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ゲーム内で勇者でも、  作者: 新藤広釈
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その6の4


 その6の4


 金色のソフトモヒカンの男に近寄られ、彼女は少し抵抗した。

「私は、いやオレは『自由、無言、誰でも可。誰でもOK』クランに復讐する」

 軽薄そうな笑みを浮かべ訪れた涼華に、鳳梨は顔をしかめた。

「もちろんオンちゃんも手伝ってくれるよね」

 そう言いながら馴れ馴れしく首に腕を回した。

 現実世界では服の裾をちょこんと握ることしかできない涼華とはあまりに違う行動に、驚きを通り過ぎて恐怖すら見せた。

 涼華はそれを感じ取り、卑しい笑みを浮かべる。

「闇姫騎士ダクレンナ、ゲーム内では本名を使わないらしいですね。闇姫騎士ダクレンナとフルネームで呼んだ方がいいのでしょうか?」

 言葉のイントネーションから涼華を見つけ、彼女は少し肩を落とした。

「レイラを裏切ることなんてできない」

「姫騎士ダクレンナと呼んだ方がいいのか、ダクレンナと略していいのか、聞いてるの」

「・・・ダグレンナでいいわ」

 涼華は、ゴロツキのような笑いを上げながら離れる。

 鳳梨はあまりの様子の違いに、混乱していた。いつもは貞淑な彼女が、あり得ないほどの姿を見せている。

「どうしたの? スズヤカ、おかしいよ」

「コタロだ、ダクレンナ。今のオレはコタロ」

「コタロ、聞いて。雪賊のことは謝るわ。だけどクランを潰すなんて、普段のスズヤカはそんなこと言わないでしょ!」

 コタロは軽薄な笑みを、ダグレンナに近づけた。

「変? オレが? 私が変? 違うな、違うわ。もともとそういう人間だったのです」

 そう言ってダクレンナの胸を叩き、二人は離れた。

「善人を気取ってた。心優しい女の子、そう思ってた。だけど違った。私は、クズで、下種で、穢れた血が流れてるゴミのような人間なんだよ!」

「違うよ! スズヤカは優しくていい子だよ! 雪賊に奪われて気が立ってるだけだよ!」

「ああそうさ! 奪われて、腹を立ててんだよ!」

 コタロは神経質そうに自分の胸を叩き、鳳梨を指さした。

「私は奪われ続けてきた! 奪われたことにさえ気づかずに! 奪った連中は笑っているってのに!」

「やめてよスズヤカ!」

 コタロは彼女の言葉に、首を振って答えた。

「ダメだ。もう気づいたんだ。知らないフリをして生きていけない。手始めに奪った『自由、無言、誰でも可。誰でもOK』クランに復讐する! 気づかせてくれたのは、あなたでしょオンちゃん」

 鳳梨は、胸を掻きむしりそうなほどの絶望に震えていた。

「ダメ。レイラは、ずっと一緒にやってきたの。友達なの」

「私と、レイラ、どっちなの?」

 わかっていた。

 彼女の表情はそう訴えかけていた。

「お願い、スズヤカ。こんなことは止めて」

 もう語ることはないと、コタロは静かに首を振る。

 こんなはずじゃなかった。

 一緒に、仲良く遊びたかっただけ。

 涼華は、鳳梨の声が明確に聞こえてきた。もう、幻聴だと自分をごまかすつもりはない。

「手伝う」

 鳳梨は、絞り出すように答えた。

 なぜかその答えは、涼華の心を再びタールのような黒いもので満たしてしまった。



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