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ゲーム内で勇者でも、  作者: 新藤広釈
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その2の3

 

 その2の3


 YouTuber〔コタロ〕を支援している大陸の大国を『BlueRunner』というクランという。7年前に釣り仲間が結成した古参クランで、海に面した立地で七色の屋根瓦が特徴の家が多く、白い土壁には魚のイラストが描かれている。クランに属するなら景観のいいクランがいいなぁと思うプレイヤーが集まり、大陸の一角を担う大国へとなった。

 しかし7年の年月により建国メンバーは顔を見せることが減っており、周辺クランとの領土争いに連敗続き。これではいけないとクランリーダー解任、軍事化派と建国メンバー擁護、穏健派との内部分裂が起きている。

 『自由、無言、誰でも可。誰でもOK』クランに派遣された〔ビューティー・ロッドマン〕と〔バンバンバン!〕は穏健派のプレイヤーだ。ツイッターを見るに、軍事化は周囲の戦闘集団『爆走キングダム』クランと同じベクトルで競わなければいけなくなり、そうなれば景色がいいからと集まったプレイヤーたちでは勝ち目がない。

我々が必要としているのは争いではなく、新たなわくわく、新たなる冒険の地こそが必要なのだ。だからこそ〔コタロ〕と共に盗賊クランである『自由、無言、誰でも可。誰でもOK』クランを倒し安全を手に入れ、冒険者たちの新たなる拠点とする計画なのだ。と、概要からするとそういう事らしい。

 このツイッターの内容はそこそこ評価を受けており、軍事化派も「お手並み拝見」と言っているようだ。

 傭兵団『紫薔薇水晶』クランは、ブルーランナー周辺を根城にする巨大なバンディットクランだ。列強する地で物資や新人狩りをし続け成長してきたが、あまりに大きくなりすぎたために盗賊が続けられず中立傭兵団として活動を変えている。討伐されないようにかなり苦しい状況で、この度の戦い参戦でどのような見返りが用意されているのかは、ツイッターではわからなかった。


 〔湯豆腐〕は〔コタロ〕のバックについている『ブルーランナー』と長年競い合っている隣国の『爆走キングダム』に向かった。

 まるで世紀末の街。半壊したビル群にアスファルトからは奇形した木が伸び、壁のあちらこちらにストリートアートが描かれていた。四角い元コンビニを利用しただろう店にはすべて鉄格子がはめられており、小型タレットが左右に動いている。この街に合わせたようにキャラクターたちは黒の革ジャンやモヒカン姿が目に付いた。

 〔湯豆腐〕はトレンチコートを脱いで、のんびり歩きながら街の様子を眺めていた。

このクランにはとにかく走りたい! という連中が集まったパンクな国で、邪魔する奴はケンカ上等! な面々ばかりだそうだ。しかし案外と治安はいいらしい。

 走る! 戦う! 問題があればタイマンで白黒つけろ! シンプルなルールがゲーム内では丁度いいのだろう。

「ま、マジで行くの?」

 二人の娘が〔湯豆腐〕についてきていた。

 青い狙撃手〔ナナ〕。茶色い髪の短髪で、青いボディスーツに白いワンピースを着ている。

「ここは荒くれ者ばかりと聞く。徒歩ではなくランナーに乗って目的地に向かうべきだ」

 赤い格闘機〔ナナ〕。長い黒髪、浴衣のような和服を着ている。

 二人とも人形のような美形で、正直ゲーム内で会っても一瞬誰かわからなくなりそうな操作キャラクターだ。初期スキンからほぼほぼ手を付けていないのだろう。

「これも仕事だ」

 無口な大人を気取り、いつもの軽い口を閉ざした。二人の少女は怯えながら前を歩く軍人くずれの男について行く姿が非常に絵になっていたので、内心満足していた。

 敷地には数十体のバイクが止められている黒い建物。まるでバイクショップのようなこの場所が『爆走キングダム』の(クランベース)になる。

 (クランベース)。クランの心臓、ここを破壊されるとクランは滅亡したことになる。〔湯豆腐〕がランナーを降りて歩いてきたのは、不用意に警戒されないためだ。

 敷地内に入ると、自分のバイクに跨り談笑していた厳つい男たちが一斉にこちらを睨みつけてきた。気にも留めず先に進む〔湯豆腐〕に、〔ナナ〕と〔撫子〕は慌ててその背に隠れた。

 (クランベース)の入り口横にあるバイクを弄っていた青年に話しかける。

「これは本当に売ってるのか」

 並ぶバイクに値札が付いており、1000万エクスと名札が付いていた。ゲーム内マネーは現実のお金と交換されるので、このゲームマネーのレートからすると10万円ほどの高級品だ。

「一台どうだい?」

 彼は笑いながら立ち上がった。

 ネズミ色のツナギ姿で、油オイルですっかり汚れている。この場には相応しくないほどの穏やかそうな好青年で、工具を置いて軍手を脱いで手を差し出した。もちろん〔湯豆腐〕はためらいなく握手を交わす。

