彼は不機嫌だ
最悪の夢を見た。俺の過去だ。断片的な記憶を基にした夢だったがそれは痛い記憶を思い出させるのには十分だった。人には誰しも黒歴史というものがあるだろう。二股をした経験とか人それぞれ様々だ。だが俺は普通の人に比べてより黒い歴史を持っている。それは学校を変えなければならないほどの歴史だ。こんな時期に学校を変えるほどだ。俺は多分一生この過去を忘れられない。そう一生…
最悪な夢を見ても学校はある。当然だ。今日は嫌な夢を見たので学校を休みますなんか通じたら皆悪い夢見たがるだろ。そのうち眠いから休みますも肯定されるようになるぞ!
「立花くん。どうしたの?顔が悪いようだけど。」
「顔は悪くないわ!いや悪いか。うっせえよ!顔色が悪いだろ。省くなよ!」
朝っぱらから藤野の罵倒を受けなければいけないとは、まあいい。
「色々模試の勉強とかあんだよ。疲れてて嫌な夢も見たしな。」
「やっぱりあなたも本格的に勉強を始めたのね。まあ八回連続も全国一位を取っている人の努力なんて生半可なものじゃないと、万年二位でもわかるわよ。」
「皮肉かよ。まあ今回も頑張らせてもらうよ。」
夢の内容に触れなかったのはこいつなりの優しさだろうか?いやないな。大して興味がなかっただけだろう。
「友喜。藤野さん、おはよ!」
「おう。」
なんだかんだいって今藤野と相崎が一緒にいるが三人揃うのは久しぶりじゃないか?前相崎は少し藤野が苦手なのではないかと思ったがそれほどでもないのか積極的に相崎は話題を提供していた。藤野は会話のペースに少し戸惑いながらもしっかりと相崎の話を聞き返答している。少しぎこちないが友達のようで安心した。これで元どおりの道へ進めるというわけだ。
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教室に入ったらクラスは相変わらずグループに固まって喋っている。霧間グループは声がでかく態度も大きい。まるで王様の気分のようだ。まあそうなのだろう。事実スクールカーストのトップにいるのは霧間だ。
その傍ら隅っこの方に少し地味そうな人たちが、そしてもっと目立たないところに俺と藤野がいる。俺と藤野は長年連れ添った夫婦くらい会話がない。それは会話がなくても相手の言いたいことがわかるからではない。ただ話したくないからだ。藤野を嫌いなわけではない。ただ毎回毎回休み時間に友達と固まって話すなんて疲れるだけだろう。登校は一緒に来たんだ、だからホームルームが始まるまでくらい一人でいるのも悪くない。多分藤野も同じ考え方だろう。
目を惹く人物がドアから入ってきた。いやこの表現は間違っているか。彼女は目立っているわけではない。ただ俺が勝手に意識してそのせいで目立っているように感じるだけだ。そう、水野が入ってきた。
水野は席に着くと友達と話しに行くことなく一人座って黄昏ていた。なんであいつ一人でいんだ?まるでぼっちみたいだな。特大ブーメランが刺さるのを確認した俺は少し凹むがまあ仕方ない。
「ねえ、昨日部活来なかったでしょ?最近来てないけどどしたの?」
「別に私の勝手でしょ。今はただ水泳が楽しくないから行ってないだけ。そのうち行き出すからほっといて。」
「飽きたから来なかったっていうわけ?なら退部してよ!」
いきなり喧嘩が始まった。水野と…相手の方の名前はわからん。俺が覚えていないということは最初から覚える気がなかったのだろう。我ながらクラスメイトの名前を覚えていない高校生がいるのかと不安になる。その最中喧嘩はどんどん勢いを増していった。
「なんで?それだけで退部しなきゃいけないなんて分からない。別に部員には迷惑をかけていないし、私の勝手じゃない?たしかに行かなかったことは褒められることではないけれど咲に責められるようなことじゃない。」
やばい…めっちゃキレてる。怖い…
女子って怖すぎだろ。
「なに逆ギレしてるの?たしかに退部してって言ったのは悪かったけど…」
だめだ。完全に平行線をたどってるぞこの喧嘩。
仲介人がいないと喧嘩なんて治らないだろ。まあ俺が仲介人になる気はないのだが。でも知り合いが喧嘩しているのに知らん顔するのは気が引ける。
「あのお前ら…」
「立花?何の用?」
咲と呼ばれていた少女が明らかに不機嫌な顔で俺に答えてきた。そんなに敵意剥き出しじゃなくていいのにな。
「あなたには関係ない話だから入ってこないでくれない?」
「え…いや俺もさこんな大声で喧嘩されて迷惑してんだよ。明らかにお前らの会話は平行線をたどってるしよ。」
「ねぇ咲。立花は関係なくなんかないよ。」
水野が助け舟を出してくれてる。ありがたい。少し俺も敵意剥き出しにされて気が弱ってしまったからね。
「だって立花は私の彼氏だもん。」
は?




