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ゲーム内で勇者でも、  作者: 新藤広釈
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その5の4


その5の4


 複雑に込み入った小道を抜け、多少は広い道へ抜け出た。

 気づけば、(クランベース)が目の前だった。

「ヒュー! さすがオレ、持ってるぜ!」

 道を塞ぐのは、型落ちの15メートルランナー。

 〔コタロ〕の黄金のランナーは派手な、装飾された剣を引き抜き立ち向かう。接近戦は優れた攻撃方法じゃない。

だからこそ素晴らしい! 

 接近戦は動画的に派手になる。一撃で倒せないところもいい。苦戦して苦戦して何とか勝利を捥ぎ取る! その瞬間狙撃で倒されてしまう。それがおいしいのだ!

「そこを退けよルーキー!」

 間抜けは死ぬ定めなんだぜ!

 ギンッ!

 剣は止められた。

 前を走っていた青いランナーの狙撃銃と、赤いランナーの長刀によって。

「お、おい、何のつもりだ」

 青と赤のランナーは、その巨体を守るように左右に仕えた。

 〔コタロ〕はうろたえながら後ろに下がり、周囲を見渡す。

 それなりに広い道だが、誰一人いない。

 本当に誰一人。

「おい、ふざけんなよ、お前ら」

 (クランベース)を攻撃するために持っていた大型の手榴弾をそっと用意していると、後ろから別のランナーが現れた。

 その美しい半透明な紫色のランナーを見て大きく安堵する。

「ダリア! よかったぜ! お前らのメンバーが邪魔して・・・」

 言いようもない寒気がした。

 傭兵団「紫薔薇水晶」クランリーダー〔ダリア〕。クリア加工されバラとダリアの花が全身に描かれた紫色の歩く重箱のような機体。その重箱が持つライフルの先は、〔コタロ〕に向けられていた。

「どうだい! コタロを一人だけ連れてきたぞ! 完璧な仕事だろ!」

 しゃがれた女性の声が響き渡る。

 古臭い15メートルの機体は、青と赤のランナーを左右に避けさせ前に出た。

『完璧な仕事だ、脱帽だよ』

 黄金の剣を下し、そのランナーに振り返る。

「なにを、した?」

 ゆっくりと、そして一気にそのランナーに走り出す。

〔コタロ〕の腕は古参プレイヤーぐらいの実力はある。そのうえ有志により黄金のランナーは寒冷地仕様の完璧な機体になっている。

 その前に立ちふさがる青と赤のランナー。

 サメの骨の装飾品にした海賊のような青い機体、ナナこと〔七海〕は杭を撃ちだす巨大な狙撃銃で黄金のランナーの剣を再び止める。

 態勢を崩しながらも襲い掛かる長刀をバックステップで避ける。赤備えの甲冑を着たランナーは逃がさぬと長刀を振るい、撫子こと〔芝桜〕は容易く〔コタロ〕を追い詰めていく。

 紫薔薇水晶の二枚看板、〔七海〕と〔芝桜〕は〔コタロ〕を容易く型落ちランナーを守って見せた。

『そりゃ、こっちの話だ。なにをしたコタロ。俺がしたことは、あるべき姿に戻しただけだ』

 巨大なランナーは、まるで悪役が危機に陥る主人公に対して今まで悪事を自慢げに話すように話し始めた。

『狂犬に血の滴る肉を見せびらかしただけだ。どうやって躾けた? よくあんな連中に待てを教え込んだな。本気で尊敬する』

 侮蔑どころか、その言葉には賞賛があった。後ろから、〔ダリア〕は声を上げて笑い始めた。

「最初に裏切ったのは誰だ!?」

『ダリア、あんただ』

「裏切りの情報は役に立っただろ!?」

『ああ。危なかったよ。戦場に新規プレイヤーばかり戦わせていたのが「南極の戦い方を隠蔽するため」と思っていたが「古参兵にぼこぼこにされたら士気が下がる」という理由だったとは、この〔湯豆腐〕の目をもってしても見抜けなかった』

「約束のエクスは用意できるんだろうねぇ!」

『最低でもコタロの視聴者は裏切らんだろう。そいつらから奪うさ』

 〔コタロ〕は〔七海〕と〔芝桜〕に剣を向けながら、〔ダリア〕に怒鳴りつける。

「何の冗談だ、ダリアよぉ!」

「冗談でも遊びでもねぇんだよ、コタロ。うちの子はね、私立のいい学校に通ってんだよ。学費はこのゲームで稼いでんだ、割のいい方に転がるのは当たり前だろ」

「バっカじゃねーの!? こんな連中が勝つとでも思ってんのかよ! このぐらいでオレらが負けるわけねぇだろ!!」

 一気に正面突破とはいかなくなった。

 だがそれだけだ。

 裏で何をしたか知らないが、クランリーダーたちとの絆は本物だ。決して裏切られるはずがない。〔ダグレンナ〕の裏切りにより正面門は開かれたのだ、もはや勝負は決している。もし自分が倒されたとしても、むしろ取れ高、「失敗したぜ!」といつもの調子で笑って終わりだ。

「上等だぜ、ダリア。裏切者よぉ! 学費はもう出ねぇ! 次の目標はテメェら紫薔薇水晶だ! 選択を間違えたなぁ!」

『鉄砲玉が、撃たれた』

「あ?」

 コックピット内に広げていた各部隊の情報が次々と上がってきた。

 補給基地が襲われ始めたらしい。狙われているのは(基地)、最大の補給基地が狙われ、陥落していると情報が入り始めた。

『お前から略奪した雪上専門の盗賊だ。忘れたか? 得意なのは猛吹雪の中での攻撃だ。これはランカープレイヤーでも止められんぞ』

だからなんだ?

