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ゲーム内で勇者でも、  作者: 新藤広釈
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その5の2


 その5の2


 盾で囲まれた(簡易補給基地)に、無数の球体が投げ込まれていく。

「クソっ! まただ!」

 地面に落ちると、周辺に液体が飛び散った。するとランナーたちの体がどんどん白く凍っていく。

「動ける奴! 来るぞ! ミサイルに備えろ!」

「わかってる!」

 闇の中、月明かりに照らされミサイルが次々と振ってきた。凍り付いたランナーたちはミサイルを撃ち落としていくが、手数足りずミサイルが着弾してしまう。

「チクショウ!」

 (簡易補給基地)は、ランナーの無残な残骸だけが転がっていた。わずかに残った動けるランナーがライフルを身構えるが、そんな彼らに巨大な黒い影が覆った。

15メートルの、肩にクレーンが設置された黄色いランナー。巨大な鉄筋を振り回して残っていたランナーに叩きつけた。

「やれやれ、まともに動けるランナーはいないのですか?」

 資源調査、採掘、加工、武器カスタマイズ研究、金策の内政をすべて担っている〔MDK〕は呆れながら敵のランナーたちに言い放った。

「クソ、秘密兵器さえなければっ!」

「ただの水ですよ、それ」

 動けるランナーたちは〔MDK〕を攻撃しようとするも、後方からやってきたランナーに破壊されていく。

「まさかこんなものが秘密兵器になるとは思いませんでしたがね」

 元はカラーボール。それを改良して水を入れただけのカスタマイズがされている。実は真水を手に入れるのが難しい『自由、無言、誰でも可。誰でもOK』クラン、プレイヤー同士が取引するときに入れられる容器として開発された。現在は海水を入れて投げ飛ばしている。

ケチってカスタマイズを怠ったランナーでは、この海水ボールだけで十分戦闘不能にしてしまうほどの威力のある武器へと変わっていた。

 〔MDK〕独立部隊は点々と作られている(簡易補給基地)を潰して回っていた。

「こんなもんかよ、敵じゃねぇぜ!」

「滝夜叉姫はどうしてレーダーポール落とされてんだ?」

 共に行動しているランナーたちは不思議そうに言ってきた。確かに、想像以上に練度が低い。内政屋の〔MDK〕ですら余裕で勝てるぐらいだ。

「私の開発した兵器のおかげ、とうことにしましょう」

「ったくよ、せっかく持ってきた秘密兵器ほとんど使ってないってのになぁ」

 変形して店へと変わるリヤカーは移動弾薬運びに、ホースで水を撒き散らし地面を氷の平地にする機械は、火炎放射器ならぬ氷河放射器に。まっ平らのように見えて実は凹凸のある雪原を調査する機械は、(簡易補給基地)の大体の場所を予測できた。

 すべてが、生活道具が兵器に変わったのだ。

「しかし、MDKがこんなに戦い上手とは思わなかったぜ」

「私も知りませんでしたよ」

 〔MDK〕はため息をついて敵の拠点を自らの拠点にしようと指示を出していく。

 そう、特別なことは何もしていない。いつもの地形調査に、リヤカーを押して程よい場所を平らにする。協力者に真水で支払う。それだけの事をしているだけなのだ。

 言われた通りに。

「誰だ!」

 近寄ってきたランナーに、彼らは銃を向ける。古い中古ランナーは両手を上げて近寄ってくる。〔MDK〕は仲間たちに銃を下すように指示をした。

「調子いいようだな」

「フン、逃げたかと思っていましたよ」

「勝てるゲームを下りる理由はないな」

 リーダーが連れてきた謎の協力者〔湯豆腐〕だ。ジョーク装備巨大な鉄の棒は、〔MDK〕が装備している鉄筋と同じ、とても活躍できそうな装備ではない。

「陣中見舞いに来たが、ほら、手土産だ」

 〔MDK〕はデータを受け取り、少し感心したようにため息をつく。

 西側守備隊プレイヤーの、仮眠スケジュールが記されていた。戦いに次ぐ戦いで高揚して、眠るということは意識から抜けていた。

「レイラの命令だ。従ってもらう」

「ええ、もちろん」

 下手なウソだ。自分たちのリーダーが、そこらへん気が回らないことぐらい知っている。彼が戦闘以外すべて担っているのは、そういう理由なのだから。

「その、レイラはどう言ってる?」

「何がだ?」

「戦況は、いいのか悪いのか。レーダーポールは3本倒された。ここは強固だと敵の数が少ない。折れた南と東に敵が流れている。援護に行かなくてもいいのか?」

 低い笑い声が聞こえた。

「レイラは言っていた、レーダーポールは予定だとすべて倒れていたと。最悪城壁すら陥落していた可能性があったと。ポールがまだ2本も残っている状況がかなり善戦している。援軍は必要ない。余裕があるなら休んでもらった方がいい」

「俺たちはまだ戦えるぜ!」

 仲間たちが勇ましくライフルを空に撃つ。

 〔湯豆腐〕は呆れたように手を広げる。

「元気が余ってるな。だったら秘密兵器なしで戦ってくれ。相手はプロだ、最初こそ定石通りの戦い方をして数を減らしていたが、スモークを投げずに進軍するように動きが変わってきた。できれば明日、〔コタロ〕どもをびっくり仰天させたいんだ」

「なるほど、面白いな」

「何かしたいってんなら、ここら辺に強力な拠点を作ってみたらどうだ? 攻撃中、真横に敵の拠点があるってのは、精神的に嫌なもんさ。」

「丁度良く、地面を平らにする道具を持ってきていますよ」

 〔MDK〕は苦笑気味に答えた。

どこまで計算で、どこまで偶然なのか。この男は計り知れない。

「深夜になれば人も減ってくる。パーティーは明日だ、楽しもうぜ」

 そう言って闇の中に消えていった。

 確かに頭の中には雪の地形があり、どのような拠点を作ればいいか容易に考えられる。

「不思議な男ですね。これほど絶望的な状況だというのに、彼といると、勇気が湧いてくる。何より、とても楽しい」

 〔MDK〕は微笑み、仲間たちに最強最悪の拠点づくりの指示を始めた。明日の大襲撃、敵はどれだけ驚き悲鳴を上げるのだろう。楽しみで心が弾んだ。


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