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ゲーム内で勇者でも、  作者: 新藤広釈
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その5の3


 その5の3


「いよぉ! コタロチャンネル、始めるぜぇ!!!」

 猛吹雪の中、金色のランナーが拳を突き上げた。

「今日だぜ、今日! 今日は見とけ! 明日は見なくていいから今日は見とけ! とうとう念願の盗賊クラン滅亡の日さ!」

 取り囲んだランナーたちは拍手をし始める。半数は視聴者だが、もう半数はラメ入りの色とりどりのランナーが囲んでいる。傭兵団「紫薔薇水晶」の面々だ。

「待ってたか? そりゃ待ってただろうな! もうとっくに総攻撃は始まってるってのに、オレの動画が始まらないんだからな! だけど勘弁してくれよ!」

 昨日の夜までは天候が良かったのだが、朝から吹雪はじめ総攻撃の昼には伸ばした手の先が見えないホワイトアウト状態が続いていた。

「吹雪いて放送どころじゃねぇんだよ! ってもあったんだが、本当は秘密工作中でそれどころじゃなかったんだ! この壁、なんだと思う?」

 カメラが引いていくと、コタロが触れていた鉄の壁は巨大な門だということが分かった。

「いろんな生放送で攻城戦、見てくれてんだろ? ヒュー! あいつら生意気にも結構善戦してるみたいじゃん? 雪国の戦いを舐めてたぜ! 結局主役はオレ様ってわけだ、な!」

 金色のランナーは大きく巨大な門を叩いた。

 すると、ゆっくりと門が開いていく。

「『自由、無言、誰でも可。誰でもOK』クランの正面、北門の扉だよ!!」

 開け放たれると、周囲から歓声が上がった。

 中から真っ黒のランナーと、自由クランの兵が並んでいた。兵たちは口笛を吹いたり手を叩いたりして〔コタロ〕たちを歓迎する。

「我らが救世主! 闇姫騎士ダクレンナだ!!」

 黒いランナーの隣に行くと、金色のランナーは肩に手を回した。

 〔ダグレンナ〕は少し抵抗するも強引な〔コタロ〕の腕を振り払えない。

「こいつは裏切者さ! 卑怯者だろ!」

「あまり、映りたくはない」

 振り絞るような〔ダグレンナ〕の声に、心配ない心配ないと背中を叩く。

「こいつはリアルのダチなんだ! そう! こいつはオレに脅されてしょうがなく協力した被害者ってわけさ! こいつを悪く言わないでくれよ? リアルのダチなんだ、悪いのは全部オレってことで、マジ頼むぜ!」

 そう言いながら、堂々と『自由、無言、誰でも可。誰でもOK』クランの門をくぐった。兵たちと視聴者や傭兵たちは握手やハグをしながら敵意がないことを示し合う。

「戦うフリをしながらゆっくりと門に近づいていたってわけさ! 動画配信するわけにゃいけないだろ!? 天候がまさしくオレたちに味方してくれたってわけさ! おかげで予定より早く動画配信できたもんな!」

 四方を高い壁で囲まれた街は外と違って視界は良好だ。まっすぐ伸びた大通りがあり、その先に国の中心クランベースにたどり着くことになる。

「さぁ裏切りはバレた! 駆け足で行くぜ!」

 〔コタロ〕たちは一気に駆けだした。

 動画は生配信中だ、裏切りはすでに相手側に伝わっている。急いで(クランベース)を破壊しなければ、無駄な被害が出るだけだ。

 中央通りを中頃、立ち塞がるように一体のランナーが現れた。

「止まれ止まれ!」

 〔コタロ〕は慌てて大声で止めた。

 普通の機体ならまだしも、その真珠色に輝く機体の危険性を知っているからだ。

 クランリーダー専用機、スノークィーン。

 クラン規模により強さは違うが小国であっても最新鋭のランナーより性能が高く、スノークィーンは通常ランナーと違い完璧に寒冷地仕様にされており、更に最新鋭以上の能力故に数倍能力が高くなっている。

「レイラっ、どうして、ここに・・・」

 〔ダクレンナ〕は恐怖の混じった驚きの声を上げた。

 〔レイラは〕、この吹雪を利用して有志を募り敵陣に奇襲をかけているはずだ。

『ダグレンナ、クランから追放します』

 真珠のランナーから外部スピーカーが発せられた。

 あなたは『自由、無言、誰でも可。誰でもOK』クランから除隊されましたというメッセージが届いた。

 〔ダグレンナ〕は苦痛に満ちた表情で了解ボタンを押すと、ランナーは黒い刀身の剣を引き抜く。

「コタロ、先に行きなさい。レイラは私が止める」

「おいおい一体だけだろ? みんなでボコって・・・」

 四角い無機質な建物の影から、遊撃に行っていたはずの有志メンバーが次々と現れ〔コタロ〕たちを取り囲んでいた。

「いいねぇ! 思わぬトラブル! いい取れ高だぜ!」

「先に行きなさい!」

 黒騎士は果敢にスノークィーンに果敢に切りかかる。

『ダグレンナぁ!』

 貝のような籠手から光の剣が吹きあがり、〔ダグレンナ〕の剣を受け止めた。

『貴様はっ!』

「問答無用!」

 風に吹かれ自在に動き回る〔レイラ〕に対し、〔ダグレンナ〕は食らいつくように距離を詰める。視界こそ悪くないが、〔コタロ〕たちでは完全にデバフを押さえ切れていない。

 唯一、最新鋭の機体に完全寒冷地仕様、そして強さゆえに軍事を担っていた〔闇姫騎士ダグレンナ〕だけがスノークィーンに食らいつくことができる。二人の戦いが始まるとともに、周囲も戦いが始まる。

「コタロ! こちらに!」

 戦いに参加しようとする〔コタロ〕に、紫薔薇水晶のメンバーが声をかけた。赤と青のランナーは目の前のランナーを倒し、脇道へと導いた。

「ヒュー! やっぱり俺が主役ってわけさ!」

 〔コタロ〕は素早く脇道へと突き進んだ。


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