 呆れすぎて声が出なかった。

『だからなんだ? と思ったか? ん? 補給基地が襲われたところで戦況は変わらないか? 被害は想定より出るだろうがそれだけだろうと?』

「そうさ、盗賊今更騒いだところで難も変わんねぇよ」

『もしプレイヤーが全員将棋の駒ならそうだろうな』

 戦いもしないそのランナーは、首を振る。

『関ヶ原の戦いって知ってるか? 小早川秀秋の裏切りによって一気に裏切りの連鎖が始まった。徳川家康が未だにどちらにつくか悩んでいた秀秋に銃弾を撃って急き立てたんだ。秀秋は恐れ、思わず家康側に寝返った、と』

「何の話をしてんだ?」

『銃弾の話さ。おかしいな、(補給基地)のデータを渡したんだが、なんで(基地)攻撃してるんだ? 俺は銃弾のつもりだったが、こりゃ大砲だな。みんな驚いてるだろうよ』

 次々と補給基地からの悲鳴がコメントで表示されていく。

『どうして信用できる? お前の隣にいる奴は、お前と同じ狂犬だぞ? こんなおいしそうなもん見せつけられて、どうして耐えられるって思うんだ? いいのか? 急いで食わなきゃ食われるだけだ。肥え太った狂犬の次の餌は、お前らなんだぞ?』

 〔コタロ〕のテキストが荒れ始めた。

 なんだこいつ? 気持ちワル はぁ?何言ってんだ? イミフ 狂犬ってwww うわ、ドヤ顔で何言ってんだ?

 この男が何をしようとしているのか、〔コタロ〕は気が付き青ざめる。

『さぁ誰が秀秋になるかな! ライブ見てるよなぁ、クランリーダーの面々よぉ! ブルーランナーの踊り食いだ! バカが南極に大金かけて軍隊送ってる今がチャンスなんじゃねぇのか!?』

 〔コタロ〕は走り、止められることを承知で攻撃を仕掛けた。

「よぉよぉ! 主役はオレだろ! オレを見てくれよぉ!」

 これ以上この男に話させてはいけない。

 〔七海〕と〔芝桜〕は〔コタロ〕を上回る実力者だが、無慈悲に破壊してしまおうという意思がない。この時代遅れの演説を〔コタロ〕の配信中の動画を通じて流す意図は明白だ。

「オレたちゃ悪と戦うために一致団結してんだぜぇ!? そんな甘言に引っ掛かる間抜けはいねぇよ! そこの盗賊崩れは先が見抜けぇほど間抜けだったみたいだがなぁ!」

『正義を愛する心には勝てないな。さて、お配りした寝返ってくれた時の報奨金テキストを用意してください。3ページに書かれている通り、早い者勝ちです。一番は『紫薔薇水晶』ですが、二番手をお待ちしております。ああ、一般プレイヤーの方も、略奪品の売買は我らがクランにお願いします。もちろんニコニコ現金払いです。もちろん我らがクランは皆さんの保護させていただきますので安心です』

「配信者のオレより喋ってんじゃねぇよ!?」

 大型手榴弾に手をかけた。

 この程度の爆弾では自分だけが吹っ飛ぶことになるが、それでもいい。とにかく配信を通してプレイヤーたちに裏切りを宣伝させるわけにはいかない。

「御免」

 〔芝桜〕は長刀を仕舞い、腰から小太刀を引き抜く。素早く手榴弾を手にした腕を掴むと、火花を散らしながら腕を切り捨てた。

「そりゃベース攻撃するんのに剣ってわけにもいかないしねぇ」

 〔七海〕は手榴弾を持ったままの腕を、杭を打ち出し腕ごと空に打ち上げ、巨大な花火を上がらせた。

「マジかよ」

 曲芸レベルの大技だ。

ある意味取れ高は完璧だ。

『勘違いしないでくれよ、〔コタロ〕。俺はお前のファンなんだ。正直お前の味方をしたかったぐらいだ。昨日女にフラれてな、すげぇダウンしてたところだが、お前と話せてほんと光栄だ』

 〔七海〕と〔芝桜〕は、もう心配いらないだろうと、まるで側近のように巨大なランナーに寄り添った。実際、〔コタロ〕は片腕でもはやどうこうできる状態じゃない。

「恋の悩みかい? いいぜ話してみろよ、イカしたアドバイスしてやろうじゃねぇか」

 もうやけくそだ。

『そう言ってもらえてうれしいな。聞いてくれよ、なんていったと思う? 胸糞悪いって言われたんだ。胸糞悪いだぜ? 胸糞悪いかぁ・・・』

 その言葉に〔コタロ〕は驚き、息を飲んだ。


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