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ゲーム内で勇者でも、  作者: 新藤広釈
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さいごの2


 さいごの2


 熱に浮かされたように学校に来て、鳳梨に挨拶もせず席に着いた。

 鳳梨は何か言いたげな瞳を向けたが、いつものように不躾なほど積極的なスキンシップは行わず静かに着席したままだった。その理由はすぐにわかる。

 宗像からメールが送られてきて、二人がお付き合いし始めたことを宣言していた。

「男らしい。さすが宗像くんですね」

 思わずポッと頬を染めてしまう。

 不思議なほど二人のことを祝福していた。絵になるほどの美男美女カップル。しかも二人そろって男前。本当に自分ではなく彼女を選んでくれて良かったと、心から思っていた。

「まぁ! 可哀そう!」

 上級生から中学生まで教室に集まってきて、鳳梨には祝福が送られ、涼華には慰めの言葉を投げかける女子たちが取り囲んだ。

「メール見たよ、大丈夫?」

「あんなに頑張ってたのね、可哀そう!」

「元気を出してね」

「一緒に頑張りましょ!」

「見る目がないわよね!」

 涼華は微笑み返すことができた。

 コタロに心を支配されていた時は怒りに支配され皮肉の一つも言い返していたところだが、今日に限っては、正直どうでもよかった。

「すっからかんです」

 いつも真っ先にやってきて嫌味を言ってくる子の手に手を合わせ、何の考えもなしに頬に手を当てがった。

 撃破され、すぐにログアウトした。いろいろあり過ぎて頭がこんがらがっていて、考えがまとまらなかった。

 ただ、彼の言葉がいちいち心かき乱し、

 また同じように自分の頬を熱くさせていた。

「ちょ、ちょっと、なにしてんのよ!」

「あ、すいません」

 手を払われ、不躾な行動に素直に謝った。

 そして、物憂げに昨日のことを何度も頭の中で反芻した。

「あ、あんた、本当に大丈夫なの?」

「どうでしょうね。いえ、本当に大丈夫じゃないんでしょうね」

 机に無数の手が差し出された。

 何事かと彼女たちを見渡すと、何か真剣な表情でこちらを睨みつけていた。

「だったら、私の手をお使いになって」

「いま手を払ったじゃない! 使うならあたしの手がいいわ!」

「わたしの小さな手でよかったらお使いになって」

「小娘!」

 涼華は目を丸くした。

 なんだかよくわからない状況のまま昼休みになり、涼華は一人で海風を浴びたいと願い出てやっと一人になれた。彼女たちの悪意を急に感じなくなり、気持ちが悪くなり逃げだしたところもある。あれなら罵り合いをしていた方がずっと楽しかった。

「転校するなんて言っておきながら、このざまですか」

 実のところ、転校する気がもう全然なくなっていた。

 別に『自由、無言、誰でも可。誰でもOK』クランが無くなったわけでもなし、好きな人を横から奪えたわけでもない。ただただ、間抜けがすべてを失いハッピーエンド、それだけのことだ。

「オンちゃんとは、絶交しないといけないでしょうけどね」

 そこで初めて、ズキっと胸が痛んだ。

 さすがにこれまで通り親友でいようねとは、さすがに言えない。いくら何でもひどいことをしすぎている。謝罪して済む問題じゃない。罪を償って済む問題じゃない。

「何より私は、あの日々を否定したくないのですから」

 我武者羅だった。

 母親に無理やり押し付けられたことじゃない。辛いことから目を背けるためじゃない。ただ自分のため、復讐のためとはいえ、親友を傷つけ失うことになったとはいえ、ただ自分のために努力をして、ある程度の結果を残したことは今も痺れるほどに喜びが蘇る。

「俺はお前を肯定する、か」

 その言葉が、嬉しかった。

 打ち震えるほどに、嬉しかった。

 そして、その言葉を投げかけてくれた人は、知っている人なのかもしれない。

「その日、胸糞悪いなんて言われてフラれた人は、そういないはず」

 胸が熱く、高鳴り始めた。

 失恋したばかりで容易く別の男性に心ときめいてしまっていることに、さすがにそれは軽薄すぎると肩を落とす。

 一人グランドに出ると、同じように校門に向かって歩いている生徒がいた。特徴のない彼にすぐ気づくことはできなかったが、きっと彼はそのことを責めたりはしない。

 新広久留亜に、宮島涼華は心臓が激しく叩き始めた。

 誰もいない。

 目ざとい彼はすぐにこちらに気が付くと、動揺して逃げ出そうとし始めた。それはそうだろう、「胸糞悪い」なのだ。

 手遅れかもしれない。

 もう鳳梨と同じように取り戻すことはできないかもしれない。

 それでも当然のように、一歩踏み出していた。


むねん、毎日7時投稿ができなかった。

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