表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム内で勇者でも、  作者: 新藤広釈
13/29

その4の1

その4の1


 明かりの付いていない古い洋館を、4人の男女が歩いていた。

 絨毯で足音は消せているが、ぎしぎしと鳴り存在は隠し切れない。懐中電灯を手に前を歩く褐色肌の少年は息を殺しながら後ろの三人を導いていたが、止まるように手で制した。

「気をつけろ、何か聞こえた」

「大丈夫だよ」

 背の高い娘は手にした猟銃を慣れた手つきで持ち上げた。一階の暖炉がある部屋で飾られていた猟銃は弾数こそ少ないが貴重な武器だ。

 突如、何かを叩く音が聞こえてきた。

「後ろ、僕が見てる」

「気を付けてね! 前からも嫌な予感するよ!」

「わかった、俺と鳳梨が前。新広と涼華が後ろを見てくれ」

「わ、わかりました」

 後ろを歩いている少年は持ち歩いていた椅子を持ち上げ、髪の長い少女は投げつけるための本を用意する。四人は固まってゆっくりと廊下を歩いていると、後方から壁を叩き割るような音が聞こえ、正面からは人影がゆっくりと近づいてきた。

 緑色の、さほどリアルじゃないゾンビがゆっくりとこちらに近づいてくる。不意に襲われたのなら悲鳴のひとつも上げていたかもしれないが、こちらは準備万端、あっさりとゾンビを殴り倒してしまった。地に伏したゾンビは緑色の液体に変わり消えていく。

「はぁはぁ、よし、後ろの壁に穴が開いてるはずだ。もと来た道を戻ろうぜ」

 息が荒れる日に焼けた少年と、銃床などを叩きつけ銃弾を撃つことなく戦った少女は余裕の笑みで頷いた。

 彼らは来た道を戻ってみると、ゾンビが開けたのだろう壁に大きな穴が開いていた。すでにこの階はすべて調査済みで、やっと新しい道ができた。若者たちは頷き、その穴に近づいていく。

 懐中電灯で中を見ると、開かなかったドアの部屋に入れるようになったようだ。

「シュウゾウ、部屋を満遍なく照らしてみて」

「わかった」

 懐中電灯で明かりの付いていない真っ暗闇の部屋を照らしてみた。中に入れた周辺の部屋と同じような作りで、赤い壁紙に本棚。目に付くのは中央に本が置いてある、それぐらいだ。

「キーアイテムかな?」

「罠かもしれませんね」

「なんにせよ、入らなきゃ始まらんな」

 4人は身構えながら部屋に入った。身構える3人の中でもっと軽装の髪の長い少女が本を拾った。本を開いてみると、日本語でも英語でもない創作文字が描かれていた。

「魔法書のようです。どこかのキーアイテムなのかも・・・」

 ページの上に粉が振ってきた。

 言葉をつぐみ、天井に不自然な埃が舞っていた。

「上です! 部屋から出て!」

 天井から巨大なゾンビが落ちてきた!

 素早く廊下に逃げ出す面々だが、一人髪の長い女性だけが巨大なゾンビの手に押しつぶされる。

「スズヤカ!!」

 今まで銃弾を撃つも、今までのゾンビと違いダメージを感じているようには見えない。

「宮島さん!」

 椅子を持った少年は弾かれたように巨大ゾンビに立ち向かうが、振り回された腕に殴りつけられ動かなくなる。

「だ、だめ! 逃げて!」

「スズヤカ!」

 獣のように吠える巨大なゾンビを前に、日に焼けた少年は背の高い少女の腕を引っ張る。見殺しにできない彼女は最後まで抵抗するが、もはやどうしようもできないとわかると、二人の友人を残して背を向けて逃げ出した。


 久留亜はゲームハウスから出て思いっきり伸びをした。

 振り返ると、半透明な古い洋館が建っていた。看板には『ゾンビエスケープ』と書かれ、出入り口の近くには『来月の予定『バトルエイリアン』。空から次々と襲ってくるUFOをカウボーイやサムライになって撃退しよう!』と書かれている。

 周辺にも同じように変な建物が並んでいる。石造りの城や小さな安土城、大きなピエロの顔にガラスのコップもある。もとになっているのは小さな箱のような建物なのだが、立体映像でそう見せかけていた。

 肉体改造をせず電脳世界へ入れる装置は、かなり大がかりになる。VRゴーグルでは味わえないリアルな体験ができる施設なのだ。

 ここは日本一巨大なゲームタウン『大喝祭』。一昔前のこと、東京は世界一発展した都市だった。しかし移動速度、通信速度が向上するにつれ東京で働くメリットが失われ、企業用に作られた都市から人がいなくなった。人が暮らすには快適な街ではなかった。

そこで一区画すべてを使い、巨大なゲームセンターを作ったのが、この『大喝祭』だ。ここでは場所を取るゲームが置かれ、多くの人が集まるアミューズメント施設として成功している。

『今日も大喝祭に来てくれてありがとー! 新作ゲームを紹介するのはゲーマーアイドルのノアでーす! 新曲出るからそっちも買ってねー!』

 道の所々に設置されたポールから、人気格闘ゲームのコスプレをした女の子の映像が映し出されていた。赤い学ランに鎖を全身に巻き、腰には鎌が下がっている。格闘ゲームの、かなり通好みのキャラクターのコスプレだ。彼女は色物使いとして有名で、本物のゲーマーとして好感が持てる。

「あ、宮島さん。お疲れ様です」

「はい」

 久留亜の心臓が跳ねた。

 施設から涼華が出てきた。そして、宗像と鳳梨は当分出てきそうにない。絶好の、チャンス到来なのだから。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