在とが結びつき、死という未来に一筋の光が差したようで――、


「――いい加減諦めろ。お前一人ごときが、どうにかできることではない」


 一筋の光は瞬時にして、一筋の氷槍に変わったのだった。

 温度の"温"の字すら含まれていない言葉が、絶望の淵に立つこちらをさらなる深淵へと貫き飛ばしてくる。


『諦めろ』


 意識は一気に、無限の闇へと逆戻り。

 ――そして皮肉にも、ここで一つの答えに辿り着く。


「(ああ……そうか。俺は、ただ償いたかっただけだ……。無力な自分を戒めたかっただけ……。だからすぐ退こうとはしなかった……。容易く諦めようとしなかった……)」


 かつて過ったから、今ここにいる。だが、かつて過ったからこそ、退こうとはしなかった。自分にとっての、真の意味での敗北をしないために。

 いかなる理不尽に見舞われようとも、背を向けることは許されない。


『諦めろ』


 だが、今はどうだろうか。

 たった一言で、感情もなにも含まれていない虚ろな言葉にすら、己の意志は易々と砕かれた。なにより、自分でも恐ろしいと感じるほど簡単に諦めがついてしまっている。


『諦めろ』


 ……自分は、納得しているのか……? 今の状況、この結果に……?


『諦めろ』


 無理もない――そう言ってしまえば、それまでか……。

 諦めなかったところで何が変えられる?

 この死にかけの状態で、何ができる?

 何もできないと分かっているのに意志すら持ち続けるのは、それこそ愚かではないのか。


 次々と心の中に渦巻く諦念。それが、諦めようとしない己の心をやさしくゆっくりと、底なしの沼へと引きずり込んでくる。


『諦めろ』


 溺れていくように、意志も意識も全て無へと沈みゆく。


 ああ……なんともまあ、酷く、半端な終わり方だ……。

 やはり俺は、無力で無能な――。


『――その程度の力で、本当に国を担えるとでも思っているのか?』

『諦め――』


「ッ……!!」


 ――闇から這い上がった。まるで、その忌まわしい記憶に感化されたかのように。

 呼吸にも似た声を発し、赤く濡れた地を乱暴に叩く。


「(いや……まだだ……! こんな終わり方、実に馬鹿馬鹿しく、甘すぎる……認められるわけがない……!)」


 寒い。痛い。気持ちが悪い。死はすぐ目の前にまで迫っている。このままだと間違いなく死ぬ。

 ……だが、悔しい。立つことすらできない己が、死ぬほど腹立たしい。

 自棄な意志が、魂を屍同然の肉体に、この世に繋ぎ止めていた。


『――ディアはどうして一人で何でも解決しようとするの……? そんなに、私は信用できない……?』


『――どうかこれ以上、ご自分を責めないでください……』


『――もっと我々を、頼ってくださいよっ……』


「こんなところで……終われる……かアッ……――!」



 ――死に際での活動の限界を超えた肉体が、男の意志に反してついに生命活動を停止する。

 尋常ならざる決意を口にした次の瞬間、その者の体はついにピクリとも動かなくなってしまった。


「……」


 巨躯は――金色の獅子は、血の海に浸る屍の方を振り返り、無言で鉄の魔犬らとともに森の夜闇へと消え去っていった。

この小説は基本的に不定期更新となっております。

キリの良いところまで書き溜めたら隔週でじわじわと更新……というサイクルを繰り返していますので、ある日突然更新が止まることがあると思われます。とはいえ、決して投げ出したという意味では無いのでご安心ください。

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