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ゲーム内で勇者でも、  作者: 新藤広釈
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その5の1


 その5の1


 クランを滅ぼすには、3枚の壁がある。

 まず、国境を決める5本の柱を倒さなければいけない。柱こと(レーダーポール)は高性能レーダーで、範囲内であれば身を隠していても索敵され、忍び寄ることができない。そして索敵されていると、誘導弾が利用できる。ランナーはそのフットワークから通常戦の誘導弾は避けるのは容易なのだが、遠距離からどんどん誘導弾が発射されるとさすがに逃げ切れなくなってしまう。そのために、まず柱を破壊しなければいけない。

 次に城壁。クランの街は城壁に囲まれている。四方にある門に、取り囲む鉄の壁は攻略困難。攻城兵器で1時間は攻撃し続けないと開門はできない。無論守り手はのんびり破壊されるのを眺めているわけもなく、攻城兵器を破壊しようとする。攻城兵器を守りつつ攻撃に耐えなければいけない。

 最後に(クランベース)。クランの中央にある国家の象徴。要塞化して反撃できるように改造もできるが、基本的には剥き出しの心臓と同じようなもの、ほぼ抵抗なく破壊されてしまう。つまり最終ラインは城壁だ。(クランベース)を破壊されればクラン滅亡となる。

『自由、無言、誰でも可。誰でもOK』クランは巨大な工場が(クランベース)として鎮座し、防衛兵器が置かれているわけでもないので1体でもランナーが入り込めば数十分程度で破壊されてしまうだろう。


 月明かりの中、百近いランナーが城壁を目指して駆けていた。

 身を隠す岩も山も木々もない。

真っ白でまっ平らな大地をただまっすぐ走り、次々と脱落していく。月明かりは思いのほか明るく、白い地面に反射して夜だというのにランナーの姿を闇が隠すことはできなかった。

 すでに(レーダーポール)が破壊された東側、勢いそのままに城壁へとなだれ込んだが、やはり城壁攻略はそう簡単ではなかった。

 後方より、巨大な盾を持ったランナーがゆっくりと前線に姿を現し始めた。走ることよりも守ることに重きを置いた巨大な甲冑を着たランナーたちは、城壁からの攻撃をものともせずに突き進んでいく。中ほどにたどり着いた彼らは地面に巨大な盾を地面に突き立て囲いを作っていく。

 囲いの中に巨大な荷物を背負ったランナーが駆け入り、荷物を展開していく。銃弾補充箱や簡易修理ポット、分解されて運ばれた攻城兵器が組み立てられていく。

 盾で作られたこの場が(簡易補給基地)後方にある(補給基地)では装備の変更、完全修理、簡単な兵器開発などができる。そして更に後方になる(基地)ではカスタマイズの変更、銃弾の製作、補給地に送る物資をすべて置く保管庫の役割がある。これらはプレイヤーたちが難攻不落のクランを攻撃するために試行錯誤の末にできたもので、公式ではない。そのために補給基地という名前も兵糧庫、集会所など言い方はいろいろある。

 守備側としては(補給基地)を叩かないと、(基地)から永遠と物資が送り込まれ時間はかかるが確実に滅ぼされてしまう。何とか補給基地の数を減らしていくのが戦いのキモになる。

 (簡易補給基地)の盾の壁から巨大な狙撃銃が伸び、守備側のランナーたちを狙撃し始める。狙撃を嫌った守備側の攻撃が減ってきたなら、スモークで目隠しし俊足のランナーが再び攻撃を仕掛ける。手にはランナー用の梯子や手投げ爆弾を持ち、城壁に居座る守備側のランナーに攻撃を仕掛け始めた。

 これが、十年かけて構築された攻城戦だ。

 しかし、その常識が通用するのは陸地のみであることを、攻撃側は思い知ることになる。スモークの中、次々とランナーが倒されていくのだ。

 〔コタロ〕の視聴者は、チームというわけではない。彼らは情報交換することもできず、視認もスモークで塞がれ数を減らしていく。

「ど、どうやってるんだ!?」

 驚きの声を上げたのは、守備側のランナーだった。

 新人の「ここは俺に任せて行ってくれ!」を実現したいがためにクランに加入した彼は、隣で横たわりながら狙撃を繰り返す古参のランナーに思わず声を掛けていた。

「城壁のタレット、撃ってるだろ? その先に敵がいるよ」

 頼むから攻撃を続けてくれという簡潔な返答だった。

 言われた通りに白い煙に撃ち込むが、なかなか命中しない。しかし、長くこのゲームをやってきた勘が少しずつ命中率を上げていく。

「なんてこった、タレットにこんな使い方があったのかよ」

 城壁の固定タレットは7年前に陳腐化している。ランナーの反応速度、装甲、武器の威力が増しほぼほぼ存在価値がなくなっていた。

「吹雪があるとレーダーポールが反応しない時がある。雪賊の奇襲はそういうときに限ってしてくるからな、生活の知恵だ」

 狙撃に狙われなかったランナーがスモークから出てきて手榴弾を投げつけるが、新人プレイヤーはハンドガンを引き抜き空中で破壊して見せた。古参プレイヤーが、今度は口笛を吹く。

「レーダーポールが機能しないなんてことあるのかよ。砂漠の砂嵐でも機能するんだぞ」

「攻城戦、タレットなしでどうやって守ってるんだ?」

「4年このゲームやってるけど初めての攻城戦だよ。レーダーポールが折れるのを始めて見た」

 新人プレイヤーは面白くなり、次々とスモークを投げつけてくる攻撃側が少し哀れにさえ思い始めた。

「みなはん、きばってますか!」

 明るい綺麗な声が響いた。

 真っ白なキツネ型のランナーが巨大リヤカーを引いてやってきた。その場に固定すると変形をし始め、大きな店へと姿を変えた。

「銃弾に手榴弾! 梯子返しに発光弾! いろいろそろって百パーセントオフ!」

 景気良く手を叩いていると、城壁を守っていたランナーたちが銃弾を求めて声を上げるも、持ち場から動くことすらできない。そこでその白いキツネ型ランナーは弾をもってそちらに向かう。

「堪忍な! うちは戦争ヘタやから、みなはんに任せっぱなしで! その代わり、うちの財産全部持ってて! ここがうちの家! ここがうちの守る場所やから!」

 彼女は『南極バンザイ!』のクラン担当していた〔滝夜叉姫0223〕。すでに南極バンザイはクランから手を引いたのだが、彼女は所属していた南極バンザイを抜け、わざわざこのクランに入りなおした。そして東側を守る将軍として選ばれたのだが、圧倒的数の暴力で(レーダーポール)を二つも倒壊させ、城壁戦にまで追い詰められていた。

「大丈夫だ、滝夜叉姫」

 狙撃銃を撃っていたランナーは銃弾を受け取り、時間をかけてリロードする。

「俺たちは負けない」

「こんなにランナーを撃ち放題なのは初めてだ、クラン抜けてここにきて正解だった」

 滝夜叉姫はコックピット内で微笑んだ。

「うちをすっからかんにとくれやす」

 彼女は銃弾を届け、店を再びリヤカーに変形させ移動し始める。手元の情報マップから青いラインに所々赤く変色していく場所がある。

「ほんまに、あん人どうやって銃弾が減ってる情報集め取るんやろか」

 足りない場所に必要な物を、滝夜叉姫の商人としての血が更なる戦場へと走らせていた。


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