その3の4
その3の4
学校へと向かうバス停とは反対側の道、普段の生徒は通らない漁師だけが利用している道の先にある砂浜。セメントの階段に腰掛けて、宗像はじっと海を眺めていた。
いつもならすぐ頭を撫でてくる宗像らしからぬ雰囲気に、さすがの久留亜も身構えた。
「俺、好きな子ができたんだ」
久留亜は思わず立ち上がりそうになった。
「へ、へぇ、そうなんだ」
「鳳梨が、その、好きみたいだ」
思わずそこら辺を駆け巡りたい衝動に襲われた。
「そ、そうなんだ! なんか、急に、どうしたの!?」
「やっぱ急だよな。俺ン中でも急で、整理がつかなくてな」
急じゃないよ、むしろ遅すぎるよ!
他校の生徒も全員注目の的だよ! 鳳梨さんも宮島さんもずば抜けた美人で、君もあわよくばと思ってる女子ばかりだよ!
青い海に向かって大きく叫んでやりたかった。
「なん、つーか、さ。あいつとバカやってると、すげぇ楽しんだよ。あいつとゲームしたり、キャンプしたりしてさ」
キャンプ!? 男女で!?
もう過ちがないはずがないよ!?
「二人で星を見ててさ、もしかすると、俺、鳳梨のこと好きなのかなって・・・」
そりゃもう好きになってあげて!
男女がキャンプに行って星を見上げたらもう好きになってあげて!!
「う、うん。いいじゃん」
久留亜の表情は引き攣っていたが、宗像はテンパってそれどころじゃないようだ。
「で、よぉ。俺、どうしたらいいと思う」
消え入りそうな声で言ってきた。
「告白すればいいじゃん」
「だっ、だけどよ! その、フラれるかもしれねぇし」
黒い肌を真っ赤にしながら、消え入りそうな声で呟いた。
「友達みたいな、もんだし。いきなりだし、こんなこと思ったことなかったし、フラられたらショックっつーか、よく言うだろ、初恋は実らないとかなんとか。だからさ、このままでもいいかもとか思うじゃん」
久留亜はひどく驚いた。
あの竹原が、あのカッコいい田舎男が、こんなに動揺してるなんて。小学校の頃からずっと一緒だったが、こんな友人を見たことがない。
「それでいいの?」
「で、できればよくねぇけどさ」
小さく息をつく。
「告白するべきだって」
友人の口は真横に伸び、そして深く頷いた。
「やっぱ、そう思うか?」
勝ち確定なのだ、当然だ。
しかも自分が好きな涼華じゃない。
胸の中に「卑怯者」という声が聞こえてくるが、卑怯で何が悪い? と言い返した。
「ずるずる引っ張って結局何もないまま卒業、なんてことになるよ」
「うぐっ、確かに、ここでスパッと言わないとずるずるするイメージがわくわ」
渋い顔で頭を掻く。
「それに竹原らしくないよ。フラれるかもしれないか今のままでいいんだ~なんてさ、女の子みたいだ」
「なんだとぉ?」
宗像は久留亜の頭を掴み、水色の髪をわしゃわしゃわしゃ! 撫で始める。
「新広のくせに生意気じゃねぇか!」
「やめてよ! もう!」
気が晴れて久留亜から離れると、宗像は大きく息を吐きだした。
「よーし、告白してやる」
まるで自分に言い聞かせるように宣言した。
「海の男が女一人にビビってたまるか」
「その意気だよ」
そして、座り込み少し横目でこちらを見てきた。
「お前がいてよかった」
ズキっと、その言葉が突き刺さった。
僕はどうだ?
いつもへらへら笑って、宮島さんじゃなかったことにラッキー! なんて思っている。本当に彼の友達と胸を張って言えるのか?
「竹原でさえこんなに憶病になる。恋愛なんだから当たり前だ。それなのに現実じゃ勇者になれない、なんて諦めて、なんて卑怯者なんだ!」
僕は勇者じゃない。
勇者じゃないけど、勇者になろうとすることが大切なんだ。そうじゃなきゃ竹原の友人だなんて言えない!
久留亜もまた、覚悟を決めた。