その2の4
その2の4
〔湯豆腐〕は『自由、無言、誰でも可。誰でもOK』に帰ってくると〔レイラ〕から渡された軍資金を使い(マイホーム)を購入し、わざわざガシャンガシャンと騒がしいボーリング機の近くに自分の拠点を購入した。
二階建ての箱を積み重ねたような簡素な家だ。一回はガレージにして、今日気に入ったものを鼻歌交じりに飾り始めた。バイクに日本刀、ランナー用の強化倉庫などを飾っていく。
「あのさぁ、なんでそんなに上機嫌なの?」
拠点についてきた〔ナナ〕は心底疲れたような声を上げた。隣に立つ〔撫子〕に至っては声も出せないようだ。
「全部のクランに断られたんだよ? 本当にヤバいんだよ?」
「気疲れしたな、今日はお疲れさん」
「あ、いえ、別に・・・」
すべてのクランで敵意剥き出しにされ、そしてすべて〔湯豆腐〕は挑発するようなことを言って来たのだ。ついてきた二人はそのたびに気が気でなかっただろう。
「わかるか?」
〔湯豆腐〕はバイクのシートに座りながら二人に笑いかける。
「いくら何でもおかしい。戦略的に考えてこれほどの好機を見逃す連中じゃない。にもかかわらず、申し合わせたかのように協力はできないと言ってきた」
やっと真意を語ってくれそうだと、二人は顔を上げた。
「コタロ、ただのウェーイ系YouTuberじゃねぇな」
「すべてコタロが仕掛けたと?」
「誰が主軸になっているかなんてどうでもいい。見えない手が、このクランを奪おうとしている」
「ど、どうするの?」
「どうする? どういうこと? じゃなくてか?」
意地の悪い聞き方に、〔ナナ〕は口を閉ざした。
そうしていると、ガレージに大男が入ってきた。
「んだ? この家、なにもねェじャねェか」
「武☆吉!?」
〔ナナ〕と〔撫子〕は驚きの声を上げた。
南極最大の盗賊団『ヨトゥン』のリーダー〔武☆吉〕の登場は、彼女たちからすると想定外だったようだ。
「購入したばかりの家なんだ、勘弁してくれ」
「フン、侵略されれば(マイホーム)は消滅するッてのに、いい気なもんだぜ」
バイキングの丸太のような腕が〔湯豆腐〕の胸ぐらを掴む。
「俺はこの戦争から手を引くぜ」
「!」
〔ナナ〕と〔撫子〕は、いまにもひっくり返りそうなほど顔を蒼白させる。
それもそうだろう、クランの正規軍よりもずっと『ヨトゥン』メンバーの方が強い。主力軍で間違いない。
「俺は盗賊だ、適当に折り合いをつけてあいつらともやッていくさ」
「俺がいなくて寂しくないか? ん?」
「フンッ! 強がりを言いやがるゼ」
そう言いながら〔湯豆腐〕を壁に投げつけた。
「せいぜい足掻くことだな! 惨めな姿を見せることだ!」
壁に叩きつけられはしたが、当然だがゲームなので痛みはない。〔湯豆腐〕は急ぎデータを開いて、ファイルを送る。
「手切れ金だ」
「フン、下らん情報だ」
〔武☆吉〕は中をざっと見てニヤリと笑みを浮かべる。そしてガレージを見渡す。
「下らねぇが、借りは作らねェ主義だ。俺様がデザインしたトーテムポールをやるよ、飾っときな」
そう言いながら〔武☆吉〕は帰っていった。
〔ナナ〕も〔撫子〕も、ただ茫然と立ち尽くしていた。
「ああ、絶望的だな。援軍はなく、味方は離れていき、裏切者が出るかもしれない状況だ」
二人はギョッとして〔湯豆腐〕に振り返った。
「ど、どうするつもり、なの?」
〔ナナ〕は尋ねずにはいられなかった。
「なぁに、〔武☆吉〕にはせいぜい鉄砲玉になってもらうさ」
二人はどういう表情をしていいか、そういう顔をしていた。