その3の2
その3の2
空からカプセル状のバスが降りてきて、ゆっくりとバス停に着陸する。乗客を入れると、すぐに再び飛び上がった。
バスは雲を飛びぬけ、上空を、まるで空舞う龍のような電車に近づいていき、ゆっくりとドッキングした。バスに乗っていた乗客はすぐにバスから電車に乗り換え、長い通路を早足で進みながら目的地のバスが止まっている場所へ向かう。
久留亜も急いで電車内を移動してバスに乗る。東京から10分なので乗り遅れたら大変だ。乗り遅れても5分後になるだけだが。
乙の字の長椅子に腰掛け、すぼめていた肩をやっとリラックスさせる。東京とう都会っ子という目で見られるのが恥ずかしくてしょうがなかった。
いまクールな生き方と言えば、田舎で暮らす事だ。都会はあまりに全自動化が進みすぎ、まるで檻の中で飼われているかのよう。できるだけ自然な生活を行うのが流行りなのだ。
そしてなにより久留亜が恥ずかしいのは、東京では全自動化が進みすぎ衣食住がほぼ無料。つまりダサい東京に暮らしているのは事故などで働けない人か、低所得者、もしくは無職者たちが集まり暮らす地へと変貌しているのだ。
「僕も竹原みたいに田舎で暮らしたいなぁ」
今日も朝から漁の手伝いをしてたから眠たくて寝てた。くぅ、カッコいい!
まさしく現代っ子が憧れる男子像こそ、竹原宗像だ。ぶっきら棒で日に焼けた肌、ボサボサの黒髪もポイントが高い。それに比べて自分は・・・
幼い頃から合成食糧を食べ続けたせいで栄養価があまりに整いすぎ、肌の色は不自然なほど白く体格はガリガリ。数十年前なら「妖精のような人が素敵」なんて時代もあったらしいが、今ではただただ不摂生の証でしかない。
「ああ、もう。せめて宮島さんぐらい身長があればなぁ」
バスは電車から切り離され、雲を抜けたのだろう何も映っていなかった窓に外の風景が映し出される。視覚的にはゆっくりと、小さな島へと降り立った。
降りるのは自分だけ、ちょっとだけ田舎人っぽく思えて気分よく降りて、海沿いの道路を進んで学校へと向かう。今時アスファルトの道というのが古臭く田舎っぽくて好きな道だ。少し不満なことを言えば、古い堤防なので久留亜よりも背が高く海を眺められないことだ。
堤防がなくなったころに学校にたどり着く。広いグラウンドにちょこんと木造の建物が見える。まるでアニメにでも出てきそうな校舎に向かうのが、久留亜の喜びだ。
「うーっす、新広」
「おはよう、竹原。朝は元気だよね」
運動部が練習しているわけでもない広いグラウンドを横切っていると、小走りで宗像が追い付いてきた。彼は制服を着崩して、青いタオルを首に巻いて汗を抜いている。
「親父が漁の荷物を運ばされるんだよ。ったく、学校前に働かせるなって話だよな」
かっこいい・・・
女子が聞いたのなら確実に落ちるだろうセリフ。
人口食糧が作られるようになり「血を見るだけで怖い!」「生き物を殺すは残酷!」という時期を通り過ぎ、今は「私の体の中にだって血が流れてる!」「いつから人間は神になったつもりなのか!」という状態になっている。
そりゃもう、鳳梨と涼華が首ったけになるわけだ。
「ゲーム内で勇者でも、現実じゃこんなもんだよね」
「ん?」
「あ、うん。今日も昼まで寝ちゃう感じ?」
タオルで汗を拭きながら宗像は苦笑を浮かべる。
「今日は寝ないさ。くそ、生意気な!」
「うわっ! 汗臭っ!」
アームロックをしてわしゃわしゃ頭を撫でまわす宗像から逃げ出そうとするも、しっかりと絞められ逃げられなかった。