その6の5
その6の5
涼華はYouTubeで動画配信を始めた。
一人でクランを倒すことなどできるわけもなく、考えたのが別のクランに協力してもらうことだ。しかし差し出すエクスも、ゲームスキルも彼女にはない。
そこで考えたのが、『ランナーズ』を調べている時に知ったゲーム実況だった。知名度を上げ、クラン幹部と知り合いになり、自由クランを攻撃してほしいと交渉できないかと思ったからだ。
そして作った動画は、日に日に再生数が伸びて行った。
「ランナーズは古いゲーム、新鮮味はない。コタロは鼻につく男、好感度は最低。再生数が少なくて当然。対策としては新作ゲームで女子だとバラして遊べば再生数も伸びる。しかしそれでは本末転倒。対策は・・・」
生真面目な涼華は短期間のうちに動画の研究を怠らなかった。
多くの人気動画配信者の動画を見て回り、動画編集技術、話術、気を付けることなど真摯に向き合った。
その努力の結果としていい動画が作られ、結果として再生数が伸びて行った。ただ涼華からすると、成すべきことを成していただけであり、思いのほか再生数が伸びていることに驚いていた。
その想定していなかった再生数の伸びにより、計算外のことが次々と起きることになった。
人気動画配信者になり次々とコタロに協力を申し出る視聴者が集まってきて、そこそこのクランが作れるぐらいまで人が集まってしまったことだ。
更に、有名になって別クランの幹部と知り合いになろうと思っていたが、まさかの向こうからコタロに連絡を取ってきた。
次々と好転していくが、彼女は戸惑うことなく手を止めたりはしなかった。
「やっぱり、私は悪の才能があったようですね」
悪巧みが湯水のように湧き出てくる。
クラン幹部と友人になると、そのつてでクランリーダーたちと連絡を取り懇親会を開く。そして彼らからクラン潰しの方法などの相談も受けた。
さすがは歴戦の雄ばかり、彼女の烏合の衆は数日のうちに軍隊へと姿を変えた。相談に乗ることにより、クランリーダーたちは涼華を身内として認識し、おいそれと裏切られない雰囲気作りにも成功した。
もう、どうにも止まらなかった。
もう、鳳梨を救うことはできなかった。
友人を裏切るという行為は、さすがの鳳梨からも笑顔を奪っていた。
当たり前だが自然と笑いあうこともできなくなり、一緒にいる時間も減っていった。
「そうか、私たちはこのまま別々の道を進んでいくんですね」
不思議と、ホッとしていた。
あまりにも自分は汚れており、彼女とは相応しくなかった。
鳳梨の影を感じたのか、宗像は彼女に近づきつつあることに気が付いた。
胸の痛み、苦しみと共に、やはり安堵した。
「転校しよう。オンちゃんと宗像くんから離れて、家を出て一人暮らしを始めよう。お遍路参りをしながら学校に通うのもいいかもしれない。頭を丸めて帰依し、罪を償い続けるもいいかもしれません」
地獄へ落ちるとわかっているが、止められない。
それどころか、たまらなく楽しかった。
きっと心はバラバラに砕け、もう昔の自分には戻れないだろう。それでも、努力を続けて結果が出る。その麻薬のような甘い誘惑に抗えなかった。
『胸糞悪いだぜ?』
思わず、息を飲んだ。
戸惑いながら黄金の剣を振るうが、青と赤のランナーはもはや敵ではないといなすばかりだ。
『いい女だった。美人で、賢い女だ。何か追い詰められていてな、力になれればと思ったんだが、俺じゃダメだった』
「何の話してんだよ!」
黙って聞けと言わんばかりに、赤いランナーに蹴り飛ばされる。
『俺は賢い奴が好きだ。裏で卑怯な手口を考えてる奴が好きだ。貶め、勝てない相手に勝つ瞬間がたまらなく好きだ』
左腕も切断され、逃げるための足もまた切断された。
尻もちをつき、身動きが取れない。
『俺はピンチでも、叫んで光り輝きスーパーパワーを手に入れて奇跡的な勝利を掴むことができない。彼女が泣きながら駆け出しら、その日見つける自信はない。せいぜい最初こそリーダーシップを取るが後半いきなり死ぬ、いい奴だったのに枠の人間だ。だから諦めるのか? 冗談じゃない、奇跡なんかなくても勝つし、逃げられる前に腕を掴むし、リーダーシップを取ったまま生き残ってやる。そのためならなんだってする。どんな卑怯な手を使ってもな! お前もそうだろう?』
そのランナーは前に出て、巨大な鉄の棒を高らかと持ち上げた。
『俺はお前を肯定する。また今度遊ぼうぜ、〔湯豆腐〕で連絡を取ってくれれば・・・いや』
黄金のランナーは、叩きつけられた巨大な鉄棒により大爆発を起こした。
『〔納豆巻き〕で連絡をしてくれ。これからも動画楽しみにしている』
コックピット内は赤く点滅し、暗闇に包まれた。
無数の浮かび上がるテキストからは『うおおお!? マジで〔納豆巻き〕!?』『相手が悪すぎる!』と、驚きのコメントであふれていた。




