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ゲーム内で勇者でも、  作者: 新藤広釈
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さいごの1

 

 さいごの1


 クラン防衛成功のニュースは、驚きをもって報じられた。

 おおよその予想を覆した戦いであること、人気YouTuberが指揮していたこと、そしてあの〔納豆巻き〕が戦況をひっくり返してしまった出来事がネット界隈で大騒動を起こしていた。

 視聴者の目からすれば〔コタロ〕軍が取り囲んでいたら、突然あちらこちらで離反が起き壮絶な内輪もめが始まったように見えていた。

 奇跡起こしとるやないか〔納豆巻き〕!

こうして〔納豆巻き〕の名声は更に高まることになった。

「現実の僕はフラれた間抜けのままだけどねぇ」

 数学の授業をぼんやりと聞き流しながら「胸糞悪い」という言葉がインフレしていた。普通にフラれるならまだしも、「胸糞悪い」である。16歳の少年は大いに傷ついていた。

「男はフラれるとねちっこいって言うけど、ああ、ほんとそうだなぁ」

 何度目かのため息をついた。

 気が付くと授業は終わっており、教室は一度暗闇に包まれ、ゆっくりと明かりが戻ってきて黒いカーテンが自動的に開いた。

 教室の生徒たちの大半は姿を消し、瞬時に虚空にテキストが浮かび上がる。『今日は京都でラーメン食べに行こうぜ!』『北海道で海鮮丼がいい』『パリで食事しない?』『午後の授業もあるし日本にしようよ』と昼食の誘いでいっぱいだ。

 久留亜は気が乗らず『不参加』と打って外に出ることにした。

 何となく気になり、宮島涼華のグループテキストを開く。『大丈夫?』『一緒にカラオケいこ!』『気を落とさないでね!』と励ましの言葉が並んでおり、少し安心した。

 竹原宗像と鳳梨ホワイトは付き合い始めた。

 わざわざ朝に『竹原宗像は、鳳梨ホワイトと付き合う事になりました』というメールが宗像から流され、騒動になった。

 何しろ美男美女の注目の恋模様の決着が隠されることなく発表されたのだ、それはもうみんな興味津々だ。

「はぁ、ほんと、こういうところカッコいいよなぁ」

 ポッと頬を染めながら久留亜は席を立つ。

「新広ぉ、今日も不参加か?」

「付き合い悪くない?」

「そうよ! 今日は宮島さんの話しなきゃいけないでしょ!」

「だから不参加なの!」

 やじ馬たちの魔の手から急いで逃げ出した。

 今日は宗像も彼女と二人っきり、これからは彼らと一緒に食事をする機会はぐっと減ることになるだろう。

「でも竹原のことだから気にせず一緒に食べようとか言ってきそうだから、僕の方が気を使って二人っきりにさせてあげないとな」

 自動販売機でお茶を買って広いグランドを横切っていく。ずっと騒がしいメールにも目を通さないといけないだろう。

 広いグラウンド、もう一人校舎から出てきた人物がいる。

 涼華だ。

 友人たちに囲まれて遊びに行っているとばかりに思っていたので、少し驚いてしまった。

 もちろん声なんてかけられるわけもなく、身を隠したかったのだがだだっ広いグラウンドで逃げ出すこともできない。彼女もこちらに気が付いたようで、どういうわけか近づいてきた。

 あの「胸糞悪い」が近づいてきた!

頭空っぽになってしまい、走って逃げよう! そう決心して振り返ると、見知らぬ女生徒が立っていて思わず飛び跳ねそうになった。

「あなた〔納豆巻き〕ね」

 背の低い女生徒の言葉に、改めて飛び跳ねそうになった。



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