その1の1
その1の1
姿見の鏡の前で、一人の若い男性が立っていた。
十八歳ぐらいの東洋人、整いすぎた顔つきはまるで人形のようだ。上半身裸で、体毛もないプルンとした綺麗な体を傾けながら観察する。流行おくれの人形のように綺麗な体だ。
「そうだなぁ・・・白人にしてみて」
鏡の中の少年が、突然ムキムキマッチョの姿に変貌した。強調された割れた顎に、丸太のように太い首はもう首がないようにすら見える。
「日本人って、外人にどういう偏見持っているんだろう」
うんざりしながら、ゆっくりと筋肉を減らしてほしいと言うと、ゆっくりと筋肉が減っていく。今だというタイミングでストップをかけた。多少脂肪の乗った細マッチョ、映画の俳優、洋楽のミュージシャンぐらいの体型にした。
次にカツラでもかぶっているのかと思うほどポマードで固められた髪を手串で乱す。
「そうだな、体毛を少しふやして――」
ぼっ
一瞬にして黄色い毛の雪男に早変わりした。
大きくため息をついて「これだから和製ゲームは・・・」と愚痴りながら、慎重に言葉を選ぶ。
「そうだな、まずはブロンドからブルネットに変えてくれ」
黒サルへと姿が変わる。
「腕、足、胸以外の毛を産毛ぐらいにしてくれ。腕、足、胸の毛の量を減らしていくぞ」
こちらの理想を理解してくれていないのだろう、まるでトイプードルのように変わっていた。これはこれで面白いが、この分からず屋に対し子供に諭すように体毛をゆっくりと消してくれと頼んだ。
すると、容赦なく体毛が消滅した。
「極端か!」
イライラした気持ちを抑え込みながら、納得がいくまでトライ&エラーを繰り返す。
「何かしっくりこないな。ああ、そうか、年齢を30代前半ぐらいにしてくれ」
するとみるみる肌の色がくすんでゆき、目がくぼみどう見ても老人に変わった。
「・・・上等だ、最後までやろうぜ。年齢を戻してくれ」
再び青年に戻ると、一歳ずつ年齢を増やしていく。いい感じになり始めたら一か月ごとに年齢を増やしていき、何とか理想の姿に変わることができた。
望んでいた見た目年齢は18歳と、7ヵ月24日で決定する。ガタイがよくメリハリのある顔つきだ。少女漫画の美男子から劇画タッチの青年に変わったぐらいの変化だ。
「よし、次は少し身長を高く、高すぎだ! 無精ひげを、無精ひげだって言ってんだろ! 目は少しタレ気味で、エロ目にするな! 肩幅を少し広めに、なんでマッチョにするんだよぉ!」
そのような悪戦苦闘は、7時間にも及んだ。
「まぁ、こんなもんか」
堀の深い顔つきに神経質そうな眼つき。不満げなへの字の口に青みかかった無精ひげ。髪はくせ毛で短く、頬がこけているほどに痩せていて顔は長い。体型は少し猫背気味で、元は張り詰めた筋肉に覆われていただろうが、今は少し脂肪がついてしまっているといった体。体の所々に古傷があり、イメージ的には30代後半、退役軍人、戦争は嫌だが軍事に関わる仕事しか能がないので仕方なく傭兵をしているオッサンというイメージだ。笑みを浮かべると野太い、野性味あふれる表情に変わるのがお気に入りだ。
「容姿は終了。次は何だ?」
姿見の鏡から離れると、簡易ベッドの上に置かれていた書類を手に取る。
「ああ、名前か」
あとは適当だ。
「名前か、名前ねぇ・・・えっと〔湯豆腐〕でいいか。所属は・・・確かレイラ、レイラ何とかって人なんだけど、調べられないか?」
体が勝手に動き、書類をめくる。するとレイラという名前のキャラクターが並んでいた。ゆうに300人以上いる。
「あー・・・クランリーダーで、自由にどうぞみたいな名前のクランだ」
再びぺらりとめくると、一人だけヒットした。
「レイラ・ランフォード・グレン。『自由、無言、誰でも可。誰でもOK』クラン。うん、ここだ。ここに所属する」
すると急に風の音が聞こえ始めた。すりガラスで外が見えなかった窓が透明になってゆき、白銀の世界が見え始めた。
「聞いた通りだ、ここで間違いない」
書類にOKと書き込むと、今度は扉のないクローゼットの前に立つ。
左側に3Dの衣類のテキストが浮かび上がった。スライドしながらいい服はないものかと選んでいく。外が寒い地域なのでコートがいいだろう。軍服は将官ばかりで戦闘服がないので白いシャツに緑のズボンにブーツを履いて、ダッフルコートでお茶を濁した。
「これでOK。あとは何かあるかい?」
体は勝手に動き、外に出た。
短編を書き直してたら、えらいことになった。