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ゲーム内で勇者でも、  作者: 新藤広釈
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その4の4


 その4の4


 土曜の夜、『ランナーズ』にログインした。

 彼を迎えてくれたのは、青ざめた表情で〔レイラ〕と〔ナナ〕に〔撫子〕が駆けよってきた。

「何度も連絡したというのに! 襲撃は明日の昼なんですぞ!」

「なにやってんの! 敵の攻撃はもう始まってるよ! 明日の昼に戦えないメンツが攻撃している! あたしらを疲れさせるつもりよ!」

「大多数が離反! されど残りし者たち、新たに加入した者たちは曲者揃い! 物資に余裕もできこの戦いは耐えられるも、明日の総攻撃は耐えられぬかもしれん!」

 空を見上げれば、珍しく月が見えた。

 遠くからは戦いの音が聞こえ、怒声は聞こえるが悲鳴は聞こえてこない。まだ国の中に入られてはいないのだろう。

 〔湯豆腐〕はは受け取った情報に目を通し始める。

「・・・今日な」

 彼は呟いた。

「女に、フラれた」

 少し責めるようにソワソワしていた彼女たちの動きが、止まった。

「二人っきりになれて、勇気を出して告白しようと決心していたんだが、告白するまでもなくバッサリとやられた」

 彼女たちは、そっと視線をそらした。

「それは、その、ご愁傷さまです」

「そ、そっか、そっちも、大変だったんだ」

「し、しかし、いろいろと手回しを怠らない〔湯豆腐〕らしからぬ結果ですね」

 フォローするように、遠慮しつつ〔撫子〕の言葉に、ため息をついて空を見上げた。

「・・・リアルでやったら、ストーカーだろ」

 3人は「ああ・・」と頷いた。

「お気持ちはわかりますが、その、現状ですら、危ういというのが正直なところでして、どうかお知恵をいただければ、と」

「わかってるわかってる」

 手を上げ、独自に作り上げた戦場マップを開く。〔ナナ〕と〔撫子〕と共に見つけた補給基地が点々と書かれ、現在進行形で敵と味方の光が動いている。

 実際、今の時間が一番危険だ。「相手の体力を削るつもりがそのまま倒しちゃったよ」という事故が一番起きやすい。

「レイラ、知恵を貸してくれ。戦術はお前の方が上だろ、この戦局を維持してくれ」

「そ、そうですね、わかりました」

「あたしらはどうする?」

 〔ナナ〕と〔撫子〕は期待の眼を向けてきた。

 そうだなと、指示を出そうと小さく口を開き、閉じた。

「お前らは、どうするんだ?」

 逆に尋ねた。

「俺としてはこちらに寝返ってもらいたいんだが、どうする?」

 初め彼女たちは意味が理解できず首を傾げたが、ゆっくりと顔を青ざめさせ「ナンノコトデスカー」とごまかしてきた。

〔湯豆腐〕は首を振りながら肩をすくませ、手を広げた。

「スパイとして、いい仕事できただろ? クランの内情や進めている作戦の最前線の情報を得られたはずだ」

「そ、そんな!」

 〔レイラ〕が今にも卒倒しそうな表情で声を上げた。

「隠さにゃならんほどの情報がこのクランにあったか? 大体、クラン方針がすでにスパイ入り放題じゃねぇか」

「そ、それはそうなのですが・・・」

「どうせ知らられるんだ、こちらで情報を選んだ方がいいだろ? それに」

 〔湯豆腐〕は〔ナナ〕と〔撫子〕に笑みを向ける。

「全く手の打ちようない状態をしっかりと敵に伝えてもらわないと困る」

 〔ナナ〕は観念したようにため息をついて敵対的な視線を向けてきた。

「いつ頃から?」

 〔湯豆腐〕はまるで悪人のように笑った。

「スパイはいないかと探して、目星をつけて話しかけたんだ」

 二人は頭を抱える。

「わざわざこの時期に新規登録する奴は二通りだ。判官贔屓で派手に散ることを望んでる奴か、スパイかのどちらかだ。お前たちは、レイラから教わった中古ランナーを利用するという知識があり、初心者では扱えない遠距離武器、接近戦武器を主体にしていた。古参プレイヤーであることは間違いなかった」

「判官贔屓側の可能性があったわ」

「名を上げようと撤退狩りしていただろう。クランのためを思い活躍しているなら、レイラに紹介すればいい。もしスパイなら、利用すればいいそれだけのことだ」

 なるほどと彼女たちは頷いたが、ここら辺は大嘘だ。

 〔レイラ〕が戦術に長けているのと同じように、〔納豆巻き〕も優れている特殊能力があった。

 それは、何となくプレイヤーの性格、性質が分かってしまう能力だ。

 プレイヤーが駒になって戦いあう『エインヘリヤル』で結果が出せた理由だ。正直説明しようがなく、何となくいつも適当な理由でお茶を濁していたりする。

 もちろん〔ナナ〕と〔撫子〕も何となくスパイだなと分かったので利用しただけだ。

「もはやこれまで」

 〔撫子〕は腰に差した刀の柄に手をかけるも、〔ナナ〕がそれを止めた。

「あたしらは、どうすればいい?」

「俺に聞くのか?」

 〔ナナ〕はバツの悪い表情を浮かべる。言うまでもない、初めこそはいいカモと思い行動を共にしていたが、気づけば〔湯豆腐〕の後ろを付いていくことに違和感がなくなっていた。会って数日、もうすっかり依存していることに〔ナナ〕は気が付いていた。

「正直なところどうでもいい。お前たちは伝えてほしい情報をすっかり伝えきってくれたはずだ。自由にしてくれ」

 〔湯豆腐〕はフレンド登録を消去し、〔レイラ〕と防衛戦の話し合いを始める。今日は徹夜になるだろうと話しているその姿を、〔ナナ〕と〔撫子〕は寂し気に、むしろ嫉妬に近い感情を向けていた。


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