「惹かれるね。バイクには詳しくないが、そこそこ値段を取るな」

「これは全部ボクが作った一品物だからね。ランナー外部装飾品デザインで作った、本当に走れるバイクさ」

「そりゃすごい! 他にはない、芸術だ。安いぐらいだな」

 青年と話していると、危険な男たちが集まってきて〔湯豆腐〕を取り囲んだ。〔ナナ〕と〔撫子〕は怯えながら〔湯豆腐〕の背に隠れる。

 好青年のネームは〔ユウラ〕と書かれているが、この男こそ『爆走キングダム』のリーダー〔ライバ〕なのだろう。情報では黒いライダースーツに黒い黒髪、草臥れているが鋭い視線を持つ細長の男だったが、セカンドキャラか何かなのだろう。

「俺は『自由、無言、誰でも可。誰でもOK』国の使者としてきた〔湯豆腐〕だ。ここのリーダー〔ライバ〕に会いたい」

「我らがリーダー〔ライバ〕は会わない。メールで返事をしたはずだが?」

「お詳しいようで」

 青年は少し不快な表情を浮かべ、周囲は殺気立つ。

「気に障ったようなら失礼。こちらも切羽詰まった状況でな」

「いえ、状況はわかります。ですが、我々にどうしろと?」

 微笑みを戻す〔ユウラ〕に、さも不思議な表情を返す。

「援軍とは言いません。ただ『ブルーランナー』を攻める実にいいタイミングなのではないかと言いに来ただけです」

 取り囲む男達から「そうだ」という声が上がり、声を上げた男は睨みつけられて押し黙った。

「我々『爆走キングダム』は戦いには介入しない。ボクたちは卑怯なことをするまでもなく、あんな腰抜けどもに負けるはずがないからね」

 そうだそうだ! 取り囲んだ男たちは声を上げ、〔ユウラ〕の言葉に賛同した。

「腰抜けか?」

「なんだと」

 〔ユウラ〕が一瞬、鋭い視線を向けてきた。

「お前たちは最高のワルだ。盗賊団のように群れて走るだけに留まらずクランを作った。それは世界中を走るためだと聞いた」

 〔湯豆腐〕は周囲を見渡す。

「だがお前らより早く走る連中ばかりだ。現実は甘くないだろ? カスばかりかと思っていたが、イカれた連中ばかりだ。テメェらがカスだった。違うか?」

 なんだとぉ! 取り囲む男たちが一気に殺気立ち始めた。

 〔ナナ〕と〔撫子〕は「ゆ、湯豆腐、あまり挑発しないで」と小声で震え声を出している。

「今更お利巧ちゃんになって国家運営でもするのか? お前らみたいなのは今こそチャンスと暴れるもんだとばかり思っていた」

 〔ユウラ〕は穏やかさをもとしつつ、ゆっくりと話した。

「遊びでやってんじゃないんだよ。カーブでスピードを落とさず走れば、ボンだ。それだけさ」

「今がそのカーブだってのか? ん?」

 大きく息を吸い込む

「今が走り時じゃなんじゃねぇのか!!」

 声を張り上げる。

 周囲は押し黙ったが、また一人が「そうだ!」と声を上げ、再び睨まれ肩をすぼめる。

「もういいだろ? 気が済んだら帰ってくれ」

「なんてことだ! 決裂しちまった!」

 〔湯豆腐〕は手を広げ、芝居じみた声を上げた。

「臆病者の『爆走キングダム』は『ブルーランナー』に攻め込まない! わかったよ、次は別のクラン『武来人』に攻撃をしてくれと言いに行こう! 純粋な武闘派の彼らならきっと聞き入れてくれるに違いない!」

 取り囲んだ男たちはくっと息を詰まらせる。

「そこもダメならば『VVV』に行こう! 次は盗賊団『ガネーシャ』だ! 複雑に絡み合う情勢だ、どこか一つぐらい、チャンスだと思ってくれるかもしれない!」

「何を言っても無駄だ! 我らが結束は変わらない!」

 さすがクランリーダー、流れを読み〔ユウラ〕が大きな声で叱咤した。取り囲む男たちの表情はどこか頼りなく、まるで怯えているかのようだ。

「いや、失礼した。あまりにショックで感情的になったようだ」

 〔湯豆腐〕は野太い笑みを浮かべ、穏やかに声を発した。

「素晴らしい絆だ。『武来人』の連中を信じるのか? 『VVV』の連中を?『ガネーシャ』を? 感動的なほど博愛主義者だ。応援するよ」

 背を向けると、取り囲んでいた男たちは自然と道を開けた。

「行こう、ナナ、撫子。まるで契約を取れない哀れなサラリーマンのように惨めに逃げ出そうじゃないか」

 男たちは怒りの中に、畏敬の念も感じ取れた。

 (クランベース)から出ると、二人の娘は、大きく息を吐く。

「む、無茶するわね。こいつら、マジでヤバい連中ばっかりなのよ」

「勇気と、無謀は違う」

 〔湯豆腐〕は低い笑いを上げた。

「俺も一生懸命なのさ。援軍が無理なら『ブルーランナー』が一斉に攻められたら〔ビューティー・ロッドマン〕や〔バンバンバン!〕がクランに戻らなければいけなくなるかもしれないと思ったんだが、誰も『ブルーランナー』を攻めないと言う。なんてことだ、これはもう『自由、無言、誰でも可。誰でもOK』クランは負け決定だな」

「や、やけに具体的に、説明してくれるね」

「だってそうだろ?」

 〔ナナ〕は戸惑いながら頷く。

「もう一度言おうか?」

「結構よ」

 苦笑気味に断った


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